第三十話 盾糸

「盾糸は間に合ったか」


 手遅れにならなくて良かった。

 こっから魔力の糸で三方向同時に守っていこう。

 指定した人間を自動的に守る魔力の糸、普段はもっと重ねた状態で使用するからこんなにも細くするなんてまずありえないんだけど、三方向同時にってなるとそうも言ってなれない。

 魔力そのものを何千のも細い糸状にして指定した者を自動的に守る盾。

 守る人の数が多いと大変だな。

 だがそれも


「サリシアが帰ってくるまでの辛抱だな」


 サリシアが帰ってきたらそれだけで楽になる。

 剣帝としての戦闘面でも聖女としての回復魔法の面でもあれだけ頼りになる人間はそうそういない。

 というより早く帰ってきてくれないと僕が死んでしまう。

 ラルクはサリシアのことを信頼していたがそこには私情も少々入っていた。

 

 ◆◆◆◆◆◆


「ようやく最後の門、第六門に到着と」


 やっと第六門に着いた。

 無理やり突っ切ったせいで頭は痛いし体が軋んで気持ち悪いけど時間さえあれば治るし大丈夫か………多分だけど。

 この先に水源そのものがある。

 扱いには気を付けないと。

 本来人間には扱えないものを使うのだから。


「よし、行こう」


 サリシアは第六門の扉を思いっ切りを押して開けていく。


「ぐぬぬぬぬぬ」


 扉がゆっくりと開かれそこから一筋の光が差し込む。

 流れ込むはありえないほどの力の奔流。

 浴びるだけで廃人にでもなってしまうかもしれないほどの魔力の塊。


「ははは、相変わらず有り得ないよ。こんな物がこの世界にあるなんてさ」


 一瞬触れるだけでも存在を否定したくなる。

 これはあって良いものなのかと。

 透明で目には見えないけどここに確かにあることはわかる。

 圧倒的な存在感。

 小さいとか大きいとか量とか質とかそんな話じゃない。

 誰も人のもつ限界になど到達していないがそれでもこれは無理だと本能的にわかってしまう。

 ここにある水源の魔力は扱えるし使って利用することは出来る。

 けれどそれ以上、これそのものを手に入れることなど出来ないと。


 ◆◆◆◆◆◆


 北門 入口


 ゲムとフユイの二人はラルクの盾糸よって自身の攻撃をことごとく防がれていた。


「なんだよこれ!鬱陶しいな」


「おそらく魔法騎士ラルクの盾糸だと思うぞ」


「こんな細いうえにここまで広範囲なんて聞いてない」


「それについては私もだ」


 だからこそ気がつかなかったのだがな。

 基本的に自分の周囲一帯が盾糸の効果範囲内だと聞いていたからな。

 今まで使っていなかっただけか。

 ラルクは基本的に第一王子ザイトの騎士として活動している為に最優先で守る対処は王子になる。

 従って盾糸は常に護衛しているザイトに厚くしている。

 ここまで盾糸を細く一本一本使用することなどほとんどありえない。

 故に情報として知り得なかった。


「キオもさっきの一発がだいぶキツそうだな」


 初めの戦闘からずっと短剣による攻撃をしていたキオだが先程の一発でそうもいかなくなっていた。

 今度はキオがザイトの攻撃を防御する側に変わっていた。


「ちっ邪魔な糸だな」


 片側の腕が使いもんにならねぇのがここまで響くか。

 糸の防御を掻い潜って当てれねぇ。

 まとわりつくように守りやがって。


「ラルクの盾糸で守られている私と片腕しか使えない状態の君でようやく五分とは恐れ入いるよ」


「そんな余裕そうな表情で言われても嬉しかねぇよこっちは」


「そこまで余裕はないがな!!」


 君に斬られた少なくない数の短剣による一発一発が私の行動を大きく制限しているよ。

 ザイトの剣とキオの短剣が幾度もぶつかり合う。

 勝つ為には攻めなければいけないキオ。

 負けない為に耐え続けるザイト。

 だがキオのような手数で攻めている者が防御にまわってさらにその攻撃すらも通らなくなれば不利は明らか。

 少しずつではあるがその差が確実に出ていた。


「はっ!」


 この俺の右が使いもんにならねからって右側を一切警戒せずに戦いやがる。


「クソが」


 だがこれを逆手にとって一回くらいなら攻撃に使えるか。

 無茶をすれば右手でいける。

 どこかでこの糸を掻い潜れば一発は通せる。

 糸は俺の攻撃に反応してから防御に入る。

 なら一度攻撃すればいい。

 理不尽な無限の防御じゃねぇ。

 ラルクの盾糸は自動的に対象者に対して防御行動をとるような仕組みになっているが逆に言えば全ての攻撃に反応してしまう。

 全ての糸が攻撃とみなすだけで守ろうと動いていた。

 この場にラルク本人がいればもっと精密な行動をとることができたであろうが今は三方向に盾糸をちらしている最中である。

 そこを突けばあるいは……。

 そして二人はいくらかの打ち合いの後に数歩分の間合い出来ていた。

 

「ふう〜やるか」


「何やら覚悟でも決まったのかい?」


「ああ、結局無茶しないと勝てないってことがな」


「じゃ私は無茶してでも負けないようにしないとな」


 特別な合図があったわけではないが二人は剣に構えなおした。

 互いが互いを見つめ異様な緊張感が漂っていた。

 もう次で決まると。


「俺が勝つ為にやることは一つ。お前を倒す」


 この一手が二人の戦況の決定打になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る