HEAD.HUNTER

佐々木 鴻

introduction

〝結界都市〟の異名を持つ都市〝ドラゴンズ・ヘッド〟。


 此処がどうしてそのように呼ばれているのか――それを知るためには、ほんの少しだけ歴史を紐解いてみる必要がある。


 まずこの都市は、惑星そのものの力といわれている大地の「精気」が集中している土地の一つ、「龍穴」に作られている。


 その曇りのない純粋なエネルギーは、量、質ともに最高といわれ、あらゆる資源の元となった。


 それが、その土地に作られた都市は必ず発展するとさえ言わしめている所以ゆえんである。


 事実、この都市は他の追随を許さないほどの発展を遂げており、一時は世界の中心都市とさえ呼ばれていた。


 だがそれほどまでに発展している都市であっても、人々の欲求は満たされることがなかった。


 都市の全てを統括している者達、「都市連合委員会」はこの大地から次々と溢れ出るそれを使い、この地を更により良いものにしようと画策した。


 満足することを知らない人々は挙ってそれに賛同し、次々と「龍穴」から「精気」を吸い上げていったのである。


 その結果、大地に異変が起きた。


 急激に大地のエネルギーを吸い取った結果、都市周辺の半径約100キロメートル圏内の「精気」が乱れ、その乱れが気候すら影響を与えてしまったのである。


 都市周辺の気候は異常を来し、日中は主だった変化はないが、夕暮れから明け方に掛けて気温は氷点下を遥かに下回る。


 平均気温は零下50度、そして過去最低気温は零下六七度。


 それは既に、通常の人間が耐えられる気温ではなくなってしまっていた。


 そのようになって初めて自分達の犯した過ちに気付いたのだが、それは既に遅過ぎた。


 都市周辺の大地は人間の力では修復不可能なまで荒れ果ててしまったのである。


 このままでは都市が機能しなくなるばかりか、この地から人々が離れて行ってしまう。


 そう考えた「都市連合委員会」は、ある一つの打開策を打ち立てた。


 それはこの都市そのものを、巨大な天蓋――ドームで覆ってしまおうという計画であった。


 だがそれにはある問題を解決しなければならなかった。


 まず、半径数10キロメートル以上の広大な都市を丸ごと包むほどのドームを創り出すことが、果たして可能なのか。

 それを作るだけの資金を、一体誰が出すのか。そして創ったとして、その強度はどうするのか。


 それらの問題を前に、計画は頓挫しつつあった。


 問題の一つである資金に関してならば、実はそれほど問題にはなっていない。

 何故なら此処は世界でも一、二を争うほど発展している土地だから。


 一番の問題は、強度である。


 ドームを作ったとしても、それを支えられなくては論外だ。その問題に直面し、検討を繰り返し遂に出た答えがこうだった。


「龍穴」の「精気」を直接ドームに流し込んではどうか。


 計画は実行され、まず始めに都市の区画整備が行なわれた。


 ドームに収まるように円形に区画整備し、余分な所は徹底して排除された。

 都市からの出入りに関しては、地下にリニアモーターカーを設置し、空調なども地下を通して行なわれるようにしたのである。


作業は、時間との戦いだった。


 刻一刻と周辺の環境は変わって行き、日に日に夜間の気温が下降して行く。


 そんな中、昼夜を通して行われた作業が、なんと僅か五年で完成し、都市はやっと安堵と安らぎの空間となったのである。


 その反面、ドームで覆いきれなかった部分は放置され、廃墟と化し、賞金首や犯罪組織の巣窟となった。


 この都市の名は〝ドラゴンズ・ヘッド〟。


「龍穴」の上に創られた都市。


 そして全てのものを拒むかのようにドームで覆われた異形の容貌。


 ――全ては其処から始まり――


 ――そして其処で終わる――

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