第二十五話 【雑談】守人姉妹と初めての共同作業!



「地球圏にお住まいの皆様、こんかた~。

 異世界のつよつよ美少女、カタリナ・フロムです」


「我々はリリストアルトの防人であるっ。

 カタリナお姉ちゃんの妹、アネット・フロムだよ~」


【よっ、待ってましたっ】

【こん、、、なに?】

【唐突な謎挨拶キターーーー】

【アネットちゃんは何故急に断定口調に? 何かのネタ?】

【さあ……?】

【うっ 映画があったのに、最近の人は知らないのか……】

【やっぱ中の人はだいぶ上の年代説が有力だよなあ】


 料理配信の一週間後。

 とある予定を遂行するため、私たちは我が家のリビングに集まっていた。ついで、後ろに佇む残りのメンバーも紹介する。


「はい、というわけで今回はスペシャルゲストに来ていただいております。

 約一週間ぶりの登場、残念姉妹ですっ」


「防人のタニア・ロッテンよ。

 リスナーのみんなにはカタリナが迷惑をかけるわ」


「ふんっ。本当ですよ。

 お姉さまの足を引っ張らないよう、くれぐれも気を付けておくことですね」


【よっしゃっ 推しのタニアちゃんきたっ】

【相変わらずどっちもかわええなああ】

【個人的にはタニアちゃんのメスガキ感も良きです】

【分かる、男のあれでわからせたいよなあ】

【は? メスガキはメスガキのままがいいんだろうがっ】


 残念姉妹の登場に、今まで以上に沸き立つコメント欄。


 ……な、なんか料理配信の時から私のファン離れが顕著になってる気がするっ。

 どうしたらいいんだろう? 全然女の子っぽくないって自覚はあるんだけど、カメラの前で可愛いポーズとか撮るのって結構恥ずかしいだよね。

 

 と、ともかく今は先に進めよう、と机の上に並ぶ和紙の束を写した。


「えー、今回は春のお花見に向けて、この和紙たちを全部紙飛行機にしていきたいと思っています。

 ここナキア村では桜が満開に咲いた日はあの世とこの世の境目が曖昧になると言われていて、みんなで「ここにいない誰か」への言葉をこの紙に書いて空に飛ばすんですよ。

 その時に手先が不器用な常者でも飛ばせるよう、私達が事前に折り目を付けておくって感じですね」


「毎年家に紙が配られたらこうして持ち寄って、ある程度は一緒に折っているのよ。

 紙を折れるのがマハタ様と私達稀人しかいないし、お父さんたちとかシルビオたち狩人は忙しいから、私たちがほぼ全員分やるしかないのよね」


【ははあ なるほどねえ】

【仕方ないかもしれないけど、出来る人が雑用を押し付けられる、って感じやな】

【うっ 頭が痛くなってきた……】

【世の中どこもホワイトってわけにはいかないんやなって】

【全部で何枚あるの?】


「全部で約1000枚、一人250枚がノルマですね。

 今年はアネットがいるから、これでも大分ましなんですよ? 去年なんか全然終わらなくて、結局前日の夜に家族全員で徹夜して終わらせましたからね」


「……それは馬鹿カタリナのせいじゃないですか。

 私たちは花見の一週間前には既に終わってましたよ?」


「うぐっ。い、いやあそれは、あの、ちょっと誤算があったというか……最悪、10秒で1個折れれば、半日で終わると思っていたというか……」


【で、でたああー

 先送り癖の人が良く使う、○○秒で○○すれば理論だアアア】

【それまでサボってきた人間がそんなに効率よくやれるわけないんだよなあ……】

【カタリナちゃん

 さては君、夏休みの宿題は最終日にまとめてやるタイプだね?(名推理)】

【名推理も何も最初から薄々分かってただろwww】


「ぐぅ」


 リスナーの一人にズバリと指摘され、思わず苦悶を漏らす。

 く、この話題は明らかに私に分が悪そうだね。ここは戦略的撤退を選ばせてもらうよっ。


「それじゃあーー」


「全く、みんなは分かってないな~。

 カタリナお姉ちゃんはこのダメさ加減がいいじゃん。……正直このまま大きくなって、私の介護なしには生きられないようになってほしい」


「ちょ、ちょっとアネットまで何言ってるんですか!?」


【????】

【おおーと、また変な幻聴が聞こえたみたいやなあ】

【大丈夫大丈夫 俺たちには何も見えてないし聞いてないから】

【お二人はどうぞ続きを】

【ワクワク】

【ドキドキ】


「……なるほど。その手もあり、ですね」


「っ」

 

