第三話 【料理配信】世にも奇妙な異世界料理店、開店です!



「……お母さん。本当にやるの?」


「ええ、あったりまえよ」


 翌日の昼、自宅の厨房にて、今回の企画の発案者たるお母さんがやる気満々という感じで握り拳を作っていた。


 うーん。大丈夫、なのかな?


「カタリナ。少し付き合ってくれるかい?

 母さん、昔から料理番組に出演することに憧れていたみたいなんだ」


「ま、まあ私としては願ったり叶ったりなんだけどね……」


 ふんふんふーんとご機嫌に鼻歌を歌うお母さんが提案してきたのは、二人で料理配信してみない? というもの。

 確かにそれなら世界観に触れることもできるし、何より私ひとりじゃ無理だからありがたい話ではあった。


 ただ中には良識のないコメントもあるわけでーー


「ほら、カタリナ。さっさとやるわよっ。

 お父さんも位置について」


「はいはい」


「……ま、いっか」


 妙にノリノリな二人を見ていると深く考えるのも馬鹿らしくなってきた。

 急に内容を変更するのも印象が悪いし、何かあったらその時考えればいいや。


「それじゃ、始めるよ」


 タブレットを構えたお父さん(因みに両面にモニターが付いてるから、私たち側からのコメントを確認できる。ご都合主義万歳!!!)の掛け声のもと、生放送が開始される。


【こんばんわー】

【新作きたっ】

【横にいる美人さんは誰???】


 生放送のタイトルは「【料理配信】世にも奇妙な異世界料理店、開店です!」。開始数秒にも関わらず、ぽつりぽつりとコメントが流れていた。


 一拍置いて、お母さんが何だか手慣れた様子で話し始める。


「さあ、始まりました。異世界クッキングのお時間です。

 司会兼シェフは私、カタリナママが。アシスタントに我が不肖の娘、カタリナを、カメラマンに夫のカタリナパパを置いて番組を進めていきたいと思います。

 視聴者?の皆さん、よろしくお願いします」


「どーも、いきなり主役を奪われたカタリナ・フロムです」


「えー、ご紹介にあずかりましたカタリナパパです。

 今しばらく妻のお遊びにお付き合いください」


【何か見覚えのある番組が始まったあああ】

【カタリナちゃんのお母さん!?】

【唐突な両親登場ww】

【わっっっか。これならまだ……】

【おい、何かやべー奴いるって】

【ママさんに比べて、残り二人のローテンションさよ】


「今回作っていくのは家庭料理の定番、肉じゃが。

 カタリナ、肉じゃがの作り方は?」


「えー、肉と野菜を切って煮込みます。以上っ」


【適当やなあ】

【間違ってはいない……のか?】


 お母さんの呆れた視線と心なしか冷たいコメントにさらされる。

 し、仕方ないじゃん、全然興味ないんだもん。


「それじゃあ、まずはお野菜を切っていきましょうか。

 カタリナ、包丁と食材を」


「はい、どうぞ。

 あ、そうそう。皆さん、グロ注意かもです」


 お母さんにザルに入ったそれを渡す傍ら、リスナーさんに注意喚起。

 出来れば変な炎上はしたくない。


【ホームビデオって感じでいいなあ】

【肉じゃがでグロ注意とは一体……?】


「最初の食材はこれ、ジャガイモムシです。

 まずはこれを食べやすい大きさに切っていきます」


 そういってお母さんが掲げたのは、うにょうにょと動く手のひら大のそれ。


【???】

【いきなり知らない食材が出てきた……】

【ジャガイモが、、、動いている?】

【芋虫? 嫌な予感がががが】


「○○さん、正解。

 ジャガイモムシはその名の通り、ジャガイモと芋虫が合体した生き物です。

 私たち流者の根源は、地球に生きる皆さんの”もの”に対する強い感情。私たちが生まれる過程で色々な”もの”に対するそれが混ざってしまうんですよね」


【強い思い……自然信仰とかそんな感じ?】

【はえー、面白い設定やな】

【あ、切ったら普通のジャガイモだ】

【うーん、でもなあ……変な緑色の液体ついてるし……】

【うわ、ほんとじゃん】

 

