第二章『ナーチャ王国編』

アンドロイドの過去と勇者の出陣

〈30〉不良品の烙印

 ボクには、十一体の兄姉妹きょうだいがいる。

 五体の兄と、五体の姉。

 そして――たった一体の、妹が。


 ボクらは、十二体揃って、最強と呼ばれていた。


 十二体の内、一体一体が最強であり、そこに優劣などはなかった。

 表向きには。


 しかし、その裏では当然、ボクらに優劣をつけようとする人間たちもいた訳だ。


 それは、シンプルに、どのアンドロイドが一番強いのか? を確認するためでもあるし。

 今後、アンドロイドを大量生産、及び、改良していく上での情報収集、必須の確認事項でもあった訳だ。


 だが、アンドロイド同士での全力戦闘は、絶対にタブーとされていた。

 何故か?

 地球がもたないからである。


 アンドロイド一体が、地球上全ての軍隊、兵器に勝る――そんな怪物同士がぶつかり合うことは、地球規模の破壊を意味する。


 どのアンドロイドが一番強いのか?


 必須確認事項でありながら、それを確認する術がないと知った研究者達は考えた。

 考えに考え抜き、生み出された、そのためのツールが。



 『シュミレーション戦闘システム』というものだった。



 これは、ボクたちアンドロイドのデータ……すなわち、身体能力や固有能力、戦闘センスなどのデータを各アンドロイドごとに収集し、仮想空間で、戦闘をさせるというものだ。

 仮想空間の中では、最強のアンドロイド同士が全力でぶつかり合っても、地球が滅びることはない。

 それが生み出されたことによって、可能となってしまった訳だ。


 アンドロイドの格付けが。


 はっきりと断言しておこう……ボクは、この『シュミレーション戦闘システム』が、心の底から大嫌いだった。


 半月に一度、このシュミレーション戦闘を行うため、大規模な身体能力検査や、固有能力テスト、耐久力テストや、戦闘センス測定などが行われるのだが、それが近づく度、吐き気を催すレベルで、ボクはそのシステムを嫌悪していた。


 ランク付けが行われると、当然、格差が生まれる。


 格下か格上か……それが目に見えて現れるとどうなるか?


 人間の場合、差別やイジメといった現象が起こりはじめ。

 自然界の動物たちでさえ、同様の現象が現れる。


 つまり、能力の強弱による弱者淘汰は、どの生命体にでも発生する、自然現象みたいなものなのだと、ボクは思う。


 だから当然、アンドロイドの間でも、その現象は現れた。

 事実、『シュミレーション戦闘システム』が生み出されて以降……ボクたち、アンドロイド兄弟姉妹きょうだいの関係性は、崩壊した。


 かつては笑い合い、助け合っていた家族のようだった皆が……バラバラになっていった。


 研究者には、良いデータが取れて、ご満悦なシステムだったのかもしれない。


 ただ、ボクたちにとって……否、少なくとも、ボクにとっては、最低最悪のシステムであったと……言わざるを得ない。

 ボクにとっては――――それ以外の言葉が、見つからない。


 この『シュミレーション戦闘』において、ボクの脳内に、鮮明に刻み込まれた……いわゆる、トラウマとも呼べる、妹の発言がある。


 その時の妹の表情や、冷たい声のトーンは……恐らく、一生忘れることができないだろう。


 いつもボクの後ろを『お兄ちゃんお兄ちゃん』と可愛らしく着いて回り、いつもボクの後ろに隠れていた可愛い妹が、消え去った瞬間。

 それは、初めての『シュミレーション戦闘システム』の結果が掲示された時のことだった。


『え……? シモお兄ちゃんって……私より弱いの……? へ、へぇー……そ、そうだったんだ……』


 そう述べた妹の目は、明らかに、失望と落胆の色を醸し出していた。

 我が妹ながら、怖気が走るような目をしていた。

 その直前まで向けられていた、あのキラキラした瞳が……一気にどす黒くなったのだ。

 ボクへ常に向けられていた、あの天使のような微笑みも……あんな紙切れ一枚を見た瞬間、それ以降……一度も向けられることはなくなってしまった。


 妹だけじゃない……一部の、兄や姉たちからも……。

 そして……。


 研究者の人間たちからさえも……。


 『シュミレーション戦闘システム』が確立されてからは……。

 ボクは失格者、不良品の烙印を押されることになった。


 強いって……そんなに偉いことなのか?


 ボクは今……無性に、弱肉強食に拘っていた、あの【原種】の獣人――――キング・マウスへ問い掛けたい気持ちになった。


 お前も……ボクの兄姉妹きょうだいに比べたら、弱き者なんだぞ? と。

 その現実を知った上で、お前はなお……その信念を貫き通せるのか? と。

 問い掛けたい気持ちに駆られている。

 もう……その相手はこの世にいないのに。


 奴はきっと、幸せだったことだろう。


 その事実を知らずに…………死ぬことができたのだから。


 …………ボクはあえて言おう。

 死んでいったキング・マウスへ向かって、この言葉を送ろう。


 『上には上がいるものだ』


 なぜなら、お前に勝ち、ジーパ王国を取り戻したこのボクは――――


 過去四度の『シュミレーション戦闘』で、四度の最下位を獲得した、落ちこぼれなのだから。

 アンドロイドの中での最底辺である――――



 不良品――なのだから。



 さぁ、ここまで、散々なネガティブ発言を羅列しまくったところで、本題だ。


 物語は新展開を迎える。

 絶望的な、新展開を。


 これから語る物語は……ボクと妹との、一国を賭けた兄姉喧嘩の物語である。


 はっきりと明言しておこう、ボクは今、ものすごく気が重い。

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