第38話 東洋艦隊撃退
英戦艦から四〇センチ砲弾あるいは三八センチ砲弾をしたたかに撃ち込まれてもなお「武蔵」と「大和」はその類まれなる防御力によって戦闘力を維持していた。
「武蔵」も「大和」も艦上構造物に少なくない損害が生じていたが、一方でその分厚い装甲のおかげでバイタルパートには一発たりとも敵主砲弾の侵入を許してはいない。
それゆえに、主砲も機関も十全にそのパフォーマンスの発揮が可能だった。
一方、英水上打撃部隊の戦艦はそうはいかなかった。
一番艦の位置にあった「ネルソン」は自艦が持つ四〇センチ砲弾に対応する防御を誇っているが、しかし「武蔵」が放つ四六センチ砲弾には耐えられなかった。
それこそ装甲を紙のように突き破られ、機関に甚大なダメージを被ってしまう。
その結果、戦闘速度の維持が困難となってしまった。
「ネルソン」は後落し、現在では姉妹艦の「ロドネー」が先頭艦を務めている。
「大和」に狙われた三番艦の「リベンジ」は一番砲塔と二番砲塔の間を四六センチ砲弾に撃ち抜かれた。
緊急注水によって弾火薬庫の誘爆という最悪の事態は避けられたものの、しかし砲戦力はガタ落ちだった。
使える主砲が半減したのもそうだが、注水によって艦の水平が失われ射撃精度が著しく低下してしまったことも大きい。
そこへ、さらに「大和」の主砲弾が「リベンジ」に災厄をもたらす。
「大和」が放った主砲弾の一発が水中弾効果を発揮したまま「リベンジ」の艦首先端部を食い破ったのだ。
大量の浸水と、それにさらなる浸水を防ぐために「リベンジ」は速度を落とさざるを得なくなった。
一方、敵の砲撃が「武蔵」と「大和」に集中したことを見て取った「長門」と「陸奥」は回避運動から一転して直線運動に復帰する。
「長門」は五番艦の「ラミリーズ」、「陸奥」は六番艦の「ロイヤル・ソブリン」を狙い、それぞれ両艦に痛撃を与えている。
敵一番艦と敵三番艦の弱体化を見て取った「武蔵」と「大和」はすかさず目標を変更する。
「武蔵」はいまだ無傷の「ロドネー」に、「大和」もまた自分を散々に殴りつけてくれた「レゾリューション」に対して四六センチ主砲を向ける。
さすがに不利を悟ったのだろう、「ロドネー」が、そして「レゾリューション」が舳先を西へ向けて離脱を図る。
「長門」と「陸奥」に押し込まれていた「ラミリーズ」と「ロイヤル・ソブリン」もまたそれに続く。
戦艦同士の戦いの大勢が決した頃には補助艦艇同士の戦いも終わっている。
日英双方ともに敵の軽快艦艇、特に剣呑な魚雷を装備した駆逐艦を味方の戦艦に近づけさせないという使命に忠実だった。
それゆえに双方ともに消極的な戦いに終始し、互いに沈没艦ゼロという珍しい結果となった。
このことで、戦場には機関にダメージを被って脚を奪われた「ネルソン」と、大量の浸水によって航行が著しく困難となった「リベンジ」が取り残される。
近藤長官はこれ以上の無用な殺戮は望むところではないという意を込めて「ネルソン」ならびに「リベンジ」に降伏を勧告する。
「ネルソン」それに「リベンジ」の艦長もまた乗組員の生命を優先してこれを受け入れた。
後に第二次インド洋海戦と呼称される日英初の機動部隊同士による戦いはこれをもって事実上終結する。
この一連の戦闘で第二艦隊と第三艦隊は英国が誇る「インドミタブル」と「フォーミダブル」それに「イラストリアス」の三隻の空母を撃沈し、さらに「ネルソン」とリベンジ」の二隻の戦艦を鹵獲した。
また、巡洋艦や駆逐艦を多数撃破するとともに一五〇機近い航空機を撃墜破している。
一方、日本側に沈没艦は無く「大和」と「武蔵」それに「長門」と「陸奥」が中破あるいは小破、さらに一〇隻近い巡洋艦と駆逐艦が小破し、さらに艦上機を一〇〇機余り喪失したのみだった。
この戦いの結果、東洋艦隊はその戦力を大きく低下させ、特に空母をすべて失ったことは大きな痛手となった。
帝国海軍は当初の作戦目的である西の脅威の排除に成功したのだった。
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