第6話 第一回戦
海海ランド……。
数週間前に俺は、ここで井上さんと向き合った。
あの時は、俺を罠にはめる為だったからか、最終的に、人がほとんどいなかったけれど……。
『ご覧ください! この大歓声! 今! この海海ランドにて、ノーマルコーポレーション主催の、
まだ、入場すらしていないというのに、人々の声で、建物が振動している。
まさか、これほどの人々が集まるなんてーーさすがは、ノーマルコーポレーション。
て、ことかな?
『さぁ、皆さん! お待たせいたしました! ついに、あの人物達の入場です! その正体は、敵か? はたまた、味方なのか!? 今大会の注目選手、ミルキーシスターズの入場です!!』
「よっしゃー!!」
「ちょっ!? まっ、マリン!!」
あっ!
イルマちゃん……雰囲気あてられすぎだよ。
実況者の声にあてられたのか、イルマちゃんが、楽しそうに駆け出して行くと、それに続くようにサクラちゃんも入場する。
……ふぅ。
俺も、行くか。
と、光が溢れている方へと歩き出し、開けた視界に映ったのはーー。
円形になった客席を、埋め尽くさんとする程の人の数。
デカデカと、俺らを見下ろしてくるかのような、巨大な液晶テレビや証明器具類。
そして……。
そんな中でも、平然と前だけを見て、並んでいる複数の人物達。
こっ、これはーー。
やっ、ヤベェ~!
想像していたよりも、凄まじい光景だぞおい!!
今まで、部活の大会やら何やらで、こういう場面に出くわしたことは、あったけれど……そんなの、お遊びレベルで、レベルが違いすぎる!!
と、あまりの大迫力に、歩くことさえ忘れ、その場に俺が立ち止まってしまうとーー。
前の方から、イルマちゃんが慌てたように駆け寄って来る。
「ちょい! 何してんのよサルバトーレ! 目立っているってば!!」
と、少し怒り気味で、俺の手を引っ張りつつ注意してくる。
「えっ!? あっ、ご、ごめん。あまりにも、すごい迫力で……」
しまった。
今は、入場している最中だった。
こんな中途半端なところで、立ち尽くしていたら、それは、目立つよな。
絵面的に、小さい子供に大人が手を引かれているからかーー周囲から、笑い声が聞こえてくる。
はっ、恥ずかしい!
「ひぃ~。どどど、どうしましょう! わわわ、私、緊張でててて、手が!!」
と、笑われつつサクラちゃんの待つ元へと俺らが着くと、何やら顔を真っ赤にしたサクラちゃんが、そんなことを言いつつ自分の両手を擦り合わせる。
サクラちゃん……俺とは、違う理由でだけれど、顔が紅くなっているじゃん。
でも、わかるよーーその気持ち。
「落ち着きなさいよ。こんなの、スポーツ観戦とかと、あんまり変わらないってば!」
「まっ、マリンはすごいな……俺も、この光景は、ちょっと緊張するよ」
てか、むしろイルマちゃんの平常心は、一体何処から出てきているんだ?
サクラちゃんがいなかったら、俺も足が震えているところだぞ。
……さすがに、大人のプライドで、何とか隠せているけれど。
と、俺らの中で、唯一平常運転なイルマちゃんが、俺とサクラちゃんに気合いを入れる為か、背中を軽く叩き「しっかりね!」と、伝えてくる。
大人として、なっ、情けない……。
『ミルキーシスターズの入場により、ついに出場選手が出揃いました! それでは、これより、G1グランプリの開会式を始めたいと思います! つきましては、まずは、私の紹介から!!』
と、今まで会場に響きわたっていた声と共に、俺らの前から大きな煙があがる。
おいおい。なんだ急に?
「じゃ、じゃじゃーん! お待たせいたしました! G1グランプリの総合司会、並びに審判役を承りました。みんなの~、スーパーアイドル! 水梨レイカでーす!」
……。
水色のフリルをあしらったスカートに、ヘソ出しの衣装ーー。
そんな、セクシーな服装でショートカットの美少女が、煙がはれると共に、その場に現れた。
そして、彼女の登場により、会場全体から歓声があがる。
「ありがとうございまーす。レイカ、チョーゲキ感激! てことで、皆さんよろしく~!!」
パチリっ。
と、小さな星を目元にあしらった少女ーーレイカというらしい彼女のウィンクに、またも歓声が巻きおこる。
なっ、なんなんだよーーこの異様な盛り上がり。
いちいち、心臓に悪いんだけど?
