意識低い系建築学生ぼく、建築学科を語る

富士之縁

第1話 建築学科は工学部の面汚しである

「建築学科は工学部の面汚しである」


 1行目から建築学科のネガキャンをしていく人間、それがぼくだ。

 いや、ネガキャンはネガキャンなのだが、ぼくとて理由もなく暴言めいた言葉を吐くわけではない。

 というか、見方を変えれば別に暴言ではない。

 ぼくが言いたいのは、


「建築学科なら工学部っぽいゴリゴリの計算とか実験とかしなくても卒業できまぁす!!」


 ということであって、要するに工学部のクセに数学や物理が苦手な大学生でも卒業できる優しい学科だから誰でもウェルカム! と建築学科の素晴らしい点をアピールしているのだから単なる罵詈雑言ではないのである。

 フレーミング、大事。

 フレーミング次第で短所に思えていたことも長所に変えることができるのだ。多分、設計実習とかでも言われるやつだと思います。


 それにしても、大半の学生が関数電卓を持たず、チェックシャツも着ないチャラチャラした陽キャの巣窟――建築学科って工学部なんですね。

 ……ということをぼくが知ったのは、一次試験で若干コケて、どこでもいいから受かりそうな二次試験の出願先を探している時だった。

 ぼくを含めた建築に興味のない方々は、建築学科が何学部なのかなんて基本的に知らないのである。

 たしかに建築学部というのは少ない。wikipediaを見ると一番古いやつでも2011年ぐらいらしい。歴史の浅い学部である。


 しかし、建築自体の歴史は古い。

 当然、建築学科の歴史も古いわけだが、工学部の一部として長らくやってきたわけである。

 構造分野や環境分野などでは、それらの研究室に行くとゴリゴリに計算する未来が待っていて、確かにそれらだけを見ると工学部という感じがする。

 これらの分野があるおかげで工学部を名乗れているのであって、意匠や建築史などの分野は美術系や文系の領域に近い。人数的には意匠系に進む学生が多いため、工学部っぽい建築学科の学生はレアキャラと化している。


 一部の建築学科では卒業に際して「卒業論文」と「卒業設計(卒業制作)」の2つを課されるようだが、流石に負担が大きいのか、はたまた、二兎を追う者は一兎をも得ず、みたいなクオリティになることを避けるためか、どちらかだけで卒業させてくれる大学もある。

 ぼくが学んだ大学は後者なので、工学部なのに論文を書いたこともなく、計算力も高校生並(高校数学や1年次の必修の数学を忘れると中学生並になる)の学生が大量に輩出される大学となっている。


 でも卒業できちゃうから問題ないんだな、コレが。これまでも何十年と似たような状況が続いてきたわけだし。

 そう言ってしまうと完全に文系っぽく思われるが、一応工学部なので四則計算が出来ないヤツは卒業できない(大学によっては卒業できるが一級建築士の受験資格を得るまでが大変になる)仕様となっている。

 一応、構造力学や環境工学の単位を取得しなければならないわけだが、専門的に学ぶ学生以外でも単位が取れるように、四則計算が出来ればどうにかなるように手心を加えられているのである。

 一級建築士の試験でも計算問題は出題されるが、これもまあ式を暗記して必要な値を代入して計算すればオーケーな内容であり、数学力は必要とされない。

 というわけで中学生でも卒業できそうな建築学科をよろしくお願いします。

 何なら経済学部の方が計算力必要だと思う。


 ちなみに、最近では文系でも受けられる建築学科がいくつか出現してきているらしいので「四則計算だけでオーケーなら自分でも入れそうだけど文系だからなぁ……」という高校生も一度ネットで調べてみることをオススメする。

 理系は医学部や情報系の学部に能力の高い人が流れていくので(ぼくも情報系の敗北者なので1ミリも知識がない建築学科に流れてきたクチである)、文系の頭よさそうな人材をキラキラ感で釣り上げる戦略は良いんじゃないかと思う。

 まあ、偏差値の高い大学があまり採用していない戦略なので文系の実力層を釣り上げるのは今のところ難しそうに思われるが。


 数学力がなくても卒業できるので、建築学科は工学部だけでなく、美大にも設置されている。

 天下の東京藝術大学さんにも建築学科はある。

 むしろ海外では、建築家を志す学生はアート系のことだけを学ぶのが一般的であって、構造力学だの環境工学だのを学ぶのは建築エンジニア志望の学生だけだから両方(一応)学ぶ日本の建築教育は特殊だ……みたいな話もたまに聞く。

 工学部なのに入試で美術系のことをやらされたり卒業設計だけで卒業させてくれたりコロナ禍でもマスクを普通に着用できないオラオラ系の輩が闊歩したりしているのは、そういう背景もあるからだ。


 海外といえば、海外では建築学科が5年とか6年制になっている国もあるらしい。

 これは、高度化していく建築について4年で教えるのは無理だと考えている国が多いということでもある。日本でも実質的に6年制のカリキュラムを組もうとしている大学はそれなりにあり、建築学科の大学院進学率は高い。

 旧帝大などでは9割近くが進学するとも言われている。


 ここまで院進学率が高いと院浪もまあまあ見かける。ぼくの周りでもチラホラ実物を見かける。

 かくいうぼくも院試を受けたら受かってしまったので進学予定である。

 ぼくが院試の話をすると「お前が話をすると大学ブランドに傷が付くからやめろ」と資格学校の営業マンに止められている。

 ただ、確実に身バレする話なので書くかどうかは未定だ。


 さて、ここまで色々書いてきたわけだが、建築学科の関係者諸氏が推測する通り、ぼくは建築学科のカルチャーに馴染めていない。

 馴染めていないから友達がいないのか、友達がいないから馴染めていないのかは分からない。

 ぼくが根本的に友達を必要としていないだけなのでその辺は安心して欲しい。

 そもそも過去問でテストをどうにかするという発想も性に合わないし、テスト自体そんなことをしなくても単位が取れる難易度になっているから人脈がなくても困らない。

 従来の建築学科では、製図室と呼ばれる建築学科用の部屋に寝泊まりして大量の課題をこなし、その過程で横のつながりが育まれていく……というのが通例だったようだが、コロナ2019直撃世代のぼくには通用しない。


 つまり、建築学科に馴染めないまま過ごした人間による偏見8割の建築学科評がこれから書き連ねられていくわけなので、その点だけご容赦いただきたい。


 建築学科はねぇ、別に悪いところじゃないんですよね……。ただちょっと他の学科に比べて課題が多いとか、(最近はアカハラやパワハラ対策でぬるくなってきたけど)講評会で教授陣の言葉が辛辣になりがちとか、そもそも100年ぐらいあまり進歩してないとか、これから(日本では)建築需要が減っていくし専門職に就こうと思ったら選択肢が薄給激務か高給激務の二択みたいになっている、みたいなほんのり昏い部分がフィーチャーされがちなだけだから……。

 だから、みんなも過度に怖がらずに建築学科に行こう!

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