第6話 目覚めた力

「シャル、この中に入るのよね?思ってたよりも不気味なんだけど・・・」


炭鉱は現在使われていないようで静かでひっそりとしていた。

入口から中をのぞき込もうとしても中は真っ暗で何も見えない。


「ルイズ、灯りを頼めるか?」


「うん」


そういって、俺は背負っていたバックをおろし、持ってきたランタンを取り出すとそれに灯りをつけた。その灯りを入口の方に差し向けると灯りに照らされて中の通路が映し出された。


「じゃあ入るわよ!」


前に来たことがあるシャルが先頭に立ちフレイルがそれに続く。

通路を歩きながら周りの壁を見ると、等間隔で役目を果たしていない電球が吊るされている。以前はここも使われていたのだろうか。


そのまま通路を真っ直ぐ進んでいくと狭い空間がある場所に着いた。


「ここよここ!ほらその辺りに・・・あれ!?鉱石が無いわ!この前はあったのに・・・」


どうやらここが前に見つけたポイントのようだった。

しかし、何も見当たらない。

誰かが採ってしまったのか場所を間違っているのか。


「せっかくここまで来たのに・・・私のせいでごめんなさい・・・」


シャルが責任を感じたのか申し訳なさそうな顔をしたので、


「せっかく来たんだからもう少し奥に行ってみようよ」


とつい格好をつけて言ってしまった。


クラインとフレイルも2人で相談したが、ここまで危険がなかったのでもう少しだけ調べてみようかということになった。多分2人もシャルのことを考えたのだろう。


さらにそこから奥に進んでいくと今度はさっきより大きな空洞らしき場所に辿り着いた。

中は真っ暗だ。通路から中を照らしてみる。何かが光を反射した。


おっ、と思いその空洞に踏み込み、反射したあたりに向けてランタンを差し向ける。

地面に綺麗な透き通った赤色の物体がいくつも確認できた。


フレイルとシャルも続けて空洞の中に入ってきた。


「わー、シャル見て!!たくさんの綺麗な鉱石だよ!」


「ほんとね!でもあってよかったわ・・・ルイズ君ありがとう!」


とシャルが手を握ってお礼を言ってくれた。

そしてシャルが鉱石に近づいて確認していたのだが、


「えっ!待って!これまさか・・・」


と言いながら突然、近くの落ちていた石で鉱石の一部を削って断面を確かめ始めた。


「これ・・・魔鉱石よ!魔鉱石だわ!!」


この鉱石は一般の鉱石と違い魔力を帯びたものらしい。ここまでの練度のものとなると十年以上、魔力を帯びて形成されたものかもしれないとシャルが興奮しながら説明してくれた。


そんな珍しいものなのかと思ったが、男2人はあまり興味は湧かずに俺とクラインは必要な分だけ確保した。シャルは両親に見せたいからと向こうでフレイルとまだ採取を続けている。


「これで記念日のプレゼントが用意できそうだね!」


2人を待っている間にクラインに話かけた時、


クラインが、しっ!と自分の人差し指を俺の口の前に持ってきた。


「何か聞こえないか?」


急にクラインが灯りが届いていない奥の方を見ながらそう言った。


「僕は何も聞こえないけど?風の通り抜けで音でも鳴っているのかな?」


「いや、でもここ風が吹いてないよな・・・?」


クラインがそう言った時、確かに俺にも何かのうめき声のようなものが聞こえてきた。


「ぐるうぅぅ・・・・!」


奥の暗がりから聞こえる。


なんだ?一体?


何かを感じたのかクラインが叫ぶ。


「フレイル、シャル!何かいる!早くこっちに来い!」


クラインはその場で剣を鞘から抜き構えた。

その瞬間いきなりその何かがクラインに飛びかかってきた!


ガキン!!


剣と堅い何かがぶつかったような音が響いた。

その何かは、また距離を取ったようだった。

フレイルとシャルも慌ててこっちに来た。


俺は何かがいる暗がりに向かって、持っていたランタンを向けた。


「きゃあ!何よあれ!?」


何かの姿を確認するなりフレイルの悲鳴と驚きの混じった声が発せられた。


そこにいたのは2体の狼のような生物だった。狼のようなという言い方をするのは見た目が普通ではないからだ。2体とも1つの胴体に2つの頭部がついており、それぞれの頭部の口元から異常な大きさの牙が生えている。これは狼というより、もはやモンスターと呼ぶ方が正しいかもしれない。


「クライン兄さんどうしよう・・・?」


そのモンスターは距離を取ってこちらの行動を監視するようにじっと見ている。


「さっきこいつらは確かに攻撃してきた!ここはやつらの縄張りだったのかもしれないな・・・」


「え、じゃあ私達が縄張りに踏み込んでしまったってこと?」


「分からない。でもこのまま黙って見過ごしてはくれなそうだ」


様子を見ていた片方のモンスターがクラインに大きな口を開けて飛びかかってきた。

クラインはなんとか剣でそれを防いだ。

しかし、モンスターは1体ならまだしも2体いる。


俺も剣を抜こうとした、が手が震えて鞘から上手く引き抜くことができない。


「ルイズ!お前は無理せず下がっとけ!」


クラインの一言でこの調子じゃ邪魔になりそうだと思い後ろに下がった。

モンスターは動きが俊敏だ。それに対応できているクラインもやっぱりすごい。

モンスターの動きが一時的に止まった。


クラインはチャンスとみたのか、その場で息を吐き出して上体を右に捻り身を屈ませその体勢で溜めた。ふっと最後の息を吐ききるとともに足で強く地面を蹴り出した。

疾風撃だ。「ギャオォォ!」の悲鳴が聞こえた。一体の片方の頭部に剣が突き刺さった。


だがモンスターはまだ動いている。

どうやら頭部を両方破壊しないとだめらしい。

さっきからずっと2体を相手にしてるので、さすがのクラインも防戦一方になってきた。


その様子を見ていたシャルが俺の隣で口を開いた。


「フレイル、ルイズ君。このままじゃまずいから私が扱える中でも高位の魔法をぶつけるわ。でもこの魔法を撃つと今の私じゃ魔力が空になって倒れるかもしれないからその時はお願いね!」


俺達はうなずいた。

シャルはその場で目を閉じ、杖を握り自分の前に差し出した。


「青き水の精霊よ。誓約に基づき・・・」


しかし、クラインが1体の攻撃を受けている間に、もう一体がまるでそれを見計らっていたかのようにクラインの脇を抜けシャルに襲いかかろうとした。

シャルは目をつむっている。


「シャル!危ない!」


フレイルが飛び出してシャルを押し出した。

代わりにモンスターの体当たりを喰らう形になったフレイルは衝撃で後ろの岩に叩きつけられた。


「えっ・・・!?フレイル!!」


フレイルに押し出されたシャルも体勢を立て直しすぐにフレイルの元に近づいた。

俺も駆け寄る。

良かった。気を失っているが息はあるようだ。


「・・・・・・フレイルになにするのよ!!」


シャルは立ち上がりモンスターの方を向いた。怒りの表情を向けている。


「青き水の精霊よ。誓約に基づき、我が魔力を今御身に捧げん」


シャルが杖を上に掲げた。その杖から青白い光が放たれた。その光が消えるやいなや頭上の空間に白い霧状の冷気のようなものが出てきたかと思えば、それがどんどん凝固化されていき、あっという間に先端が尖っている氷塊が5つ作り出された。


何もないところからこんなものが。

まわりの温度も下がっているのか寒気がしてきた。

はじめてみる。これが魔法の力・・・


掲げていた杖をモンスターに向かって振り下ろす。


「氷槍で貫け!アイシクルγ(ガンマ)!」


5つの氷塊はそれに呼応するように急速にモンスターに向かっていった。

その氷塊が見事1体の胴体と頭2つに突き刺さるとその場に倒れ動かなくなった。


だが、片方の頭をなくしているもう1体は上手く避けたようだった。


「2体とも仕留めようと思ったのに・・・」


シャルはその場に倒れ込んだ。

一時的に気を失っているだけのようだ。


後は手負いの1体のみ。

今はクラインと対峙している。


何か俺にもできることはないかと様子を見ていたが、急に立っていられないほどの頭痛が襲ってきた。両手で頭を抱えてしゃがみこむ。


なんだ・・・こんな時に・・!?