「うわっ。水梨レイカじゃん。どんだけ、お金使ってんのよ」
「マリン。そのーー彼女って、人気なの?」
と、元々この世界の人間ではない俺の、知識不足問題がどうやら関係しているようだった為、隣のイルマちゃんへと、小声でそうきいてみると、呆れたような顔をされてしまう。
「はぁ? 嘘でしょう? サルバトーレだって、テレビで、何度か見たことがあるでしょうが」
いや、確かに見たことはあるよ。
可愛い子だとも、思うけれどーーそんなに人気だったのか?
俺的には、豪華な登場演出の方に、意識を引かれたけどな~。
「最近、テレビで人気になった人ですね。今年の二月くらいからでしょうか……くだけた性格と、ふざけた口調で、一気に人気になった方です」
「ガイア、レイカ語ね? ふざけた口調って、おばあちゃんじゃないんだからさ」
と、俺達の会話が、聞こえていたらしいサクラちゃんから、早速説明が入る。
ーーのだが、すぐにイルマちゃんからツッコミが入ってしまい、その意味がわからなかったのか、不思議そうに首を傾げてしまうサクラちゃん。
サクラちゃん……あんまりアイドルとかには、詳しくないもんね。
「さてさて! レイカの紹介も終わったので、早速始めちゃいますか。それでは、開幕の宣言とルール説明の方を、よろしくお願いしまーす! 可愛い副社長さん!」
「一言余計です。では、ご紹介させていただきました、ノーマルコーポレーション副社長。平等院トウマが、ここからは、引き継がせていただきます」
可愛らしく、俺らと同じ舞台にいたトウマくんへと、パスの意味を込めてウィンクをするレイカ。
それに対して、いつもと変わらないクールな顔で受け答えたトウマくんは、俺らの前へと歩み出ると、モニターへと、大きくルールを映し出す。
「それでは、ルール説明をいたします。まず、直径二十メートルのこの武舞台上にて、一対一のトーナメント形式で、本大会は、戦闘をしていただきます」
一対一か……。
予想通りの大会仕様だけれどーーそれにしても、トウマくん。
こんな大勢の中でも、一切の緊張をしていないな……。
俺達は、予選をパスしてもらったから、その分の時間を特訓に費やしていて、一切の情報がないけれどーーこの舞台上にいる人達は、全員予選を通過した人達ばかり。
つまりそれは、全員それなりの強さということ。
そんな人達の戦う姿を、彼は、全て観ていたはずだ。
なのに、あの落ち着いた雰囲気……。
俺達が、この中で優勝などできるわけないと、確信しているのか?
それともーー俺らを含め、この中なら自分が勝てるということかなのか?
「勝敗を決めるのは、大きく分けて三つ。一つ目は、再戦不可能と、審判や医療部隊が判断した場合。二つ目が、武舞台から場外へと出た場合。そして、三つ目が、本人の棄権申告及び、反則事項に触れた場合です」
ーーいずれにしても、こっちからしたら最悪か。
などと、説目を聞きつつ俺が思っていると、イルマちゃんが、首を傾げる。
「反則事項?」
「あれだね。刃物や銃火器じゃないかな?」
と、事前に配られていた事柄を、イルマちゃんへと伝えると、納得したのか、静かに頷く。
「また。場外へ出た場合に関しましては、十カウント以内に戻ってくることができれば、問題ないものとします。それと、用意されている医療部隊は、考える限り最高の人員ですので、ご安心してください」
「場外による敗けも、ありなんですね。それなら、積極的にそれを狙った方がいいかもしれません」
と、俺のことを見上げつつ、サクラちゃんがそう伝えてきた為、頷いておく。
十カウントという制限付きではあるがーー特別な力があるこちらとしては、それを狙った方がいい。
けど、問題もある。
「そうだね。問題は、十秒間どうやって場外に留めておくか。だけれどーー」
「そんなもん、落としまくればいいでしょう! こうやって、こうやってさ!」
俺の場合なら、重力操作をすれば確実だが、二人の場合は、どうするか?
