第三十一話 勝敗
(掻い潜って一発当てる。攻めなければ勝てない)
(盾糸にだけ頼るな。守りを忘れず負けないように立ち回れ)
キオとザイトは互いに正面から斬り合っていた。
お前に勝つと。
お前には負けないと。
二人はいつの間にか本来の目的、魔力の水源をかけた攻防であることを忘れるほどに熱くなっていた。
「いいな〜キオ」
「向こうを見てないでこちらを対処しろフユイ!まだまだいるぞ」
「だって命を取り合ってるのにキオてっばあんなに楽しそうだもん。ああゆう戦いってなかなか出来ないんだから」
「戦い好きの者達のことはわからん。私は学者タイプなんでな」
「それはそうかもしんないけどさ」
楽しそうに斬り合っちゃってずっこい!
でもそんな中に乱入するなんて野暮だよね。
例えどちらかが死んでもさ。
◆◆◆◆◆◆
あぁ俺は命を取り合ってるってぇのにどうしようもねぇぐらい笑みが出そうになっちまてる。
楽しい、おもしれえ。
幼少期から今まで短剣を握っていろんな奴らとやり合った。
初めて触れた小さな剣一本、こいつでどう相手を崩すかを考えまくった。
そんな事ばっかり考えているうちに生まれた街じゃ知らない間に全員が相手にならなくなった。
それがどうしようもなく退屈になって一人で街を飛び出て各地に渡った。
そして今の自分よりも強そうな奴らを見つけては噛みついていった。
そんな奴らと戦っていく中で短剣のみで戦う天才なんて言われ出して、その過程で同じように天才だって言われているバカ者が集まって作られた組織があると聞いた。
セルフジーニアスここなら、ここに居る者たちならやり合ったとて退屈しないんじゃねぇかって飛び込んだ。
確かにセルフジーニアスに飛び込んでから退屈はしなかった。
普通なら相手したくてもできねぇ奴らと戦える。
セルフジーニアスにいるやつらもクセの強い連中ばっかで退屈しなかった。
だが知らねぇ間にどこか昔見たいにこの小さな剣一本で相手を攻略したくなっていた。
だからこういう戦いは嫌いじゃねぇ、絶対掻い潜ってやる。
この小さな剣一本で。
「そろそろ君の攻撃が終わってほしいな私は」
「何言ってんだまだまだこっからだろうが
ザイト・フィン・サルマ!!!」
二人はいくら打ち合ったか。
上下左右いろんな角度から攻めるキオに対してザイトは盾糸では間に合わない攻撃のみをさばいていた。
キオのフェイントを織り混ぜたさまざまな攻撃にラルクの盾糸はすべて反応してしまう。
よってザイトはキオが通そうとしている本命のみに焦点を当てていた。
もちろんザイト自身がフェイントに引っ掛かり読みが外れるとそれだけで終わってしまうがザイトにはここに本命が来ると分かる直感があった。
「くっ」
絶対来るはずだ。
こんな攻撃ではなく私に通す為の一撃が。
「ちっ」
さすがに警戒してるか。
だが行ける。
もう一歩だけでいい前に詰めろ。
今の間合いではなく俺の短剣で刺せる場所ヘ一歩。
そして掻い潜るのは盾糸じゃねぇあいつの剣だ!!!
キオは斬り結びながらしっかりとザイトとの間合いを調整していた。
盾糸を引き付け尚且つザイトの剣を抑えることができる位置へと。
その為キオはザイトを誘い込む為一歩後ろヘと間合いを外す。
そして下がったキオをザイトは見逃さない。
そこにザイトの剣が振り降ろされる。
「はっ」
(ようやく来た!!ここだ一歩前に!!)
一歩詰めるのが難しいならその一歩を相手に詰めさせればいい。
振り降ろされる分剣の威力なら向こうのほうが上だが弾いてその剣を下で抑えるだけなら躱さなくてもいい。
キオは左手で持っていた短剣でザイトの剣を弾きながらそのまま下ヘと滑らせザイトの剣を振り降ろさせる。
そのままキオは一歩前に踏み出しザイトの肩にぶつかりに行った。
そして二人の肩がぶつかり合う。
「っっっ!!!」
「これで一発!!」
キオは滑らせた短剣を上に投げ飛ばしそのまま空いた左手でザイトの剣を抑さえつける。
盾糸はザイトの剣や肩に移動していた。
攻撃とみなせば盾糸は防御の為に簡単動いてしまう。
「盾糸よりもお前の直感で避けられるほうが厄介だからな。この距離なら簡単に当たる」
肩から斬られ動かしづらくなった右手。
たったのこの一回くらいならいつもみたいに速攻で行けんだろ!!!
痛みを抱えながら一気に短剣に向けて手を伸ばしそのままの勢いでザイトの首元にめがけて短剣を刺しにいく。
(受ける覚悟はあるさ。一発ぐらい初めから!!)
「なっ!!!」
首元にめがけて刺しに来た短剣に対してザイトは後ろ足を前に踏み出しあえて短剣に突っ込んだ。
その結果キオの短剣は首元には刺さらなかった。
「いっっっ!…はっはっ…キオ……肩を斬られるのって想像以上に痛いね」
当たりにいって正解だったかな。
あのままだと確実に死んでいた。
後ろに反らしても今のキオだと確実に当ててくる。
だからこそあえて前に踏み出し当たりに行ったんだが流石に当たりに来るのは予想外だったようだ。
おかげ様で右肩に刺さっただけですんだ。
「そんな状態の右肩で良く剣を刺しに来たね。私は無理そうだよ。思った以上に力が入らない」
「嘘つけ、上に上げるぐらい出来るだろうが。俺の抑えてる左手を振り払ってな」
「私は両手で上げるだけさ。片手では厳しいかな」
二人の戦いの中で今が一番静寂な時間だった。
勝敗が決したが為に。
「ハァ〜俺の負けだな」
一発当てはしたからそれで満足しておこう。
「ハァーーーー!!」
ザイトはキオによって抑えられていた剣を両手で一気に振り上げる。
二人の距離が近い為上に剣を振り上げるだけでキオの体に傷がつく。
そこから大量の血を流しながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます