甥の後始末を押し付けられた
今川銀杏 旧名:杏
第一章 環境の変化
第一話
僕の部屋をノックする音が聞こえる。僕が入室許可を出すと近衛騎士が入室して僕に敬礼をした。
僕は執務をしながら近衛騎士に一言告げる。恐らく発言許可が欲しいのだろう。そうでないと僕の部屋に近衛騎士が入ってくる必要はないはずだ。
「発言を許可する」
「レオナルド王弟殿下、国王陛下がお呼びです」
「わかった今すぐに向かう。ミカ、お前はここで待っていろ」
ミカとは、僕の侍従であるミカエル・フォン・リアンダール侯爵子息の事だ。幼い頃から仕えてくれて、本当に信頼できる家臣の一人だ。しかし過保護気味なところもあった。
ミカは僕の指示に一瞬不満気な顔をするが、僕は無視した。一応移動は王宮の中だし、危険はないはずだ。兄上がなんかを命令したとしたら、ミカでも逆らうことはできないわけだし、別についてくる意味は無かった。
僕はすぐに執務を止めて、騎士の先導についていく。急いで兄上の元へ向かうために。普段はほとんど呼ばれる事がないため、なぜ急によびだされたのかを頭の中で考えていると不安でたまらなかった。なんかやばい事をした記憶はないが、僕の立場は色々とややこしいわけだし、何が来るのか全く予想できなかった。
僕は騎士についていって兄上の執務室のドアをノックし、入室許可をもらって中に入った。いくら家族といえど貴族の家ではこれが常識だった。僕を案内してきた近衛騎士は外にて待機している。そして部屋の中には兄上と宰相がいた。まあそこまでは予想通りだった。
宰相は僕にソファーに座るように促してきた。そして兄上も仕事を一旦、切りが良いところで終えるとソファーに座った。宰相はずっと兄上の背後に立ち続けていた。臣下としての鏡とも言える行動だった。
「兄上、急に呼び出すなど何用ですか?」
僕には呼び出される理由が全く思いつかなかった。だからこそその理由が気になった。
「レオ、そなたにはルイーズ ・フォン・リクロール公爵令嬢と婚約して王太子になってもらう」
「は?兄上、もう一度言ってください。意味がわかりません」
「だからレオ、そなたをルイーズ嬢の婚約者として、王太子にする」
兄上は全く訳のわからない事を僕に伝えてきた。そもそもを言うと、僕は母上の意向で王族としての存在も隠されているわけだし本当に意味がわからない話だった。そもそも王太子教育も受けていないし、王族としてそこまで厳しくされずに、自由に生きれるはずだった。
「恐れながら兄上、本気ですか?ルイーズ嬢はオリバーの婚約者でしょう。それに王太子の件に関しても兄上にはオリバーという立派な息子がいると記憶していますが。オリバーに何かあったのですか?」
「オリバーは盛大なやらかしをした。学園の創立パーティーで、余の許可を得ずに勝手にルイーズ嬢との婚約破棄を宣言し、さらにオリビア・フォン・トーカ男爵令嬢と婚約すると発表したのだ。王命での婚約を破棄することはいくら王太子であっても許されざる事だ。揉み消しようにもパーティーでの事件ゆえに既にことは遅い。よってオリバーを廃嫡とし、そなたを後継に据える」
「兄上、しかし僕にはエリック兄上がいます。そのエリック兄上にも3人男子がいますが。普通に考えてそちらの方が跡を継ぐのでは?」
「レオ、そなたは余と同じく父上と正妻の子だ。そして、王位継承権を持っている王族の中でルイーズ嬢に1番歳が近い」
「しかし、エリック兄上は僕より継承権が上です。年齢が近いなどは関係ないかと」
「継承権の件は気にするな。エリックは結婚してベントール公爵位を与えた際に王族を抜けている。すでに王族ではない。そしてそなたは知らないかもしれんが、継承権は王族を抜けた者のほうが王族の者より必ず低くなる。よってレオ、そなたは現在継承権一位だ。通常の継承法に従ってもそなたが王位を継承するのは変わらない」
「しかし僕はまだ9歳です。オリバーよりも年下です。さらにはほとんど存在も知られていない王子となれば臣下からの支持は得られないでしょう」
「レオはすでにその才覚を表しているではないか。100人に一人しか魔法が使えなくて使えてもそれほど使えない事が多いこの世でそなたは規格外の魔力がある。さらには記録の中では誰も使えたことのない神級魔法まで使える。使える属性の数も異常だ。そなたの使える属性は火、炎、水、氷、風、志風、大地、土、闇、光、精神、聖、空間、無、雷が使えるではないか。希少属性が使えると言うだけでもすごいのだ。そして、そなたはすでに鑑定、アイテムボックス、創造、スキル作成、テイム、剣聖のスキルが発現している。6つも発現しているものは滅多にいないぞ。普通は2つか3つだ。現にオリバーは2つしか発現していなかったぞ」
「しかし……」
「しかしなんだ。これは決定事項だ。この決定が覆ることはない」
「わかりました。兄上、失礼します」
僕は執務室を出ると盛大なため息を吐いた。今回の話、僕的には面倒な役目を押し付けられたとしか考えられなかった。王太子になりたい人もいるのかも知れないが、僕は出世欲などないし全く喜べる話では無かった。実質的に言うと僕の役目はオリバーのやつの尻拭いという事だ。
そして、僕は執務室を出た足のまま近衛騎士団の詰め場へいった。詰め場に入ると近衛騎士団長のリックに手合わせをしろっと指示し、リックと特別鍛錬場へ入った。僕の存在は一般隊員に隠されている。そのため一般隊員にあった時はレオナルド・フォン・ハッサルと名乗れと兄上に命じられていた。そして鍛錬場の中で怒りに任せて剣を振った。剣を振ると気が少し晴れた。リックはなんか普段と違う事を感じたようだった。
「今日は普段と様子が違うがどうした?」
「王太子にさせられた」
「陛下はオリバー様を切り捨てる判断をしたということか」
どうやらリックはオリバーの奴が起こしていた事件を知っていたようだった。
「オリバーの奴はなんで婚約破棄なんてするんだ。僕には全く理解できない。それになんで末子の僕に王位が回ってくるんだ!本当に王太子の座を押し付けられるなんて最悪だ!」
僕は気づいたら怒りのまま言葉を発していた。貴族としては失格だが、気心の知れた相手ばかりだし、気にしない事にした。
「王弟殿下、口調が荒くなっているぞ。まあ不思議に思う気持ちは俺も理解できる。王弟殿下は先王が亡くなる直前にできた子だもんな?」
「ああそうだ。僕は母上が五十歳の時に生まれた子だ。父上はその一年後、五十三歳で亡くなられた。原因は持病の悪化らしいな。僕はよく知らないけどな。一歳の時の記憶なんて残っていないし。それより僕は王太子教育なんて受けたくない!」
「王弟殿下は優秀だからそこまで苦労はないと思うが?そんなに嫌がらなくてもいいんじゃないんか?」
「教育が始まったら僕の自由時間が減る。そしたら魔法を実験する機会が減る。後、魔物を倒して新しい魔道具を作る時間も」
「その話を聞いていると王弟殿下は立派なのかわがままなのかわからないな」
リックに対して愚痴を言って少し弄られていると、怒りは少しおさまってきた。それに、せっかくきたのだから、模擬戦をする気分になってきていた。
「まあいい、リック、今から模擬戦をするぞ」
「わかりました、王弟殿下」
「なんで急に恭しくなったんだ?」
「まあ気分ですね」
「まあ良い、やるぞ!誰か審判をしてくれ」
そういうと、上級騎士の一人が審判に名乗り出てくれた。僕とリックは模擬戦を行うべく、お互いに間合いをとって離れた。
上級近衛騎士の一人が開始の合図をした。それと同時に僕はリックに飛びかかった。リックと僕の剣が当たった。カキンと、とても大きい音を出した。一回目の攻撃が失敗した僕、は一旦後退して再び間合いをとった。
今度は本気で走ってリックの後ろに回った。リックは気づいて避けようとしたが僕の策略にうまく引っかり、避けきれなかったのか、僕はリックの首に剣を添えることが出来た。僕は初めてリックに勝った。リックはとても驚いた様子だった。
「殿下、上達されましたね。またリアンダール侯爵子息の目を盗んで中庭でこそこそとやっていたのですか?」
「うっ、なぜばれた。ちゃんと僕は業務はこなしていたのに……」
僕はその後、何人もの上級騎士達と模擬戦をしてから帰った。ただ内心ではミカに叱られるだろうから帰りたくなかった。
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