という意味でも、二人に投げかけたのだが……イルマちゃんは、その場でシャドーボクシングのように拳をふるうと、そう答えてくる。
ははっ。
相手が力尽きるまで、落とし続けるってことかな?
イルマちゃんらしい。
「他の人ならともかく、紺碧の二人にそれは、難しいのでは?」
「たく、何言っているのガイア。あいつらなら、本気で戦っても平気でしょう? 実際、冷酷副会長に、ボコボコにやられたんだしさ」
「そうですけど……やはり、対応策くらい考えておいても、いいような気がします」
「いやいや。ぶっつけ本番でしょう? 今さら考えた所で、結局意味ないって」
と、トウマくんが話す中、そうして二人が話続けていると、どうやら、トーナメントの抽選が始まるらしい。
ふぅ~。
実際、ここが一番大切だよな……。
うまいこと、みんなバラけてくれますように!
「はい。こちらの箱から、ボールを一つとってください!」
「あっ、はい」
と、近くに寄ってきた水梨レイカが、そう言いつつ箱を突き出してくるので、そこからボールを一つ取り出す。
……人気なだけあって、近くで見ると、確かに可愛いな。
てか、身体細すぎないか?
などと、考えながら引いた黄色のボールには、『一』の文字が、貼られていた。
「はい。一番ですね!」
「えっ!?」
いっ、一番!?
よりによって、一番かよ!!
他の試合を観戦しつつ、色々と対策を練ろうと思っていたのに……
まさかーー初戦になるんじゃないだろうな!?
「マリン、何番でしたか?」
「あたしは、九番だったけど? ガイアは?」
「私は、五番でした」
「五番か~。で、サルバトーレ。固まってないで、あんたは?」
「えっ? あっ、一番だけど」
てか、俺がショックを受けている間に、二人とも引き終えていたのかい。
「はーい! 全員引き終わりましたね? それでは、トーナメント表を、発表したいと思いま~す!」
と、最後に入場した俺達が引き終えたからか、水梨レイカが、無駄に一回転しつつウィンクして言うと、会場から歓声があがる。
「それでは、発表です。正面の巨大モニターをご覧ください!」
そうして、映し出されたのは、引いた番号と、それぞれ登録した顔写真と名前。
その順番はーー。
『サルバトーレVSスコープ・バレット』
『悪魔少年VS荒木クマ』
『ミルキーガイアVS呪詛老師』
『美肉体ブラーボVSハッスル高田』
『ミルキーマリンVS近衛信次郎』
『ビューティーレディVSヤン・ホワン』
『弓姫VS平等院トウマ』
ーーえっ!?
やっぱり、一回戦が俺だったかーーという驚きよりも、最後のシード枠!
「弓姫って!?」
「ちょっ! あっ、あいつ本気!? いくらなんでも、普通自分と仲間をぶつけるぅ!?」
と、俺と同じ思いだったのか、二人からもそれぞれ驚きの声があがる。
バラけろとは、思っていたが……まさか、こんな結果になるなんて!
と、つい井上さんの姿を探してしまうと、俺の視線に気がついたのかーー全身鎧を纏った状態の井上さんが、小さく頷く。
井上さん……。
「みなさん! きちんと記憶をしましたか~?