「ルイズ!!」


叫び声とともに強い横からの力が加わり俺は吹っ飛ばされた。

何が起きたかわからないまま起き上がると、俺がさっきいたであろう場所にクラインがいてモンスターの牙がクラインの脇腹に食い込んでいた。


しかし、その体勢を利用してそのままクラインがそのモンスターの最後の首も斬り落とした。クラインが倒れ込む。


横たわっているクラインに駆け寄る。


「クライン兄さん!どうして!・・・どうして僕なんかを!!」


致命傷ではなさそうだが脇腹の傷もひどい。

これは俺の身代わりになって受けた傷だ。


「・・・ぐぅぅ、ルイズ・・・お前は覚えてないだろうが、お前が産まれたときにお前を絶対守るって約束したんだ・・・」


あの時か・・・覚えてる。フレイルと一緒に手を握ってくれた時だ。

あんな小さな頃の約束をずっと覚えてくれてるなんて・・・


目に涙が溜ってきた。


「・・・男だろ泣くな。それに俺は大丈夫だから、心配するな・・・」と言ってずっと気を張っていたのだろう。クラインも気を失った。


「クライン兄さん・・・」


俺なんかのために。俺が着いてきてしまったために。

周りを見るとフレイルもシャルもまだ気を失っているようだった。

俺が奥に行こうなんて軽はずみに言ってしまったから・・・


だが、反省している暇はない。

早くみんなを助けないと。

1人の力では全員を運ぶことが出来ない。

一度戻って誰か大人を呼んできた方がいいのか?


俺はどうやってみんなを連れ出すか、その事ばかりを考えていたのだが、その考え自体が甘かった。


「「「ぐるぅぅぅぅ・・・・!」」」

「「「ぐぅぅ!」」」


奥の暗がりからさらなるうなり声が聞こえてきた。

それも無数のうなり声だ。

暗がりから灯りのある方へ、さっきのモンスターが6体姿を現した。


さっきのだけでも手こずってみんながやっと倒してくれたところなのに。


俺は何も出来なかった。

周りを見渡す。

3人が横たわっている。


逃げるか?

頭の中の選択肢が囁く。

逃げるというのも1つの方法ではある。


立ち上がる。

さっき助けてもらったんだ。

身体が震える。


思考も行動もばらばら。

こんな時にまだ頭が痛い・・・

なんなんだ。シャルの魔法を見てからだ。

考えがまとまらない。


その間にもモンスター達は一歩一歩近づいてきている。


みんな死ぬ?

それだけは嫌だ!

でも俺は何もできない。


何もしない?

でもみんなを守りたい。

それはずるい。


1つだけ覚えてる。

後悔はしたくない。


頭が割れそうだ。

もういい。割れるなら割れればいい。


だが・・・俺の邪魔だけはするな!!!!!


その時、頭の中で何かがプツッと切れたような気がした。

それを皮切りに頭の中にイメージが洪水のように湧き起こってきた。


なんだ、これ・・・?


意味はわからないが理解はできる。

そんな奇妙な感覚。


無意識に右の手のひらをモンスターの群れに向ける。

頭の中で反芻される言葉を口に出す。


「アイシクル・・・Ω(オメガ)」


先程のシャルの魔法の何倍の威力だろうか。轟音が炭鉱に鳴り響くと無数の氷撃がモンスターの群れを襲った。一瞬ですべてのモンスターが氷漬けになるとそれが全部粉々に砕け散った。


そして俺も気を失った。

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