Trash Land
prologue I
〝結界都市〟の外、都市の中に入ることが叶わなかった廃墟は犯罪組織や賞金首の巣窟となっている。
だから此処は、賞金稼ぎと賞金首、または犯罪組織間の抗争が絶えない場所となっていた。
数ある犯罪組織の中でも、最も巨大な勢力を誇っている組織〝ヘカトンケイル〟。
この組織は様々な顔を持っており、実は〝結界都市〟の企業とも取引しているほどの組織である。
極めて稀なことなのだが、この組織にはそれ自体に賞金が掛かっており、壊滅させた者は莫大な賞金を得ることが出来るという。
そしてその金額は既に天文学的な数字になっており、例えそれが実行出来たとして、果たして支払えるかどうかすら怪しいほどであった。
組織自体に賞金が掛かる、それがなにを意味しているのか。
それはその組織に関わる全ての者を一掃しろという、限りなく不可能なことであった。
だが――
犯罪組織〝ヘカトンケイル〟のボス、ユークリッド・アプケスは極寒の廃墟を走り続けていた。
どうしてこんなことになったのか、理解出来ないし判りたくもない。
つい数時間前に自分はいつものように、廃墟の中であっても空調設備が整っている、明りを消した暗い寝室で享楽に耽っていた。
それが自分の楽しみの一つであり、誰にも邪魔されたくないことの一つであったからだ。
それが16タイム。
そろそろ日も暮れ始め、外気温が急激に下がり始める頃、一人の男が寝室の扉を破壊しつつ侵入して来た。
咄嗟に明りを点けようとしてスイッチに手を伸ばすが、それよりも早くナイフが飛来し、スイッチを破壊した。
「やべぇな」
混乱して自分にしがみ付く女達を振り払い、ガウンを羽織ってベッドの下に潜り込む。
其処には隠し扉があり、いつでも安全な場所に逃げることが出来る。
今までもそうやって生き延びて来た。
裏切りは日常茶飯事。そして身の程知らずな賞金稼ぎに狙われることすらいつものこと。
逃げるのは恥ではない、死ぬことが恥なのだ。
それにそれでもなお追って来たら、自分の兵隊達に蜂の巣にさせれば良い。
そう思いながら廊下を走り、兵隊が屯している酒場の扉を開けた。
其処にはいつものように忠実な兵隊達が数十人、賭博やドラッグを楽しんでいる筈だった。
だが彼の眼に飛び込んで来た光景はその見慣れたものではなく、鮮血に染まり血溜まりに沈む、ただの肉塊と成り果てた兵隊達だけであった。
そして部屋の中央にある丸テーブルには一人の男が胡座をかいて坐り、酒瓶に口を付けている。
「……何者だ、てめぇ! んなことして只で済むと思っていやがるのか!?」
「Noisy」
ドスの効いた声で凄むユークリッド・アプケスへそう即答し、一瞥を向けてから男はゆらりと立ち上がった。
不自然に純白な髪と対照的な漆黒の大きなサングラスを掛け、革のコートを羽織っている。
その下に戦闘服らしきものは一切身に付けておらず、安物でわけの判らない柄のTシャツだけを身に付けていた。
「I didn't do anything…… It's him」
僅かに首を傾げてから耳の裏を掻いて天井を見上げ、同じく僅かにサングラスを上げ裸眼で下目遣いに彼に視線を向ける。
「んだとぉ?」
その態度が癪に障ったが、この惨劇の中心にいて尚飄々としている姿に不気味さを感じ、ガウンの内ポケットにある銃に手を伸ばして壁に背を付けてゆっくり移動する。
自分の兵隊は相当の腕利きだ。それを全滅させられる奴は限られている。
公安の特殊部隊ですら易々と手を出せない。なにしろ全身機械仕掛けか、ドラッグで強化している者共だ。
それをこうも簡単に全滅させられるヤツらを、実は心当たりがあった。
だが、
「それはねぇな……」
考えを振り払い、銃を抜く。この銃は軽量だが、高圧のレーザーを連射出来る。倒せないまでも眼眩ましには使える筈だ。
「Are you serious? What are you going to do with those things?」
銃口を向けられて尚、男は飄々としている。
その態度が、気に入らない。
自分が引き金を引けないとでも思っているのか、それとも只の大莫迦野郎か。とにかく、其処まで舐められるのは気に入らない。
「五月蝿ぇ、このサイコ野郎!」
トリガーに指を掛け、白髪の男に向けて発砲しようとした瞬間、突然天井が崩れた。
「な、何だぁ?」
全く予想していなかった出来事に驚いているユークリッド・アプケスの眼の前に、漆黒のロングコートを靡かせて、黒錆色の長髪で色白の男がゆっくりと着地した。
「Look. Criminal's appearance」
そう言って笑いながら、白髪の男は再び酒を一口飲み、「tasteless!」と言いながら噴き出した。
「You're an accomplice」
それに対して男は呟き、その容姿に似つかわしくない蛮刀を抜いて逆手に持つ。
そのときユークリッド・アプケスは思った。この男が、自分の兵隊を全滅させたのだと。
「I was just helping out. nothing else」
面白くなさそうに白髪の男が言うが、
「Shut up. 〝A.HEAD〟」
黒衣の男はつれなくそう言い、それで話は終わりと言わんばかりに背を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます