第032話 囀りの階段(4)
「──────はっ!?」
え、ええっと……。
意識……はっきりしてる……。
「あっ、あー……。あー……あー……」
自分で声……出せてる。
さっきまで自分を一歩引いたところから見てるような、変な感じだったけど……。
いまは、目の焦点合ってる……。
……と、いうことはっ!?
「しっ……師匠! おかあさんは……どうなりましたっ!?」
「ん……。たぶんまだ、おまえの中にいるだろう。ホクロが二つとも消えていない」
「ほっ……そうですか。よかったぁ……。わたしまだまだ、おかあさんと話したいことが…………って。二つともぉ……?」
二つとも……って、いうことは……。
胸元のほうの、ホクロも……。
「きゃあああぁあっ! 師匠のエッチ! どうしてわたし、全裸なんですかあっ!?」
「裸で上がってきたの、おまえだろ。毛布も投げてやったのに、自分で払い落としたし。知らんわ」
「毛布? あっと、足元に……って、男くさぁい! 加齢臭ううぅ! これ体に巻けなぁい!」
「……どうしろって言うんだ。加齢臭言われるほど年食ってねーし」
「そこのラックに、スーツ一式ありましたよね? そのシャツ貸してくださいっ!」
「ああ、もう好きにしろ……」
「……あ。『彼シャツ萌え~』とか思わないでくださいよっ! 緊急事態だから師匠のシャツ着るだけで、彼シャツとか一ミリも思ってませんからねっ!」
「どうでもいいわ! 早く下へ行け! こっちは安眠妨害されて大迷惑なんだ!」
「元はと言えば、師匠が昔撒いた種ですけどね……。でも、師匠……」
「……ん?」
「おかあさんのこと……ありがとうございました」
「……それはお互い様だ。礼も引け目もなしでいこう」
「はいっ!」
「……ああ。ピッキング練習用の工具と小箱……な。持って下りて、試してみろ。ひょっとするとジョゼットさんの解錠スキル、おまえに宿ってるかもしれん」
「あ……えと、はいっ! わかりましたっ! それじゃあ……おやすみなさいっ!」
──ガチャ……バタン。
ふうううぅ……ほんっとうにきょうは、大変な一日っ!
知らない裏の世界も、キスも、大切な真実も、知っちゃったけれど……。
でも、おかあさんがわたしの中で生きてるってわかって、よかった!
金庫の解錠のときの、フラッシュバック……。
わたしには、生みの親がちゃんといるんだけれど……。
でもジョゼットさんという、育てのおかあさんに巡り会えて、幸せっ!
──とん、とん、とん、とん……。
……あ、階段。
いつもみたいに、みしみし……って音しない。
やっぱりあの音は、わたしの中にいたおかあさんに、反応してたのね。
それにしてもこの階段の一段一段に、錠が施されてるなんて……。
道理で師匠の仕事場、お宝が無造作に置かれてるわけだわ。
ほかにもいろいろ、仕掛けありそうで怖い……ううっ……。
──ガチャッ……カランカラン……バタン。
……ふう。
やっと一階へ帰還。
さすがにきょうはもう、寝るだけ……。
……ああ、待って。
師匠に言われた、おかあさんの解錠スキルがわたしに受け継がれてるかだけ……試しておこうっと。
鍵穴にこの工具を差し込んで、中のタンブラーを整列させる……っと。
──カチャッ……カチャッ……カッ!
「……あっ! 開いた!」
あれだけ頑張っても開かなかった錠が……簡単に開いたっ!
師匠が言うとおり、おかあさんの能力が……移ってる!
……ん、あらっ?
箱の中に……メモ用紙が一枚……。
『頑張ったな。きょうの修行は終わりだ。ゆっくり休め』
「ぷっ……!」
師匠ったら口で言っておけばいいのに、こんなメモ入れておくなんて、口下手なんですねぇ……あはっ♥
そういうところに、おかあさんは萌えちゃったりしたのかなぁ……。
……………………。
……んん。
これ関係、詮索すると師匠やおかあさんの赤裸々暴露大会に、なりそうかも……。
……というわけで、今夜はメモに従って、ゆっくり休むとしますか!
おやすみなさい……師匠…………おかあ……さん♥
「すうううぅ……」
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