3like a demon I
「市街」のほぼ中央部には、病院がある。この都市が〝結界都市〟となり、暫くしてから建てられたものだ。
では何故わざわざ中央部であるこの場所に建てられたのか。その理由は実に単純で、それでいて効果的で効率的なものだった。
「市街」では
賞金稼ぎや賞金首狩り――
そのことに対して〝結界都市〟を統括する者達、「都市連合委員会」もなんらかの処置を執らなければならなかったのである。
まず、必要な設備を整えること。これは比較的簡単であり、〝結界都市〟に住む人々も賛同したために、なんと僅か半年足らずで病院が建設された。
受傷した人々に対する対処だが、〝ハンター〟と犯罪者、賞金首との戦いに巻き込まれた者、そしてそれに類似することで受傷した者に限り、その治療費はどの程度の怪我であっても無料、無償で治療が受けられる。
更に、それで死亡した者には生命保険の加入、未加入に関係なく、その生活水準に見合った金額が保証されるのだ。
そして最も重要なことである医師だが、実は優秀な人材が見付からなかった。
「都市連合委員会」は当初、天才と呼ばれた医師であり、生体機械工学者の権威でもあるラッセル・Vを院長に招き入れようとした。
だがその矢先、彼は何者かに殺されてしまった。
一説によると、それを妬んだ者が犯行に及んだのではないかと
だが彼には【Vの子供達】と呼ばれる四人の
その中の一人に、彼の全ての知識と技術を習得したと評されている者がいたのである。
但し性格に多少問題があるのだが、それらを差し引いたとしても、充分に釣りが来るほどその者は優秀だ。
なんといっても〝龍脈〟の乱れから発生する、生物を生体として再生不能にする瘴気〝ドラゴン・アシッド〟に侵された者ですら治療可能なのである。
五年前、ラッセル・Vでさえ治療不可能であったにもかかわらず、彼はそれを見事にやってのけた。
その出来事もあり、彼は「都市連合委員会」の依頼を受け、その病院の院長となったのである。
そのとき、彼は幾つかの条件を出した。そしてそれを断ることは、彼という優秀な人材を永遠に失うこととなるために、「都市連合委員会」はそれを呑んだのである。
もっとも彼の要求など、莫大な財を成す「都市連合委員会」にとっては些末なものであったのかも知れないが。
その条件は、以下のとおりである。
まず第一に、彼を今後一切【Vの子供達】と呼ばないこと。
第二に、病院の運営、方針には一切口を挟まないこと。
第三に、病院内で起きる全てのトラブル――〝ハンター〟と賞金首の戦いなど――の処理は病院のスタッフに一任すること。間違っても公安・警邏に口出しをさせないこと。
第四に、この病院を受診する患者の支払い金額設定に口を出さず、且つ保険請求をした分だけ支払うこと。多い少ないという問い合わせは一切無用。
最後に、この病院内で働くスタッフの給与、病院設備に関する支払いは全て「都市連合委員会」の負担とする。
一般的な一企業としてはかなりとんでもない申し出だったが、それらが全て受理され、その病院が運営を開始したのである。
病院の名は、当初の案として「都市連合委員会」が役職会議を重ねに重ねた結果で「ドラゴンズ・ヘッド中央病院」としていたのだが、院長となる彼が猛反発して却下した。
理由は、
「招かれたとはいえ自分が主となって運営し経営するのだから、
だ、そうである。そして最後に、
「
と言い、一緒にいた副院長候補を大いに慌てさせたのはご愛嬌だと、自分で言っていたそうだ。
土地建物、そして設備までも整え用意したのだから、それくらいはしても良いだろうという意見もあったが、彼はそれら全てを拒絶した。
それを与えてしまえば、今後様々な面からありとあらゆる口出しや手出しをされ、最後にはその全てを奪われると解っていたからである。
そう。「都市連合委員会」とは、そういう組織なのだから。
よってその命名は院長である彼に託されたのだが、あれだけ散々文句を言っておきながら「名前なんぞは『病院』で良い」などと、実に雑なことを言い始めた。
それでは他所の病院と区別が付かないと集まったスタッフに説き伏せられ、渋々命名した。
それは解り易く院長の名をそのまま使っており、そしてその院長の名は――
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