第13話 第三艦隊

 八月七日午前四時、米海兵隊が突如としてガダルカナル島に上陸。

 同地の日本軍は完全に虚を突かれ、完成を目前に控えていた飛行場はあっさりと連合国軍に奪取される。


 日本軍の反撃はラバウルに展開する第二五航空戦隊がその先鋒を務めた。

 五〇機あまりの艦戦や艦爆それに陸攻による攻撃は、だがしかし敵艦上機の妨害によって大きな戦果を挙げることはかなわなかった。

 しかし、一方で米機動部隊がガダルカナル島近傍海域で行動中であるという傍証を得ることが出来た。


 昼間の航空攻撃が不調に終わった一方で、米軍のガダルカナル島襲来に呼応して出撃した三川軍一中将率いる第八艦隊が大戦果を挙げる。

 五隻の重巡を基幹戦力とする同艦隊は輸送船団を守る連合国艦隊と交戦、一夜の間に四隻もの重巡を撃沈するという快挙を成し遂げたのだ。

 ただ、肝心の輸送船団への攻撃は成されず、このことでガダルカナル島に上陸した米軍を追い落とすまでには至らなかった。

 ガダルカナル島に対する攻撃が連合国軍による本格的な反攻であることを確信した連合艦隊司令部は編成されたばかりの第三艦隊に出撃を命じた。



 第三艦隊

 甲部隊

 「飛龍」(零戦二一、九九艦爆一八、九七艦攻一八)

 「蒼龍」(零戦二一、九九艦爆一八、九七艦攻一八)

 重巡「利根」「筑摩」

 駆逐艦「雪風」「初風」「天津風」「時津風」


 乙部隊

 「隼鷹」(零戦二一、九九艦爆一八、九七艦攻九)

 「龍驤」(零戦二四、九七艦攻九)

 重巡「熊野」「鈴谷」

 駆逐艦「浦風」「磯風」「谷風」「浜風」


 丙部隊

 「瑞鳳」(零戦二一、九七艦攻六)

 「祥鳳」(零戦二一、九七艦攻六)

 重巡「最上」「三隈」

 駆逐艦「萩風」「舞風」「嵐」「野分」


 前衛部隊

 戦艦「比叡」「霧島」

 軽巡「長良」

 駆逐艦「秋雲」「夕雲」「巻雲」「風雲」



 第三艦隊はミッドウェー海戦の教訓を盛り込んでいた。

 まず、制空権獲得の要となる戦闘機の比率を上げ、「翔鶴」や「瑞鶴」それに「赤城」の戦闘機搭乗員を甲部隊と乙部隊、それに丙部隊の六空母に一時転属させている。

 しかし、それでも定数を満たすことはかなわず、不足する分については基地航空隊から母艦勤務経験者を召し上げるなどでしてなんとか辻褄を合わせていた。

 また、ミッドウェー海戦で短時間のうちに三空母が相次いで被爆したことに鑑み、今回は二隻ずつの分散配備としている。

 そして、それら空母を二隻の重巡と四隻の駆逐艦がささやかながらも輪形陣を形成して死守する構えだ。


 前衛部隊のほうは米機動部隊が放った攻撃隊をいち早く発見するために空母部隊よりも前進させる。

 さらに、公にはされていないが、状況によっては敵艦上機の攻撃を吸収する役割も同部隊には期待されていた。

 それと、ミッドウェー海戦で被爆した「赤城」と「加賀」それに「翔鶴」がともに消火に手間取り、「加賀」に至ってはそれが致命傷となって沈没の憂き目にあった。

 だから、第三艦隊はいずれの艦も短いながらも被害応急訓練を行っており、間に合った艦は応急指揮装置の増設あるいは更新がなされている。


 旗艦となるのは二航戦の「飛龍」だが、しかしこれは今回限りの暫定措置である。

 それと、これら第三艦隊の艦艇の中で「飛龍」と「比叡」の二隻には待望の電探が搭載されていた。

 両艦ともにやっつけ仕事ともいえる超特急の工事だったために電探技術者も乗り込んでいる。


 その第三艦隊は米機動部隊との激突を前に指揮官から末端の将兵に至るまで誰もが緊張していた。

 そこにミッドウェー海戦の時のような弛緩した空気は無く、中には悲壮な覚悟を固める者さえいる。

 第三艦隊の戦力が旧一航艦に比べて明らかに劣っていることが大きな要因だった。

 六隻の空母すべてを中大型で固めていた一航艦に対し、第三艦隊はそのいずれもが中小型だ。

 当然ながら搭載している艦上機の数も第三艦隊のほうがずいぶんと少ない。

 米空母が三隻であれば互角、四隻であれば不利といったところだ。


 これまでの情報で、ガダルカナル島に侵攻してきた米機動部隊の規模は空母が三隻に戦艦が一隻、それに巡洋艦と駆逐艦が合わせて二十数隻程度と見込まれている。

 いずれにせよ、ガダルカナル島に海兵隊が上陸した以上、米軍は第三艦隊の挑戦から逃げることは出来ない。

 第三艦隊もまたガダルカナル島の友軍将兵を救い出すために引くことは出来ない。

 二度目となる日米機動部隊同士の激突は必至だった。

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