79:フルアーマー冴内

 力堂達は結局朝まで飲み明かした。仲間同士、それも遠征先で朝まで飲み明かすなんて一体いつ以来だろう・・・ともあれ酔いを醒まそうとテントから出て、冷たい湖の水で顔を洗おうとしたら何かがこちらに向かって飛んでくるのを見た。


 まさか竜!?と思ったが大きさもシルエットもまるで違う。まさかあれは・・・昨日知った情報の中にあった・・・


「力堂さぁーーーん!」

ヒヒィィーーーンー!

「ハ・・・ハハ・・・」


 力堂は草原の大地に大の字になって倒れ、そのまま大笑いした。心の底から腹の底からあらん限り笑った。これほど愉快で痛快なものを見たのは初めてだった。ここまで無邪気に盛大に笑ったのはもしかしたら生まれて初めてかもしれない。


 そんな隊長の尋常じゃない笑い声を聞いて一斉に隊員達がテントから出てきた。そして大の字になって大笑いしている隊長と、空から太陽の光を浴びて神々しく輝くペガサスに乗ってやってきた冴内を見て本当に神とやらがやってきたのかと思った。


 ちなみに話は前後するが、後で冴内が結局食べずに残ったカップラーメンを「もしよかったら皆さんで食べて下さい」といって渡してきたときは別の意味で彼は本当に神だと全員思ったのであった。


 ともあれ冴内と力堂はおよそ一ヵ月ぶりの再会を果たした。


「力堂さんお久しぶりです!」

「おう!たったひと月なのに顔つきが精悍になったな!一人前の探索者のようだぞ!」

「そんな・・・まだまだ経験不足のひよっこです」そうして二人は堅い握手を交わした。


 酔い醒ましと徹夜明けの頭を刺激するため湖の水で淹れた熱いコーヒーを飲み、冴内が持ってきたカロリーフレンドや板チョコをかじりながら互いのこれまでの状況を話し合った。


「しかし、ストーンヘンジ・ゲートに行ったとはなぁ・・・英雄剣はどうだった?」

「はい、その部屋だけ別格で神聖な感じでした。そしてやっぱり持とうとしても手をすり抜けました。力堂さんも行ってみたことがあるんですか?」

「あぁ10年くらい前に行ってその場で見たことがある。もちろん持とうとしたがまるでビクともしなかったよ。なんというか、ただ単に重いというよりも何かの力で遮られているような感じだったな」

「そうなんですか・・・あっ、そういえば銃があってそれは持つことが出来ました」

「なるほど、銃は地球上で作られた武器だからな、そうなるとゲートの中にある武器ではなく、ゲートの中にある素材で作られた武器が持てないのだろうな」

「ただ銃はあまり役に立たないと言っていました」

「そうだな日本でも昔猟銃が試されたがイノシシ一頭しとめるのに何発も撃ち込んだらしい」


 他にも色々と話し、力堂や他のメンバー達の酔いも完全に冷めたのでいよいよ本題の竜の件に話しは移行し、竜発見に至った経緯から発見場所や発見時間など映像を交えて色々と説明した。冴内の方でも自称「神の中の神」が夢の中に現れてその神を救出するには竜の力が必要らしいと説明した。冴内はこの話はまだ誰にもしていたなかったので冴内以外でこの事実を知るのは力堂が初めてになる。


 神の中の神を、神の称号を得た冴内君が竜の力を借りて救出するだと!?いよいよこいつはファンタジーだ、と力堂は内心思った。


 だが事実竜も神もそしてペガサスに乗ってきた冴内も存在する。ならば今は冴内の動向を全力でサポートし記録することが最善であると即座に切り替えて決断した。他のメンバーについても完全に同意しているようで早速冴内と竜をいかにして引き合わせるか検討した。


 冴内がアリオンにあの山のてっぺんまで飛べそうかと聞くと前脚をかかげてヒヒィーン!と強く嘶いたので「余裕で飛べるそうです」と力堂達に説明すると若干引きつった笑顔で了解した。


 それを聞いた力堂達は早速冴内の飛行登山プランと冴内の装備品を検討し、すぐに装備の装着に取り掛かった。


 既にハーネスと命綱はあり、農作業シーカー達が取り付けてくれた馬具も簡易的なものとは思えない程しっかりしているのでこれはそのまま活用。そうなるとまず重要なのが防寒対策ということで、過去最も寒い地域に行った先人シーカーが持ち帰った白熊の毛皮で作られた防寒具を着せた。毛皮こそ何十年も前の素材の使い古しだが、今は地球で開発された最新の内側素材が用いられ3層構造になっており、保温性能は最強クラスで蒸れないように蒸気を逃がすようになっており、さらに動きやすさと軽さも成立させている。当然防寒インナーと胸と背中を守るインナープロテクターも装備させた。


 グローブやブーツも保温性と防御性能が高いものが装着された。グローブは手の甲側に軽くて丈夫なゲート内金属で作られたプロテクターガードがついていて、ブーツはスキーやオフロードバイク用のブーツのような見た目で強化プラスチックでスネまで覆われており、グローブ同様プロテクターガードがついている。防寒具、グローブ、ブーツは最新式の電熱ヒーターも内臓されており大型モバイルバッテリーからの送電で最大3日間は内部を温めることが出来る。頭部にはインカム内臓のサングラスバイザー付きヘルメットを装着し額には小型アクションカメラを搭載。リュックも3点ハーネスで固定するものに変更し、高級ポーションなどが入った救急医療キット、簡易食料と水、保温性能のあるクッション材、そして酸素ボンベを入れてリュックの口からホースを伸ばし口元のマスクと連結した。


 そうしてフルアーマー冴内が完成した。見た目にはまるでアクション映画に出てくるパラトルーパー(落下傘降下兵士)のようだった。

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