第9話 その影響は多岐にわたる(1)
翌日から、ルートヴィヒは婚約者であるシャルロッテとの交流はそのままに、ローゼマリーとも頻繁に会うようになった。元々、彼女は姉のことにかこつけてよく彼の元を訪れていたこともあり、回数が多少増えたとしても今さら訝しがられることもなかった。
だがルートヴィヒの方からローゼマリーをデートに誘ったり、私的に贈り物をし始めると、さすがに苦言を呈する者も現れてくる。例えば。
「おいルートヴィヒ、お前一体どういうつもりなんだ!?」
「おや兄上。どうなさったんです?」
「どうもこうもあるか!最近お前がシャルロッテ嬢を蔑ろにしていると噂になりつつあるぞ!?」
直に突撃してきたのは兄の第一皇子ハインリヒである。ルートヴィヒのふたつ歳上で、年が明けてフェル暦668年の今年18歳になる。婚約者の侯爵家令嬢ヴィルヘルミナとはこの夏に婚姻式を挙げる予定で、年明け早々から忙しくしていた。
「あー、そうですねえ。では少し控えましょうか」
さすがに噂になりすぎるのはマズい。あくまでも
「いや、控えるとかではなくてだな」
渋い顔のまま、ハインリヒはなおも弟を諫めようとする。それを見て、もういっそ協力を仰いだ方が良さそうだとルートヴィヒは思い直した。
「実を言うとですね兄上」
「なんだ、いきなり改まって」
かくかくしかじか。
「えっ!?」
そりゃ驚くに決まっている。ハインリヒだって、まさかそんな無理を通そうとする陰謀が繰り広げられているなどと思いもしないのだから。
「いやお前、そんな無茶な」
「その無茶を、
「………………あんのバカ親どもめ」
呆れ返るハインリヒだが、他ならぬ両親のはっちゃけぶりは彼もよく解っている。
「要するに、
「ええ、困ったことに」
「だが、周りになんと説明して認めさせる?」
「それは今この場で思いついただけで、根回しはこれからなんですが……」
そうして話し始めるルートヴィヒに、今度こそハインリヒは絶句することになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「えっ!?そ、そんな、困りますぞ!」
眉を八の字にへにょっと曲げてオロオロとしているのは宰相インゴルフ・フォン・リッペ。ヴィッケンブルク侯爵である。
「シャルロッテ嬢にはすでに公務の結構な割当があってですな……!」
「それは順次元の部署に復して下さい」
ルートヴィヒ皇子はにべもない。
そもそも、まだ皇子の婚約者に過ぎないシャルロッテに、婚約者として定められた公務以外の業務が割り当てられている時点ですでにおかしいのだ。
「それに、今まで彼女に世話になった分、彼女の幸せを後押しして恩返ししようとは思いませんか?」
「い、いや、まあ、それを言われると……」
3年前に前任者の突然の辞任で急遽宰相に抜擢され、慣れない業務で四苦八苦していたインゴルフを見かねて手助けを申し出たのが、当時まだ14歳だったシャルロッテである。それから2年、申し訳ないと思いつつもインゴルフは彼女に甘えて内閣省宰相府の業務を一部引き受けてもらったままだった。
だが、さすがにそろそろ潮時だろう。旧に復せと言われて、ようやくインゴルフも腹を括り始める。
「いや、分かり申した。確かにシャルロッテ嬢に甘えてばかりでは帝国宰相の名折れでしたな」
「うん。分かってくれて嬉しいよヴィッケンブルク侯」
「となると、外務省と総務省と逓信省にも認めさせねばなりますまい」
「…………………………は?」
まさかそんなに多くの官庁がシャルロッテに公務を引き受けてもらっていたなどと、さすがのルートヴィヒでさえ初耳であった。いや大丈夫なのか帝国政府。
「あと、一番引き受けてもらっているのは皇后府ですからな。ブリュンヒルト陛下にも覚悟して頂きませんと」
「っ、母上ぇーーーー!!」
その後、過去一番冷えきった眼差しでこんこんと説教を食らった皇后ブリュンヒルトが仕事したくない、どうかカンベンしてと泣いて縋ったが、ルートヴィヒは決して赦さなかったとか。
ついでにそれを黙認していたフリードリヒ4世もその場に
なおセイザとは、ガリオン王国で
まあ上記の内容は
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