最強アンドロイドの異世界英雄譚

蜂峰文助

第一章『ジーパ王国編』

アンドロイドとお姫様

〈1〉この世界を救うか否か

 突然だが、ボクはアンドロイドだ。

 日本で生まれ、日本で陰ながらに育てられた、アンドロイドだ。


 地球史上最強と呼ばれる人間型兵器である。


 ボクは、『JUWプロジェクト』という名のもとに造られた。

 J――Japan

 U――Ultimate

 W――Weapons

 安直なプロジェクト名だろう?


 しかしそんな安直なプロジェクト名から、とんでもない兵器が生みだされた。

 それがボク達だ。


 ボク達はアンドロイドは、第四次世界大戦に導入され、瞬く間に戦争を終結させたことから、伝説の存在となった。

 伝説である。

 自分でいうのもなんだが、ボクは伝説の男なのである。


 救世主とも呼ばれた。

 人類――はたまた、地球を、核兵器から救った救世主だと。


 けれど、そう持て囃された時期は長くはなかった。


 核兵器よりも強力な兵器を、人類が恐れないはずがないだろう?


 意思のある、核兵器よりも強力な兵器を。


 だからボク達は、世界中から、その命を狙われてしまった。

 表では持て囃されながらも、裏ではねちっこく、じりじりと各国から攻撃をうけていた。

 しばらくそんな状況が続き、最終的に――



 ボク達のリーダーが、キレた。


『ああ、もういい。こんな醜い生物が支配する星なんざ、ぶっ壊してやる』


 そんな訳でリーダーは、地球を滅ぼした。

 消滅させた。

 当然、といってはなんだが、いくらアンドロイドといえど、世界最強の人間型兵器といえど、地球という土台を失っては生きてはいけない。

 生命活動を維持できない。


 地球上に存在する、人間を含む全ての生命と共に、ボク達も死んだ。


 驚くなかれ、ボクが今、こうして喋っているのは、走馬灯なのだ。

 走馬灯のはずだ。

 だってボクは……ボク達は、死んだのだから。


『まだだ』


 え? 今……なにか声が聞こえたような気が……。


『お主はまだ、死んではならぬ』


 気のせいじゃ、ない?


『人の手で産み出された怪物……そんなお主らだからこそ、できることが、まだまだある』


 できること……? それって一体……。


『世界を救え』


 はぁ? 世界を救えったって、話聞いてた? ボクは……否、ボク達は、地球っていう世界を救ってしまったがために、こんな感じになってるんだけど?


『一度の絶望くらいで、人間全てを――世界全てを、知ったような気になるでない。世界は広いぞ、井の中の蛙よ』


 はいはい……とはいっても、どうすればいいんですか?

 その救うべき世界がもうないのですけど?

 人も自然も何もかも、地球という星すらも、木っ端微塵に砕け散りましたけど?


『世界は一つではない。先にも話したであろう? 世界は広いと』


 いってたけど? それに何か意味があんのか?


『お主達が住んでいた……生まれた星――地球は、その広い世界の、ほんの一欠片に過ぎぬといったら、分かるか?』


 ……ひょっとして、地球みたいな星が、とかいうつもりか?

 勘弁してくれ、あんな醜い奴らがいる星なんざ、他にいくつもあるとか想像したくもない。


『だからそう、結論を急ぐなと言っておろうに……他の星では、お主達は最後まで、英雄扱いされるかもしれぬぞ?』


 …………。


『そんな心の広い、人間達が住む世界も……あるやもしれんぞ?』


 ………………。


『まずはとりあえず、つべこべあれこれ考えず、救ってみろ。したらば、自ずと答えはでるはずだ』


 答え……ねぇ……。


『よいか? 怪物……否、【JUWNo.11】――霜月太郎しもつきたろうよ――――世界を救え。世界を……救うのだ!』


 謎の声がそう言い放った瞬間。

 ボクの視界が眩く光った。


 視界という言葉がふさわしいかどうかは分からない。

 なぜならボクは今、真っ暗な闇の中にいたからだ。


 そもそも死んだと思ってたし。

 ここがあの世なのかーとか、思ってたし。

 なんか変な声が聞こえるなーとか思ってたし。

 走馬灯もたいして神秘的じゃないなぁ、とか思ったし。


 けれど、少なくとも、どうやらあの変な声は、夢でも幻でもなかったようだ。


 眩しいと感じた、あの光が去ったあと。

 ボクの真っ暗だった視界から、一文字の微かな光が射し込んできた。

 その瞬間、ボクは思った――


 あ、目がある、と。


 そんな訳で、目の存在を確認できたボクは、ゆっくりと、その目を開いた。


 目の前には、広大な、緑溢れる自然の大地が広がっていた。

 生暖かい風を、肌が感じる。


「……少なくともここは……日本ではないな……あ……」


 不意にでた自分の言葉で、ボクは声を出せることに気づいた。

 その後、目で確認できる程度に、今の自分の姿を確認する。


 どうやら、ボクは今、地球を滅ぼした時と同じ姿らしい。


 戦闘服姿――


 アンドロイド用に造られた……最新式であるスーツタイプの戦闘服。


 そんなスーツ姿の男が、たった一人、草木生い茂る自然の中にぽつんと立っている訳だ。

 似つかわしくないな、と思う。


 ここはどこなのだろう?

 地球か?


 あの妙な声の言葉を鵜呑みにするならば、ここは地球ではない別の世界……要するに、別の星であるということなのだが……。

 にわかに信じ難い。

 そんなことある?

 いわゆる異世界転生というやつか?

 いや、あの声を鵜呑みするならば、ボクはまだ死んでいないそうだ。だから、それをいうなら『異世界転移』の方が妥当か。


「……まぁ、どっちでもいいか」


 ここがどこだろうと、関係ない。

 せっかくボクは生きているんだ。拾った命……せっかくなら、自由に生きよう。

 もう偉そうに指示を与えてくる人間もいない訳だし。

 生きよう――――自由に。


 やりたいことは、ボクが決める。


 さてさて、それではまず、何をすることにしようか?

 あの謎の声の主は、確かこう言っていた。


 『世界を救え』と。


 冗談じゃない。

 もう誰かに命令されて生きるのはこりごりだ。

 世界を救うかどうかは、ボク自身で決める。


 他の誰でもない――――ボク自身が。


 この目で、この肌で、そしてこの心で、この世界を堪能し……それから、決めることにしよう。



 この世界を救うか、否かを。

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