第2話 本当に“罰”なのかしら?
何が起こっているのか、わたくしにはまだよく分からない。
分かっているのは、わたくしが皇宮の
脚竜車の客車は最高級の仕立てで座席のクッションも効いていて、長時間座っていても全く腰が疲れない。広々とした室内には皇宮の侍女が同乗していて、それどころか公爵家でのわたくしの専属侍女であるライナまで乗り込んでいる。
どう考えても、辺境伯領へ流す罪人の扱いではない。なのに皇宮の侍女もライナもさも当然と言わんばかりに平然と座っていて、それがまたわたくしを混乱させる。
「ね、ねえ、ライナ?」
「はい、なんでしょうお嬢様」
「わたくしは……今、
「んー、そうですね」
ちょっと待ちなさい。
何よ今の
「貴女、何か知っていて?」
「着けばお嬢様にもお分かりになりますよ」
「今説明なさい」
「申し訳ありませんができかねます」
「なっ……!?」
ライナがわたくしの意に沿わぬことなど初めてで、思わず絶句してしまった。
「まあまあ。そう難しくお考えにならずに、まずは景色でもお楽しみ下さいお嬢様。お嬢様が帝都からお出になるのなんて久しぶりではございませんか」
そう言われて、つい窓の外を見る。窓の外には帝都で暮らしていればまず見ることのない草原が広がっていて、遠くには川面のきらめきも見て取れるし、その向こうには鬱蒼とした森も広がっていた。
それが脚竜車のスピードに合わせてどんどんと後方に流れてゆく。流れてゆくほどに新たな景色が目の前に現れ、そしてすぐに後方へと消えてゆく。それについ見入ってしまう。
確かに言われてみれば、幼い頃からアスカーニア公爵家の帝都公邸で育ってきて、帝都から外に出たことはほとんどなかった。公爵家の長女として、何度かお父様に連れられて公爵領に赴いた事がある程度で、それもルートヴィヒ殿下の婚約者になってからは一度あっただけだ。
それよりも皇子妃教育のために皇城へ詰めることの方が多くて、下手をすると最近では帝都公邸よりも皇城で過ごす時間の方が長いくらいだった。だから必然的に泊まり込むことも多く、皇宮にはわたくしのために専用の私室まで与えられていた。
ああ。もうあの私室にも二度と入ることはないのだわ。きっと今頃は使用人たちが命じられて、部屋の片付けをしている頃ね。特に失って惜しいような私物は置いてはいなかったけれど、あの部屋は殿下とお茶をしたり寛いで話をしたり、思い出がたくさん詰まっている。
それを思い出して、つきりと胸が痛んだ。
殿下。本当にどうして、わたくしを信じて下さらなかったのですか。婚約者としてお仕えさせて頂いていた6年間、恋慕の情はないまでも、互いに心を許し合って良き
そう言えば、わたくしの流される先がブレンダンブルク辺境伯領なのは何故なのでしょう。確かに辺境伯領は仇敵たる帝政ルーシとかつて幾度も激戦を繰り広げた戦地で、そこの領民は過酷な暮らしを強いられていると聞き及びます。そんな辺境伯領をおまとめになる若き辺境伯アードルフ様は5年前のルーシとの戦争でご活躍なさった英雄で、その戦功により辺境伯の地位をお継ぎになった御方。
もっとも世間では、その5年前の鬼神の如き活躍から“戦場の死神”と称されていたり、その戦でお顔に手酷い傷を負われていて、その怖ろしげな容貌から“
でも、わたくしは知っております。
彼がとても心根のお優しい、噂とは正反対の御方だということを。10年前のあの日、お父様とはぐれて困っていた幼いわたくしを保護して優しくお声がけ下さって、お父様の元へ連れて行って下さったあの日のこと、わたくしは1日たりとも忘れたことなどありません。
そんな彼の元へ嫁げと、殿下は仰いました。
それがわたくしへの罰なのだと。
でもそれって、わたくし的には“ご褒美”ではないのかしら?
本当に?本当にわたくしは彼に嫁いでも良いのですか?殿下の婚約者に選ばれて以降、そんな未来はあり得ないものと諦めていましたのに。
本当に、これは現実なのかしら?
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