第8話 凶悪なるトレントの正体


「こ、これが100年伝わる凶悪なるトレントの正体じゃと!?」


 元冒険者の老人、ハリスが依頼を受けた冒険者たちを連れてきた。


 しかし、老人たちの目前には、雷魔法で体が焦げた巨大ワニと、氷魔法で氷漬けされた樹木系の魔物があった。


「しかし、こんな形状のトレントは見たことがない。どういう種類なんじゃ?」


「それは――――」とトレント討伐の疲労によって座り込んでいたユウトが説明する。


「ある国では、冬は虫で夏には草になる生物がいると聞いています。

 冬虫夏草と言って……種明かしをすると、単純に虫にキノコが取りついただけなのですが……」


 ユウトは「スープにすると美味しいらしい」とお道化てみせる。


「このトレントも同じ……巨大なワニに憑りついた樹木系魔物だと言うのか? とても信じられんわ」


「おそらく、凶悪なるトレントと言われていた理由も想像がつきます。 実は皆さんが到着する前に付近の川を調べてみました」


「うむ……もし本当にワニに取りついていたのなら、川の下流から上流に上がってきたとなる」


「しかし、なぜじゃ?」とハリス老人は疑問符を浮かべる。


「ここらの川は、巨大ワニが上って来るには細く浅いはず」


「えぇ、コイツ等が狂暴化していた理由もそれです。 コイツは、どうしても山を登らなければいけない理由があったのです」


「理由? コイツがここに出現する理由。山を――――そして100年の――――」


「気づいたようですね。きっと、コイツ等は100年に一度、山に登って植物の戻ってくる。繁殖のためにね」 


「――――」とハリスはユウトの説明を聞いて言葉を失う。


「た、確かに普通の魔物なら、産卵の時期に狂暴化するのは珍しくないじゃろう。しかし、植物系の魔物も同じなんて話など聞いた事もないわ」


「コイツ等の種は、山から川に落ちて海へ――――そこで巨大な魔物を狙って取りつく。そして、100年後に山に戻り――――寄生した魔物を殺して植物に戻って種をばら撒く。コイツ等、そうやって進化してきたのでしょね」


「すまないが……」とユウトに話しかけてきたのは、ハリスの依頼を受けた冒険者たちの1人。 どうやら、魔法使いであり、冒険者たちの頭目のようだ。


「私も長い年月をかけて魔物の研究をしていた自負がある。しかし、私でも、そのようような魔物は聞いた事がありません。つまり――――この魔物は新種となるはずです」


 今もまだ、世界には未知の魔物が存在している。 奴らは、人を襲い、殺す事が本能に刷り込まれている……そう言われている。


 だから――――


「この新種は、早く冒険者ギルドへ報告して正式な調査をして貰うべきでしょう。さすれば、あなたに膨大な名誉が与えられ、名前は後世にまで長く――――」


「すまないが、その名誉は貴方にお譲りしますよ」


「何を!」と魔法使いの男はユウトの言葉に驚かされた。


「正式なトレント討伐依頼を受けたのは貴方たちです。俺は、貴方たちの獲物を横取りしただけ――――それで名誉なんて恐れ多い」


「いえ、そのような事は……」と躊躇している魔法使い。 ならばと依頼主であるハリスに話しを振る。すると老人は――――


「ほ、本当に、この魔物は新種なのか? 名前が残るほどに凄いことなのか?」


「どうやら、そのようですね」とユウトの言葉に老人は興奮を隠せなくなった。


「どうじゃ! 見たかワシを、言い伝えを信じなった愚か者どもめ! これで、村は! 村には若者が戻って来るぞ!」


 その様子に魔法使いは、引いていた。 その理由は――――


「あ、あなた、まさか……信憑性がないのに、魔物の被害を確認していないのに、魔物の討伐依頼を冒険者ギルドにしたのか!?  ギルドへの虚偽報告は重罪になる可能性もありますよ?」


「それがどうした? 本当にいたじゃろ? それも、誰も見たことのない新種じゃろ? 結果が良ければ、全て良かろうなのじゃよ!」


 呆れたような魔法使いにユウトは思い出したかのように言う。


「さすがに新種のトレントは、素材として採取するのできないだろうが、こっちの巨大ワニの方は違うだろ? どの箇所を冒険者ギルドに持って行ったら高値で引き取って貰えるか、わかりますか?」


「え? あぁ……そうですね」と魔法使いは、少し考えて答えた。


「ワニが革が高く取引されると聞いていますが……この様子では」


「確かに、表面は黒焦げだ。だったら、口内の牙はどうだろ? 俺の鎧を貫く強度だった。武器に加工できるんじゃないかな?」


 ユウトの鎧。それも真新しい鎧に幾つかの穴が空いている事に気づいた魔法使いは――――


「では、鎧が修理できる金額で売買できればいいですね」と言ってから「お気の毒さま」と付け加えてくれた。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


「……さて、急ぐか」


 新種のトレントと戦った翌日。 ユウトの朝は普段から早いが、今日が特別に早かった。


 まだ、夜明けには遠い時間帯。深夜とも言える。


 暗闇はランプで照らして、ユウトは駆け出した。


 「流石に人はいないか? でも急がないと」


 目的地に到着した彼。 その場所は――――まさにトレントと戦った山。 


 巨大ワニも、トレントも、既に冒険者ギルドの手によって運ばれいる。


 しかし、日が上れば調査団が、新種の魔物について大がかりな調査を始めるだろう。


 それよりも早く―――― 


 ユウトは、昨日の戦いの直後。トレントの正体を掴むため、付近の川などを探索していた。


 その時に、とんでもないものを発見していたのだ。


 それはおそらく、新種の魔物発見という名誉を辞退しても、余りある成果の可能性があるもの――――


 それとは、巧妙に隠されたダンジョン。 その様子から、長らく人類が未踏だったと思えるダンジョンだった。


 

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