グリグリ~と、脳に刻みつけてね? そして~ななな、なんと!! 早速、第一回戦が注目選挙である、ミルキーシスターズからの登場です! 記念すべき開戦は、この二人! サルバトーレ選手と、予選では、一切の無傷で通過しました、スコープ・バレット選手!」
驚いている暇など、与えてくれないのか、水梨レイカの声によって、続々と選手が去っていく。
そんな中、俺達の所へとトウマくんが近寄ってくるとーー。
「運良く、バラけたな。トーナメント表を見ればわかると思うが……一切の不正を、こちらはしていない」
そう、鼻で笑いつつ言ってくる。
その言葉に対して、すぐさまイルマちゃんがムスッとした顔をするが、何かを言い出す前に、そっと肩に手を置く。
聞こえ方によっては、挑発にとれなくもないけどーー実際、不正をするのなら、俺達をぶつけさせたり、井上さんと自身を違うブロックにするはずだ。
ある意味、彼の言葉を証明するトーナメント表になったわけだ。
「俺達の運が、よかったみたいだ。欲を言えば、シード枠が欲しかったけどね」
「シード枠よりも、最高のプレゼントだろう? 何せ、井上というお前らにとっての、最大の障害を潰せたんだからな」
「「なっ!?」」
「もっともーーお前らが俺とあたるまで、勝ち抜けるのかも、微妙だがな」
せいぜい、頑張ることだ。
と、すれ違い様にそう言い残したトウマくんは、他の人達同様、試合会場から去っていく。
最後の言葉……。
「こんの、冷酷男!! どういう神経したら、あんな嫌なセリフがでるわけ!?」
「井上さんは、平等院さんにとっても、大切な人のはずです。なのに……まるで自分が倒すのが、確定しているかのような言いかたーーあんまりだと思います」
と、二人揃って、トウマくんに対して、怒りの声をあげる。
ーーが。俺は、それよりも、彼の言葉の方へと意識を向けてしまう。
勝ち上がることが、難しい?
俺は、ともかくとして、サクラちゃん達は、人間を越えた力を持っている。
それは、一度戦ったトウマくんだって、実感しているはずだ。
それなのに、勝ち上がることが難しいと言うことは、つまるところ、この試合にサクラちゃん達と互角に戦える人物が、いるということになる。
俺は、てっきりトウマくんと、井上さんだけを注意していればいいと思っていたけど……。
「二人とも。ちょっと、きいてくれ」
「はい?」
「何よ?」
「この大会……あまくみない方が、いいかもしれない。一試合一試合、全力で行こう」
でないと、取り返しがつかない事態になる。
と、そう思い、二人へと伝えると、初めの方は、キョトンとした顔をしていたが、すぐさま頷いてくれる。
「わかりました!」
「オッケー。任せなさいよ! 全員、けちょんけちょんに、してやるからさ!」
ふふっ。
良かった……二人が、良い子で。
この調子なら、平気だろう。
と、俺がヘルメットの中で微笑んでいると、イルマちゃんとサクラちゃんが、拳を突き出してきた為、それに拳を軽くぶつける。
「じゃ、頑張りなさいよ! 観客席で応援してるからさ!」
「遠藤さん。くれぐれも、気をつけてくださいね?」
「あぁ。任せてよ。ミルキーシスターズが、悪者じゃないって、この大会で証明するさ」
イルマちゃんとサクラちゃんが、会場から出て行くと、武舞台には、俺と、審判役なのかーー水梨レイカ。
そして、全身を迷彩服で統一している、緑髪の男の子……スコープ・バレットの、三人のみになる。
彼が、対戦相手か。
それにしても……ずいぶん若いな。
いや、俺もまだまだ若い分類に入るのだが、彼の場合は、見た目からして、高校生くらいか?
「は~い! 会場の皆さん! テレビの前の皆さん! そしてそして~目の前のお二人! 準備は、よろしいですかな?」
と、スコープ・バレットの様子を観察していると、水梨レイカから、開戦の準備を問われる。
「問題ないです」
「……こちらも、問題ない」
「ではでは! 記念すべき、第一回戦! ミルキーシスターズ、サルバトーレ選手VSスコープ・バレット選手! 試合開始です!!」
水梨レイカの声と共に、会場にゴングの音が鳴り響く。
ふぅー。
落ち着け……ここまで、井上さんに鍛えてきてもらったんだ。
繰り出される一手目に、全神経を集中するーー。
と、目の前に立ち尽くす、スコープ・バレットへと集中していると、何故か突然片手を上げ始める。
おや?
「審判」
「……はっ!? あっ、私ですね? 危うく、審判役を放棄するところでした~。で、何でしょうか?」
「確認だ。本人が棄権を宣言した場合、戦闘をせず、勝利で良いんだな?」
「へっ? えぇ、そうですね」
「そうか……」
そう呟くと、水梨レイカから、俺へと視線を向けたスコープ・バレットはーー。
「棄権しろ」
と、無表情・無感情で告げてくる。
……はい?
「えっ?」
「聞こえただろう? 棄権をしろと言った」
いや、聞こえていたよ。
そのうえで、理解できないんだけど……。
「あの、なんで?」
「何で? 無駄な痛みを知るよりも、知らずに生きた方が良いだろう?」
つまり……遠回しの、勝ちます宣言か?
