マンドレイク令嬢 ~存在をなかったことにされるくらい家族から嫌われていましたが、実は大聖女に匹敵するくらいの魔力持ちだったようです~

森湖春

序章

第1話 ある秋の日の悲劇

 マンドレイク。

 それは、魔法薬の材料として有名な植物である。


 地面から引き抜くと悲鳴を上げ、その声をまともに聞いた者は発狂し、最悪の場合は死に至る。そのため、収穫には特別な配慮が必要とされている。


 黄金色の街路樹が美しく彩る、秋の頃。

 グランベル王国の首都・アンティーブにあるリナローズ男爵邸で、失神者が続出した。


 にわかには信じがたいことではあるが、彼らは赤ちゃんの産声を聞いて気を失ったらしい。

 免れたのは、耳が遠い老人だけ。


 ちょうどその時、男爵夫人は出産の真っ最中。

 助産師の耳が遠かったことが、唯一の幸いである。


 その日、リナローズ男爵家に第一子が誕生した。

 ニレの葉を思わせる暗い黄緑エルムグリーン色の髪に、パッと目を引く赤紫色の瞳を持つ女の子──コルテ・リナローズ。


 彼女の産声は赤ちゃんとは到底思えない、【実に不愉快な、鋭いきしるような音】だった。

 目を覚ました者は口々にこう言った。「マンドレイクの収穫かと思った」と。

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