16 見せて
「水無瀬さんには、今日迎えに行った時の俺が感じた気持ちがわからないかもしれないけど……あいつ。復縁が出来ないからって……嫌がらせしようとあんな事まで言い出して、絶対に許さない。俺は別に水無瀬さんの過去があってもどうとかは、思わないけど……一瞬だけ、想像してしまった。俺の知らない、あいつの前での水無瀬さんの姿」
芹沢くんの長い人差し指は、私の口中を探るようにして動いた。歯列を順に指で触られていて、口は中途半端に開いたまま。
私はこのままだと喋れないと、彼に抗議することも出来ない。
けど、私は動かずに、じっとしてた。芹沢くんの目が、ひどく傷ついているように見えたから。本能的に動くべきではないと思った。
私の元彼と芹沢くんが会ったのはついさっきのことなのに、うっかりでしたでは聞いて貰えない。それに、私は彼の中にある自分への強い執着を感じ取り、そのことがこんなことをされているのに頬が緩んでしまうくらい嬉しくもあった。
とある偶然で私を彼女にしてくれた芹沢くんは彼のことが大好きな私が、ちょっとでも他の方を向いたと思ったら、きっとそのことがとても気に入らないのだ。
開けたままの私の口の端から、つうっと唾液がこぼれて彼がそれに目を留めたと感じた。顎の下に垂れそうだったそれを、素早く近付いて熱い舌でゆっくりと舐め取った。
「……ねえ。水無瀬さん。俺、自分が忙しいのが終わったら。すぐに、一緒に居られるんだろうなって思ってた。けど、水無瀬さんからつれなくされて……結構、堪えた。結局は全部、誤解だって今はわかっているけど。完全にやられた。こんなにも人を好きになったのは、初めて……ねえ。俺にも見せてよ」
そして、彼はようやく口から人差し指を出して、艶めかしい仕草でそれを舐めた。私は芹沢くん以外にされれば逃げ出してしまうようなことをされたとしても、顔を熱くしてうっとり見ていることしか出来ない。
「え……見せるって……何を?」
「俺にも、泣いちゃうくらいに感じているところを……見せて欲しい」
彼が言わんとしていることを察した私は今日かっちゃんが、とんでもないことを口にしようとしていたことを思い出した。
……初体験の時は、確かに痛くて泣いたかも。
今思うとあの時にかっちゃんが濡らさないままに入れようとしていたことが原因であるとは、もうわかっている。そして、前戯の上手い芹沢くんでは、そういうこと自体起こらないと思う。
相手が彼なだけで私が、濡れ過ぎちゃって。
「え……でも。芹沢くんとだと、気持ち良くなるだけで……多分、泣けないと思う」
きっと気持ち良くなるだけでは泣けないと私が素直にそう言えば、芹沢くんは目を細めて低い声で囁いた。
「ふーん……じゃあ、試してみる?」
「っ……えっ……ふあっ」
芹沢くんは私を素早い動きで自分の胸の中に抱きかかえると、奥にある寝室へと向かって歩き出した。そして、私の身体は大きなベッドの上にポンと載せられた。
いきなりはじまってしまった事態に呆然としている私をよそに、芹沢くんは自分が着ていたTシャツを瞬く間に脱いで音をさせてベルトを外し始めた。
「……水無瀬さんって、本当に無防備だよね。俺と付き合ってる自覚あるの?」
「え。あっ……あるよ。だって、だって、かっちゃんは今日は、勝手に待ってて……だから」
すべては誤解だと言い募ろうとする私をよそに、芹沢くんは私のTシャツも脱がせて、すぐにひざ丈の緩めのスカートも剥ぎ取ってしまった。
あっという間に下着姿になった私を、彼は肌触りの良いベッドシーツの上に押し倒して楽しそうな表情になった。
「俺さ。結構な期間、彼女がいなかったし。自分の気持ち的に付き合ってない人とするのなんて、絶対嫌だし。やっと出来たと思った念願の彼女には、よくわからない理由で避けられるしでさ……結構、我慢の限界に来てるんだよね。水無瀬さん、全部受け止めてくれる?」
それは、嫌だとか無理とか、ここでそういった言葉は冗談でも絶対に返せそうになかった。
軽い冗談めいた意味合い言葉でも、芹沢くんの中にあった鬼気迫る本気のようなものを感じたからだ。大人しくゆっくりと頷いた私に、芹沢くんは言った。
「良い子だね……好きだよ。水無瀬さん」
芹沢くんは齧(かぶ)り付くようにして、私の唇に吸い付いた。さっきも思ったけど、やたらと私の唾液を飲み込むから、最初にした時に彼が体液フェチだと思った直感は、どうやら間違いではなかったみたい。
下着の背中にあるホックがいつの間にか外されていたことに、舌を絡ませることに夢中になっていた私は気が付かなかった。
何もかもをそつなくこなせる優秀な男の人は、そんなこともすらも完璧にしてしまえるものなのかもしれない。キスをされ唇を外さないままに生の胸を軽く揉まれて、刺激を感じすぐに尖ってしまった先をふたつの指で抓られた時に、声をあげそうになったけど出来なかった。
私の唇はもう彼の唇の思い通り好きにされていて、咄嗟の声を出すのも無理な状態だった。
早急にことを先へと進めたがる彼の動きは荒々しくも思えるけど手付きなんかは優しさに溢れていて、私はただただ何もせずに感じているだけだ。
もう、完全に主導権は握られた。
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