それほどの自信がある。て、ことだと思うがーーどのみち、こちらは、素顔がかかっているのだ。
わかりました、棄権します。
って、わけにはいかない。
「ありがたい配慮だけど、断らせてもらうよ。こっちも、いろいろと背負っているからね」
「そうか……バカな奴だ」
と、呆れたようなため息を、無表情でついたスコープ・バレットは、俺の方へと歩いてくる。
「おや? あれ? もう、審判にきくこととか、ない感じ?」
「いや、すぐに必要になる。その場にいろ」
すぐに?
と、スコープ・バレットの言葉に疑問を抱いていると、素手を伸ばせば届く距離へと近づいた彼は、一度その場に立ち止まる。
なっ、なんかーー不思議な人だな。
歩く動作もそうだったけど……妙に、雰囲気が静かーー。
と、俺が首を傾げた瞬間。それは、くり出された。
棒立ちからの、左手の手刀。
攻撃をされた!
と、脳が理解した時には、すでに右肋骨の真下へと、キレイに真っ直ぐ揃った五本の指が、深々と突き刺さる。
感じたことのない痛みに、俺が一歩後ろへとさがると、その動きを予想していたかのように、一歩踏み込みつつ、右拳のアッパーカットを叩き込んでくるスコープ・バレット。
っッ!?
加減無しによる、流れるような攻撃……。
あまりの素早さと、的確なポイントへの攻撃によって、真上を向いて倒れた俺は、右肋骨の部分を片手で抑える。
めっ、メチャクチャいてぇ~!
「終わりだ。審判、勝利宣言をしろ」
「ーーはっ!? えっ! ちょっ、早すぎっしょ!?」
……はぁ?
勝利宣言だって?
おいおい……たしかに、今も痛みがひかないほどの激痛だし、ノーモーションからの速すぎた攻撃に、対応ができなかったけれどーー。
それは、バカにし過ぎだろう?
「当然の結果だ。俺とこいつでは、生きてきた世界がーー!?」
と、無表情で審判へと話しかけていたスコープ・バレットへと、仰向けで倒れていた俺は、右足を高く振り上げる。
完全なる不意打ちでの動きだったが、すぐにその攻撃に対応したスコープ・バレットは、片手を前へとつきだす。
俺の攻撃を、逸らすためだ。
ーーだが、それでは、防げないぞ!
俺の右足に意識をとられている間に、左足の膝裏でもって、スコープ・バレットの右の足首へと絡ませた俺は、一気に自身の方へと引きつける。
不意打ちに対する攻撃と、同時にくり出す右足への変則的な足払い。
その動きに、身体がついていかなったのかーースコープ・バレットの重心が、ブレる。
ここだ!
そのタイミングで俺は、左手で自身の身体を押し上げると、振り上げた右足の踵をスコープ・バレットの左肩へと押しつけ、全体重を乗せる。
「っ!?」
足払いによる不安定な体制に加え、突然乗される重さーー。
それにより、今度は、スコープ・バレットが、無様に地面へと倒される。
……今までの俺なら、初めの二撃だけで、やられていただろう。
それほどまでに、こいつの攻撃には、キレと重さがあった。
でもなーー。
もしもの為にと、井上さんがーー。
成長しないだの、なんだのと言いながらも、カスタードがーー。
俺の為に、力になってくれたんだ!!
引き倒したスコープ・バレットへと、残っている右手を握りしめた俺は、その無感情の顔へと、腰を捻りつつ特殊能力を付与させた拳を、振り下ろす。
ガスン!!
頭部へと、強烈に叩き込まれる拳ーー。
確実に、重い一撃を入れたはずだが、すぐにスコープ・バレットが、脇腹へと拳を放ってきた為、その攻撃を、すぐさまスコープ・バレットの上から、飛び退くことで避ける。
「っ!」
頭を片手で抑えつつ、その場にゆっくりと、立ち上がるスコープ・バレット。
その瞳には、先程の無感情とは違い、激しい怒りが見てとれる。
へへっ。
怒らせられたなら、上々だな。
「甘くみていると、今みたいに、足元を掬われるぜ?」
「……ほざけ。ぬるま湯に浸かった、人種が」
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