 コンボしていく不幸の連鎖。

 不気味に笑うサーニャに、タニアが助けを求めるような瞳をこちらを向ける。

 私は体面の彼女たちから、そして隣に感じる妙なプレッシャーからも目を離して、誰もいない天井を見上げた。


 ……はたから見てたら面白かったけど、お姉ちゃんになるって大変なんだなあ。

 今度からサーニャにもっと優しくしよう。

 

「さ、早速始めましょうか。

 誰が一番多く折れるか競争ですっ」


【見なかったことにすんなwww】

【俺たちは一体何を見せられていたんだ……?】

 

 色んな感情全部を押し込んで、私たちは折り紙を折り始めてーー





「飽きました。

 単純作業の合間には休憩も大事ですよ。運動しましょう、運動っ」


【実家のように見慣れた光景】

【まだ5分しか経ってないんですが、それは?】


「カタリナお姉ちゃん、もうちょっと頑張ろう。

 じゃないと、さっきいったことほんとに……ね?」


「あっ、はい」


 なんて背筋が凍るような恐怖体験に襲われたりーー





「全くなにモタモタしてるんですか、カタリナは。

 ほら、残り分けてください。仕方ないから手伝ってあげますよ」


「へ?

 ……サーニャが私に優しくするとか明日は槍でも降るんですかね?

 それともタニアの秘蔵写真をご所望ですか? 残念でしたね。さっき私とタニアは同志になったんです。シスコン被害者なかまを裏切るなんてそんな酷いこと私にはとてもとても……小さいとき一緒に入ったプールの写真でどうですか?」


「っ!?」


「別に、深い理由はありませんよ。

 ただおばさんたちに迷惑を掛けたくないから、それだけです」


【お、ツンデレきた?】

【何だかんだ愛されてるよなあ、カタリナちゃんって】

【めっちゃわかりづらいけどなww】


「……意外と彼女が一番のライバル、かも?」


 見知った幼馴染のそんな珍しい行動があったりしながら作業は進みーー






「お、終わったあああああ」


【パチパチパチ】

【お疲れさまでした】

【いや、これはマジで頑張った方なんじゃないか?】

【たしカニ】

【良い感じの作業配信だったなあ 俺も仕事がめっちゃはかどったわ】

【やっぱり誰かの頑張る姿を見るとやる気が出るよね】


 約三時間後にも及ぶ作業を予定通り終え、私は開放感のあまりに腕を突き上げた。

 机の上に並ぶのは折り目が付いた無数の和紙と、最初の半分以下の高さになった和紙のタワー。


 うう、頑張ったよ私達。もう、ゴールしてもいいよね……?


「とはいってもまだ半分近く残ってるから、後は自分たちでちゃんとやるのよ?」


「大丈夫だよ、二人とも。

 カタリナお姉ちゃんのことは全部私が管理するから」


「それなら安全ね」


【安全? 安全とは一体……?】

【アネットちゃんが完全にママ化してる件について】

【アネットちゃんが? ちがうだろっ 

 俺たちがアネットちゃんのママになるんだよっ】

【↑ごめん ちょっと何言ってるか分からない】


 アネットたちが何か変なことを言ってるけど、気にしない。

 今はただこの心地よい疲労感に浸っていたいのさ。あ、そうだ。


「ここまで集中して出来たのは、三人ーーそしてリスナーの皆さんのおかげです。

 本当にありがとうございました」


【お、おう】

【急な不意打ちは心臓発作起こすからやめてもろて】

【相変わらずだなあおまいらはww】


「えへへ。どういたしまして」


 可愛らしい笑顔で笑うアネットと、緩く頷くタニアとサーニャ。

 こうみるとあの二人も凄い綺麗だよなあ。……よく考えたら前世だと女友達すらいなかったら私がこんな子たちと仲良くやってるって凄い奇跡じゃない、これ? 

 ま、今はいいか。


「さて。それじゃあ今回の配信はここまでです。長時間配信にもかかわらず最後まで付き合ってくれて、本当にありがとうございました。

 どうか皆さんに素敵な幻想がありますように~」


【ばいかた~】

【素敵な幻想がありますように】

【素敵な幻想がありますように~】

【素敵な幻想がありますように】


 ……。





「……あの、カタリナ。

 昼に言ってたことは本当なんですか? あの、お姉さまのプールの写真があるって……」


「あー、はい本当ですよ。見ます?」


「見るっ」


 その後タニアがいなくなった瞬間を見計らって、サーニャはそうこっそりと聞いてきた。

 うん、やっぱりサーニャはこうでないとね。


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