第七章 時を超えたギフト
後催眠暗示により、二十年後に合言葉を発する未亡人。しかし……?
第039話 時を超えたギフト(1)
──あの爆弾事件から、早二カ月。
そろそろわたしへの称賛も落ち着いてきて、一息ついたやら、ちょっと残念やら。
最近はシアラさん、わたしを頼れる弟子と見てくれてるのか、簡単なお仕事なら、任せてくれるようになりました。
……まあ、睡眠時間の確保が、本音なんでしょうけど。
きょうのご依頼人は、鋼鉄製の小箱を持ち込みの、ロディ・フェーザントさん。
年も背格好もシアラさんに近いけれど、光沢のあのブラウンの髪と、目を細めてよく笑う人柄がまぶしくて、とっても好印象。
あの理知的な雰囲気を醸してる四角い眼鏡も、いいですよね~。
わたしの周り、まあまあイケメン多いですけど、眼鏡成分が不足してるので。
左手の結婚指輪が、減点要素ですけど……アハハ。
さてさて、脚のないこの小箱……。
典型的な噤みの錠で、鍵穴の構造は、素直なピンシリンダー……。
……あっ、いまのリアクション、初めて会ったときのシアラさんっぽかったかも。
「……ロディさん。物理の鍵は、お持ちでなかったんですよね?」
「ええ、この箱だけです。外国住みの父が露店で買い散らした品々を、適当に詰め込んで送ってきまして。その中にあったものです」
「そうですか……。ちょっと失礼して、触感をば」
人差し指の背中で、表面の錆のそばを軽くコンコン……と。
「……表面、ところどころ錆びてますけど、箱は頑丈そうですね。厚さ、一センチ以上ありそうです」
「さすが。軽く触れただけで、そこまでわかりますか」
「え、ええ……。なにしろ解錠を
……師匠はノックで、厚さ八センチをピタリ当てましたからね。
一センチじゃ、まだまだ半人前の半人前の半人前……です。
ではいよいよ、解錠作業に……!
「……それではロディさん、これより解錠を始めます。最後に確認しておきたいのですが……合言葉には、心当たりはありませんか? たとえば、お父様の口癖だとか、座右の銘だとか……」
「うーん……ないですね。単に自分で開けられなかったので、お土産と称して丸投げしたのでしょう。僕も開けかたを調べるうちに、噤みの錠という存在を知ったくらいですから」
……なるほどなるほど。
合言葉に込められた想いは、なさそうですね……。
では、おかあさん譲りの
「いきますっ!
──カチャカチャッ……カチャッ、チャッ…………カチンッ!
「……ふう。解錠成功です」
「えっ、もうですか? 合言葉……いったいどうやって推察したのです?」
「えっと、それは企業秘密でして。アハハハ……」
発音総当たりなの、スキルとしてはインパクトありますけど、合言葉の読み解きを放棄してるから、ちょっとバツが悪いんですよねぇ……。
「……それでは、解錠師としてのお仕事はここまでになります。箱の蓋を開くのは、所有者の特権にして義務……となります」
うーん、この言い回しもシアラさんのパクリ。
でも弟子だから、師匠から盗めるものはなんでも盗んでよし!
……ですよね!
「なるほど。箱を開ける楽しみは、箱の所有者のもの。箱を開けるリスクも、所有者が負う……というわけですね。承知しました」
「リスク……ですか?」
「出所も時代もわからない箱ですから、当然でしたね。内部のものが腐敗して、有毒化してる恐れもありますし。ドアの外で開けましょう」
「あっ、なにもそこまで」
「僕の大学の同期に、考古学を専攻した友人がいるんですが。古代人の排泄施設を掘り当てた際、毒素に当てられて白内障を患ったんですよ。古いものに接するときは、用心を重ねませんと」
「で、では……外でお願いします」
……なるほど、そういう危険性もありますか。
も~、シアラさん、そういうこともちゃんと教えてくださいよっ!
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