第57話 意表
「第一機動群と第二機動群、それに第三機動群は水上打撃部隊の後方に位置する敵機動部隊を叩け。前方は第一機動群、中央は第二機動群、後方のそれは第三機動群が攻撃せよ。
第四機動群は敵前衛艦隊に配備されている四隻の空母を狙え。それら四隻のうちのいずれかが『祥鳳』のはずだが、すべて沈めてしまえば何も問題は無い」
常に冷静沈着なスプルーアンス提督、しかしその彼にしては珍しくけしかけるような口調で命令を出し続けている。
だが、スプルーアンス提督のふだんとは違う振る舞いを気にしている幕僚は一人としていない。
日本艦隊を発見したことで誰もが高揚するか、あるいは人によっては興奮状態に陥っていたからだ。
スプルーアンス提督の命令一下、第一機動群と第二機動群、それに第三機動群からそれぞれF6Fヘルキャット戦闘機七二機にSB2Cヘルダイバー急降下爆撃機六〇機、それにTBFアベンジャー雷撃機四八機が日本の機動部隊を撃破すべく次々に飛行甲板を蹴って大空へと舞い上がっていく。
他の三群に比べて戦力の小さな第四群もまたF6F四八機にSB2C三〇機、それにTBF三三機の合わせて一一一機の攻撃隊を繰り出している。
総計で六五一機にものぼる攻撃隊は、機動群ごとに編隊を組んで日本の艦隊を目指す。
これだけの規模の攻撃隊を出してもなお「エセックス」級空母には二個中隊、「インデペンデンス」級空母には一個中隊の合わせて二六四機ものF6Fが上空直掩として残されていた。
それら二六四機のF6Fのうち、各空母の飛行甲板に待機していた一個中隊、合わせて一五個中隊が次々に大空に駆け上がっていく。
レーダーが探知した、日本の機動部隊が放ったと思しき大編隊を迎撃するのだ。
第一波攻撃の迎撃に臨んだのは第一機動群と第二機動群、それに第三機動群と第四機動群の一八〇機のF6Fだった。
それでもまだ七隻の「エセックス」級空母にはそれぞれ一個中隊、合わせて八四機のF6Fが敵の第二波攻撃に対する備えとして残されている。
「レーダーによれば編隊規模は約二〇〇。おそらくその半数が護衛の戦闘機と思われる。よって第一機動群ならびに第二機動群は敵護衛戦闘機を排除。第三機動群は敵急降下爆撃機、第四機動群は敵雷撃機を撃滅せよ」
命令を受けた第一機動群と第二機動群の九六機のF6Fが先陣争いをするかのように日本機の群れに飛びかかっていく。
彼らにとって優秀な機体であるF6Fはハンターであり、性能が劣る零戦は単なる獲物なのだ。
一方、日本側編隊はそのすべての機体が第一機動群と第二機動群に立ち向かっていく。
異様な光景だった。
ふつう、敵の戦闘機と対峙すれば急降下爆撃機や雷撃機は逃げの一手のはずだ。
しかし、日本側編隊はそのすべての機体がF6Fを包み込むように機動している。
「いかん!」
状況を悟った第三機動群戦闘機隊長が慌てて加速を開始する。
目を凝らして敵の機動を見れば、それがどの機種なのかは見当がつく。
二〇〇機にも及ぶ大編隊でありながら、日本の連中はそのすべての機体を戦闘機で固めていたのだ。
思い切りが良いと言うにはあまりにも極端すぎる戦術だ。
「敵はすべて戦闘機だ! 『フランクリン』隊ならびに『ワスプ』隊、それに『ラングレー』隊と『カボット』隊は俺に続け!」
第三機動群戦闘機隊長の叫ぶような命令に、四七人の部下たちは二〇〇〇馬力発動機に鞭を入れる。
意表を突かれ、機先を制された第一機動群と第二機動群戦闘機隊は明らかに劣勢に陥っている。
墜ちていく機体のその多くが零戦ではなく戦友たちが駆るF6Fのほうだ。
第三機動群戦闘機隊にわずかに遅れて異変を察知した第四機動群戦闘機隊も救援に向かうが、しかしこちらは雷撃機に対応するために低空に降りていたから戦闘高度に達するまでにはまだしばらくの時間が必要だった。
「こちら『フランクリン』戦闘機隊長。敵第一波はすべて戦闘機。戦況、我が方が不利。至急応援をよこしてくれ!」
「フランクリン」戦闘機隊長の求めに応じて七隻の「エセックス」級空母から合わせて八四機のF6Fが緊急発進する。
しかし、それら機体が戦闘空域に到達するまでには相応の時間が必要だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます