第8話
成が東京に戻らない。
もう2か月が経った。
俺は、毎日イライラしていたがどうにか封印して仕事をこなした。
ピアノを弾く事で収入を得ていたが、そろそろ限界だろうか、和井さんにも音に出ていると厳しく指摘された。
「壱、なんとかならなら、暫くコンサート辞めるか?お金を取るってプロってことだろ」
「大丈夫だ」
「はっ、嘘つけ、音が荒い、直ぐわかる」
ここ何日か同じ会話を繰り返えしている。
成との連絡も同じ繰り返しだ。
俺はなんで成に嫌われてしまったんだ、何が気に入らないだろう。
20年以上も成だけを見て来た。
小さい時2歳上の姉が俺の世話を焼きたがり指事までしたが、俺は嫌で逃げ回った。
幼稚園の先生がピアノを弾いていたのが、子供心に感動して、弾きたいと思って母さんに頼みピアノ教室に通った。
母さんも子供の頃習っていたと言って俺のピアノの練習を教えてくれた。
姉はピアノは練習が大変とか色々言っていたが、何を言っているのかわからなかった。
姉は1年習って辞めたらしい、姉の時も母さんは毎日練習しようと姉に言ったが、ほとんど練習しないでピアノ教室に通った。
上達しないで辞めたので、俺がピアノ教室に行く事が面白くないようで、なにかと意地悪をする。
だいぶ俺が大きくなってから聞いたが、俺にはどうでも良かった。
俺の事は母さんは喜んでピアノ教室に通わせ、毎日母に教えてもらいながら一緒にピアノを練習した。
そのピアノ教室で成と出会った。
こんな可愛い子がいるなんてビックリした、絶対俺のものだと5歳の時決めた。俺の事をチラチラ見てニコッと笑った時は俺の体がバクバクした。
週一回会えるのが楽しみだった。成のピアノは聞いた事がないけど成より上手になりたくて連絡をたくさんした。
小学校同じだねと成と話し時、(僕、小学校に行くからピアノ教室辞める)と言われ(えっ)って周りが真っ暗になった時の事は鮮明に覚えている。
俺は小学校に入ってもピアノやる。成の為に弾いてあげれるようになるって言ったらTVの漫画の歌を歌いたいって俺の顔を覗きこんできた時はビックリした。
幼稚園が違ったが、小学校は一緒だった。成を見ていると、ニコニコとうんうんの仕草が多い、可愛いすぎる。
おっとりして俺の後をついてきた。思い出すと俺がついて行った。
そうだ、最近勘違いしていたが、俺が振り回しているように見えるが、振り回されているんだ。それでも俺は満足だった。
小学5年生の夏休みに入る2日前、父さんと母さんは離婚をした。理由は詳しくは知らないが、父さんが、
「壱、母さんを助けろよ、父さんが家を出るけどお前たち3人は、今まで通りだ。お金も全て心配ないから大丈夫だ。壱、頼んだよ」
「俺は、成を助ける」
「…えっ、そうか、…、うぅん、まぁ困った時は絶対に父さんに連絡しろよ、壱の事は父さんが助けるよ」
「うん」
あの時の父さんの顔を今でも覚えている。我が息子を憐れんでいるのか呆れているのか、その父さんとは半年に一度くらい会っている。
離婚って言われ体の半分が消えたような不安になった。
次の日の1学期最後の帰り道、俺は思い切って成に告白した。
不安が消えたわけではなかったが、成の返事を聞いて長年の思いが叶ったと嬉しかった。
俺の家に寄ってと誘い、誰もいない家の中で初めてのキスをした。成はビックリしていたが、
「どう思った」って聞いたら、「壱、良い匂いする」って顔を真っ赤にして言ってた。
「俺たち2人の秘密な」「うん」何度もキスをした。
小学生の時は隠れて遊び半分でキスをしてしいた。
今思い出しても照れてにやけてしまう、たぶんこんな顔誰にも見せた事がない。
成は勘違いしている、全部俺の言いなりで生きてきたと、全く逆なのに、…たぶん。
やはり、じっくり成と話し合う必要があるな。
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