死神がらんと灰狩ゴトリ

すきま讚魚

がらんとゴトリ

 



 "撃て、と心が叫んでいる。

 虚構のそのまた向こうの無音から、誰かがじぃとこちらを見据えている。

 その鼓動を穿て。最果てで只止まる事なく奏でられているその——鼓動を。

 撃て、と虚構の果てから声がした。


 あゝ、そこにいるのは。

 誰も彼もがばけものだ——。"





 ◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 "声は殺して、目をしっかりと瞑って——。そうするとごらん、奥底に視えた灰の色を穿つんだ"


 息を吐くその一瞬に。

 灰色は砕けて飛び散った。

 彼らの好むという断末魔や命乞いの間も与えずに、一発きりの弾丸で魔は消し飛ぶ。


 その落ち窪んだ眼窩は空虚なままこちらを見つめ、骨ばった指先が最期の意志をこちらへ向けてくる。


 "ウラギリモノ……"

 "うらぎり……もの"


 


 灰狩はいかりのゴトリには死に神の心臓が視える。

 はらはらと剥がれ落ちては消えてしまうような、儚い灰色の心臓が視えるのだ。

 異端の狩人カリウド。その頭髪が、まるで灰をかぶったような色をしているからそう呼ばれている……のではない。

 他の狩人たちには視えないのだ、死に神や怪物たちの心臓なんて。

 

「随分と腕を上げたじゃないか」

「いや……すいぎん弾の性能がよかっただけさ。また水源に立ち寄らなくてはね」

「おやおや、昔は命がけだったというのに。今となってはなんとも可愛げがないもので」

「昔は昔さ、がらん。ヒトは歳を食っていくものなのだから……おまえらと違って」

「言うねぇ」


 硝煙の匂いに混じって、囁くような声が聴こえた。

 暗闇の色を纏ったような朧な輪郭、彼もまた今しがたゴトリが撃ち抜いたそれと同じ死に神である。


「がらん、此処にはもう死に神はいないよ」

「わたしがいるさ。そしてゴトリ、きみもね」

「笑うに値しない冗談だね」


 死に神の心臓は灰の色をしている。

 その内部ではらはらと剥がれ落ちそうな灰の色を。

 けれども、それはゴトリ以外の狩人には視ることができない。心臓の事を話せば、多くの人間は気味悪がるか怪訝そうな表情で首を横に振るのだ。


 灰狩のゴトリ。異端の狩人。

 断末魔すら与えずに、一直線にその心臓を撃ち抜く者。

 そして——死に神をつれた、シニガミゴロシ。


 彼の傍らにはいつもひっそりと一体の死に神が佇んでいた。

 がらん——それは灰の心臓をもたない、異端の死に神。



 むかしむかしのそのまたむかし。

 今よりももっと、ヒトと精霊や、怪物、そして死に神たちが身近であった頃の物語——。

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