第十八話  ガイカゼ公国

「すみません、お待たせいたしましたガイカゼ公国皆さん」


「いえいえ、着いた瞬間に会談をと言い出したのはこちらですので、それにしても相変わらずですかあの阿呆は」


 ガイカゼ公国から来たと思われるフィーリと同じようにほかにいる人間達よりも豪勢な服装に身を包んだ褐色肌の一人の青年がフィーリが入って来るなりキョロキョロと辺りを見渡してから探るように聞いてくる。

 その言葉の意味合いをしっかりと理解したフィーリはただの一言。


「ご想像通りです」


「やっぱりいつもの『今はこっちな気がする』ってやつかな」


「はい、今回は西へ行くとだけでどこの西かもすらもわからずじまいで」


「本当にあいつは何も変わってちゃいないな」


 ガイカゼ公国の使者と思われる青年は盛大にため息をつきながらあきれ顔になっていた。


「すみません。せっかくガイカゼ公国次期王ビーダン様自身が来てくださったのに」


「いやむしろここに居ないほうがあいつらしいと思っている自分がいるよ」


 今回サルマニアとの会談があったガイカゼ公国は圧倒的といって良いほど農業国家であった。

 いろいろな植物の生産を各地でしており、それを各国に売りさばき産業として確立している。

 ガイカゼ公国は各地に植物を売りさばく為に自国の王族が行くもしくはそれに準ずるものが交渉をしに行くのを習わしとしていた。

 その為か世界で一番顔が広い王族として有名であった。

 中でも次期国王と言われているビーダンはよく自国の南の方面に向かうことが多く、その中でも自国のちょうど真下に位置するサルマニアには交渉の為に年に数度は来ていた。

 その時向こうからは王族が来るのだからとサルマニアも同じように王族に準ずるものが交渉の席についていた。

 その為ビーダンがサルマニアに来る時によく会っていたサルマニアの王族が第一王子であった。

 同じ王族で第一王子で次期国王と呼ばれ年もさほど離れていない者同士で仲良くなるのに時間はそうそうかからなかった。

 互いにほとんど同じ立場で知りあった者同士砕けた会話をよくしていた。

 ビーダンからしたら親友と呼べるほどに。

 だからこそあいつの行動はらしいと思えた。


「まぁあいつがいなくても交渉はできるから言いが、フィーリ王女とりあえずあいつに今度会ったら説教だとでもって言っておいてくれないか」


「はい、むしろこっぴどく怒ってやって下さい」


「そ、そうか」


 フィーリは自分でも想像してないほどに笑顔で答えていた。

 いつもの直感的に動くせいでそこでおきる被害の尻拭いをフィーリがしていたためか。


「フィーリ王女、ビーダン王子お二方ともそろそろ交渉を開始してもよろしいでしょうか」


「そうだな、時間は有限だしあの阿呆がいない分有意義になりそうだ」


「そうですね、互いに有意義なものにしましょうか」



◆◆◆◆◆◆



「うーん、よく寝た」


「サリシア様もうそろそろ北門に着きそうですよ」


「もう着くんだ」


 運び屋の馬車の移動中爆睡していたサリシアが起きた時には北門に着きそうであった。

 サリシアは大体七時間ほど寝ていたがその七時間の間に運び屋のレックは首都からサルマニアの国境近くの北門の入口まで着いていた。


「ええ北門の入口が見えそうです」


 おお~首都から北門までには丸一日かかってもおかしくないのに流石最速の運び屋上手く移動している。

 それに馬に疲労軽減の回復魔法までかけている。

 回復魔法の方も上手いな。


「魔力もよく持つね~普通に使えなくなってもおかしくないのに」


「いえいえ常時使っていても魔力がきれないくらいの少量の効果でしかないですよ」


「それでも凄いよ。私とかいつも一気に治していくから徐々に使うの苦手なんだよね」


「それはサリシア様の剣帝としての戦い方的にも仕方ないのでは?」


「まぁね」


 皆私が戦いの時にどんな回復魔法の使い方をしているか知っているし仕方ないか。

 仕組みまではわかってないはずだし危ないから臨時講師の時回復魔法の魔力面の話しをしなかったんだよね。

 皆に教えたら出来なくはないからそれが余計に難しいよ本当に。

 運び屋の馬車に揺られながらレックとの会話を楽しみつつ北門ヘ運ばれるサリシア。

 こうやってのんきにしていられる時間はあと少しとサリシアはそんな気がしていた。

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