第20話
『______緊急クエストを発注します。この街に在籍する冒険者の方は直ぐにギルドに集まって下さい。繰り返します、緊急クエストを____』
魔道具を使って街中に呼び掛けているリアさんの声を聞きながら、俺はその横にただ突っ立っていた。別にサボってるわけじゃない。俺の仕事は冒険者がさっきの放送を聞いてギルドに集まった後だし、それまではやることが無いのだ。
どうせ後々戦場に引きづられていくことになるんだろうし、今から気を張っていては大事な場面で役立たずになってしまう。
「___くっぁ……」
「ふふっ、仕事中に欠伸するなんてマワル君らしくないですね」
横に居るリアさんに気取られない様に欠伸を噛み殺して居たのだが、努力も虚しく気取られてしまった。立っている位置もリアさんの後ろだし、イヤホンみたいなのも付けてるからバレないと思ったんだが、流石はBランク冒険者だ。
「……す、すみません」
欠伸を見られて何だか妙に居心地が悪くなった俺は両頬を手のひらでペチペチと叩いて、気合いを入れ直す。リアさんはと言えばそんな俺を見て、機嫌が良さそうに笑顔になっている。
「別に怒ってませんよ。寧ろ、マワル君がちょっとずつこの職場に慣れてくれたみたいで凄く嬉しいんです」
「……折角慣れてきたんですし、危険な緊急クエストに行かせるのは中止にしたりとか……」
「ないです」
笑顔のままで俺の意見を否定するリアさんはちょっとだけ鬼のように見えました。以上、現場のリポーターからです。……リアさんって基本的に笑顔だから、笑顔の裏に何か隠してないか不安になるんだけど、俺だけですか?
「はぁ……気分が重くなるなぁ……」
「大丈夫ですよ。ハルちゃん以外にもシスターもパーティに居ますし」
「……余計俺要らなく無いですか?俺ってば、ぶっちゃけそこら辺の子供より弱いですよ」
「あのパーティーにこれ以上強さは必要ありませんよ。必要なのはあのちょこっと問題のあるメンバーの手綱を握れる人員です」
「手綱を握るとかそんなことを偉そうに言える立場じゃありませんよ。と言うか手綱なんか付けれる気がしないんですけど」
片や戦闘中に高揚して武器を破壊する怪力バカ、片やオークの首を引きちぎり、そのままギルドに持ってくる頭のネジがぶっ飛んだバーサーカー……終わりじゃね?
手綱なんてほぼ確実に付けらんないと思うんですけど。よしんば付けれたとしても、手綱噛みちぎって暴れ始めそうなんですけど。絶対落馬するだろこれ。
「はぁ……憂鬱だなぁ」
俺はため息を吐くと、目を瞑って椅子の背もたれに体を預ける。
……結構な頻度で調査を行っていたため、オーク自体はさほど驚異ではない。……いや、一人で遭遇すれば間違いなく脅威だろうけど、ハルもシスターもいる今回は『驚異』では無いと言っても過言ではない。……はぐれたりしない限りだけど。
まぁ、そこそこ森も探索してるしはぐれることは無いはずだ。問題は……
「……上位種だよなぁ、やっぱり」
ギルドの資料室にあった資料には魔物の上位種について記されており、その中には勿論オークの文献もあった。
「最低でもオークキングはいるんですよね」
「はい……もしかしたらオークロードもいるかも知れません」
「俺達の役割は巣の周辺にいる奴らの掃討ですし、会うことはないと思うんですけど……」
しかし、こういう時に限って俺はそう言う厄介な奴に遭遇してしまう。まぁ、それは宿命と言うか、悪運と言うか……俺としては迷惑この上ない話なのだが……どうも周りがトラブルを連れてきそうな予感がするのだ。
「……魔王軍にも動きがあったみたいですし不安ですね……」
「ギルドマスターからの手紙に書いてあったんですか?」
「はい。どうも今回の王都への招集は魔王軍活性化による勇者召喚についての会議らしいです」
「あの人って仕事してるんですね」
俺のその言葉にリアさんは苦笑すると青色の綺麗な便箋に入れられた手紙を渡してきた。
「……なんですかこれ」
「ギルドマスターからマワル君宛てのお手紙です」
「開けてあげてください」と笑顔で言ったリアさんに押されて封をしてあるシールを軽く外すと、俺はその手紙に目を通す。
「えぇっとなになに……『お前と同じ世界に居たやつが勇者として召喚されるかもしんねぇ』……えっ、これだけ?」
俺は綺麗な字で一行だけ書かれた文に困惑しつつ、裏に何か書かれていないか確認する。生憎と後ろには何も書かれていない。
「へぇー、ならもしかしたらマワル君の知り合いが呼び出されるかもしれませんね」
「無いですって。俺らの世界何十億人も居るのにその中でピンポイントで呼び出されるとか、どんな奇跡ですか」
「そもそも別の世界から人を召喚すること自体も奇跡ですから」
言われてみれば、確かにそうだ。実際俺だってゼロ様に転生って言う奇跡で蘇らさせて貰ってるしな。もし、今回死んだら女神様に土下座して助手として働かして貰おうか。無理そうだったら足舐めでもなんでもして……いや、ゼロ様のなら余裕、寧ろご褒美。誰だ今キモイって言ったやつ。
「マワル君、どうしたんですか?」
「ナンデモナイデス」
いきなりカタコトで喋りだした俺にリアさんは怪訝そうな目を向けるも、直ぐに興味をなくしたのか受付カウンターへと戻って行った。
……危ない危ない、もう少しで俺が変態っぽくなるところだった。皆からの紳士イメージを崩す訳には行かないし、以後気を付けなければ。
取りあえぜ、リアさんも受付へと戻ったことだし、俺も装備とか道具の確認しておくか……。そう思った俺はリアさんに一言断りを入れ、自室へと戻る。
「えーと、取りあえず何時も調査で持っていってる道具だけポーチに入れるか。最悪、持てないやつは『アイテムボックス』に仕舞えばいいし」
ポーションやランプの代わりになる魔道具、後は先日大量に買った煙幕を調査に行く時に何時も腰に下げているポーチの中に入れる。
最悪、煙幕が足りなくなったらアイテムボックスから取り出せばいい。正直言うと何処からでも出せる分アイテムボックスの方が楽なのだが、最近仲良くなった、Bランクパーティーのリーダーが隠しておいた方が良いって言ってたし、なるべく隠す方針なのだ。
「後は自作の『コレ』だけど……効くのか?」
俺は煙幕玉と似たような構造をしたそれを手でコロコロと転がすと、煙幕玉の隣に秘密兵器を入れた。これで、もしもの時も少しは時間稼ぎが出来る筈だ。
「一応、ガチャもしとこう」
俺は戦闘力増加を求めてガチャのランクを上げるためのポイントと十連分のポイントを残し、ガチャを回すことにした。
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