 お母さんが緊張しながらイモムシを切っている間にコメントを確認していく。

 見たところ、この不思議な生態に否定的な声が多いようだ。


「慣れですよ、慣れですよ。

 ここじゃあ背中に花が生えたゴキブリとかが普通に育てられていますからね」


【まじか。異世界も結構大変なんだなー】

【でえじょうぶだ。日本でもコオ〇ギ食っていう昆虫食が大人気だから】

【おいばかやめろ】

【大人気()】


「へえ、今はそんなのがあるんですね。

 ……私だったらごめんですけど」


【急にはしご外すじゃんw】

【そりゃそうよな。ほんと誰が普及させたいんだか……】

【そーいや、リリストアルトだっけ? そっちでは地球はどんな扱いなんだ?

 今も日本語を話してるし、こっちの常識とかも知ってるっぽいよね】


「あ、生き物だけじゃなくて地球の物品とかも流れてくるんですよ。それで把握してるって感じです。

 ただ元々が少ない上に最近はその量も減ってきたので、結構なジェネレーションギャップがあると思いますよ」


【なるほどね】

【ジェネレーションギャップって言葉も今日日聞かなくなったよなー】

【つまり中の人はそれくらいの年齢、と】

【カタリナちゃんに中の人なんて、いないっ】

 

 とまあこんな感じで料理は進み、最終段階の煮込みに入ってーー


【あの、、、カタリナちゃん結局何もしてないんですが】

【アシスタント(リスナーの相手)】

【最初はノリノリだったママさんが料理に集中してほとんどしゃべれてないのが、こうーーぐっと来るよね】

【まあ、作りながら話すのも訓練が必要だからなあ】


「あの、カタリナに料理の腕を期待しないでください。

 カタリナの料理は月に一回食べるくらいで十分です、本当に」


「ええ、お父さん酷いっ。

 最近は二人とも最後まで食べてくれてるじゃんっ」


「そうね。何とか食べれるものにはなったわね……」


「母さんの完全介護でな……」


 私の言葉に遠い目をして黙ってしまう二人。

 ……そ、そんな酷いのかな?


【「悲報」カタリナちゃん、料理下手属性だった】

【またべったべったなのが来たなー 大袈裟に言ってるだけじゃないの?】

【ママさんの目を見ろ あれは何かに絶望した時の目だ……】


「うるさいですよっ。大体皆さんだってまともに料理とかしたことないでしょう?」


【いや、、別に?】

【まあ、今は男でも自炊する時代だからなあ】

 

 うっそだろっ。最近のニートしっかりしすぎだろ(失礼)。

 さ、流石にここまで女として惨敗なのは元男としてクルものがあるなあ。

 

「お母さん、私。やっぱり花嫁修業を頑張るよ。

 そして可愛い女の子を捕まえてみせるっ」


「カタリナ……そんなに思いつめなくても大丈夫よ。

 女はとにかく愛嬌。きっとカタリナでもいいと言ってくれる人は見つかるわ」


「……あ、あの、私別に男と結婚することに絶望したわけじゃないよ?

 普通に女の子が好きなんだよ?」


【キマシタワーーー!!】

【よっっしゃああああああ】

【百合展開キボンヌ】


 物凄い盛り上がりを見せるコメント欄。

 やっぱり今は女の子同士の恋愛が人気があるようだ。私としても無理しなくて済むから、その方がありがたい。


 待ってて、まだ見ぬ美少女たち。

 この世界で私は百合ハーレムを作ってみせるっ。


 私はそんな最低な夢を心の中で思い浮かべたのだった。


 あ、因みに配信は円満に終わって、肉じゃがはおいしく食べました、まる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る