77:北北西に進路を取れ

 一方最大中心人物の冴内はというと、特別緊急依頼に「竜を探せ」と書かれていたので、まずは竜に関して調べようとしたのだが、システムの大規模チェックが実行されてしまったことで通話以外の携帯端末の使用が出来なくなったため、いったんゲートを出て通常回線利用の個人用スマホで情報収集することにし、検索キーワードに「竜」と入力して検索したみたところ、ウィーチューブで力堂が竜を発見したニュースが一番上に表示されたので非常に驚いた。


 さらに調べ続けてみたところ、力堂達がゲートの北北西5千キロ地点にいるということが分かり、冴内は冴えない頭で必死に考えた結果、一つのアイディアが閃いたのでゲート内に戻り、まずは道具屋のところに行って次の物を買った。

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ロッククライミングで使用するハーネスとザイルとカラビナ

折り畳み式小型オイルバーナーコンロ

カップラーメン10個

バランス栄養携行食「カロリーフレンド」10個

板チョコレート10枚

トイレットペーパー

寝袋

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 店の人に「どこか登山探索にでも行くのかい?」と聞かれ「竜に会いに行ってきます」と言ってすぐに店を出た。何か後ろの方で声がしたが急いでいたのでそのままロッジの個室に向かった。


 道具屋で買ったものと下着とタオルをリュックに入れてハーネスを装着して水筒を肩にかけて厩に向かう。そしてアリオンに向かってこう言った。「ねぇアリオン、ちょっと協力して欲しいことがあるんだ。これから向こうに(と指をさす)行きたいんだけどとても遠い場所なんだ。だけどアリオンならきっと10日もかからないと思う。そこに連れて行って欲しいんだ」


 アリオンは数秒程冴内の顔をじっと見つめた後、大きくヒヒィィーーン!と嘶いた。同意を得たと認識した冴内はアリオンの胴体にザイルを巻いて自分のハーネスにカラビナで装着した。これは命綱の代わりである。そしてアリオンにまたがった、さすがに今回は一発で飛び乗れた。


「行こうアリオン!北北西へ!竜に会いに!」

「ヒヒィィーーーン!」こうして冴内は単身竜に会いに行ったのであった。


「アリオン!無理をしない範囲で出来るだけ急いでくれるか?」というと短く嘶いて速度をあげた。この時アリオンは時速100キロというスピードで飛んだのだがアリオンは身体が大きいので当然首も太く長い。そのため冴内にはほとんど風が当たらず空気抵抗で身体が後ろに持っていかれることはなかった。またアリオンは加速減速も丁寧にゆっくりやってくれたし上下に揺れないようになるべく水平飛行を保ってくれた。


 冴内は2時間おきに休憩を1時間とるのを繰り返した。急いでいるとはいえ無理は禁物。しかもアリオンが果たしてどれくらいの持久力があって、どれくらいで疲労するのか分からないのだ。今回の移動はアリオンあってのことなのでアリオンが動けなくなった時点で終わってしまうのだ。そうしてしっかり休息を挟みつつ進んだ。


 1日目の移動で見た景色はまだ人の手で開拓が進んでいる箇所が多い印象で、舗装はされていないが長年に渡って踏みならされた道路をあちこちに見ることが出来た。またゲート内に入って始めて田んぼや畑の存在も確認した。田んぼや畑の近くには人家があって、小さな集落を形成していた。ちょうど昼の時間帯だったので地上に降りて、集落にいた人にお願いして食事をご馳走になった。


 集落にいたシーカー達は全員が冴内のことを知っていた。その理由はゲート外の一般社会と違って極端に娯楽がないためで、農作業が終わった後にはほとんどすることがなく、唯一の娯楽といえば他のシーカー達の探索記録動画を見たり情報交換掲示板や対面チャットなどで他のシーカーと交流するくらいなのだ。そこに来て最近この集落でも大流行しているのが冴内冒険記で、匿名の配信者(神代)が冴内のこれまでの活動を時系列に分かりやすくユーモア交えたエンターテイメントドキュメンタリー動画と補足の文章も交えて週イチで配信されているのだ。


 そんな配信がされているとは今日の今日まで全く知らなかった冴内だが集落の人達の携帯待ち受け画像が全員またしても例の「げぇっ!」だったのにはさすがにちょっと狼狽した。そんな状況だったので冴内はすぐに受け入れられ昼食をご馳走になった。精米したての炊き立てご飯はそれはもう絶品で漬け物と味噌汁だけで何杯でもいけそうだった。


 食事の代金を携帯端末で払おうとしたが頑なに断られ、それどころか米、味噌、鍋、干し肉、干し柿(のような果物)干した沢庵などが渡された。そして乾燥させた何かの丈夫な草で編んだ大きな編み物をもってきてそれをアリオンの背中に乗せた。翼を前後左右避けるように腹の方でクロスさせて結ぶとしっかり固定された。その手際がすごく良くて、かなり慣れた感じがした。多分ゲートにいる馬や牛(のような生き物)を農作業等に利用し一緒に生活しているのだろうか。その編み物のおかげで乗り心地がかなり良くなったどころか、その編み物にもらった干し肉や干し柿をつるし、さらに米、味噌、鍋、などを入れた布袋が反対方向に吊るされて食糧事情も一気に改善した。


 このお礼はいつか必ずすると言うと、毎日最高に愉快痛快な娯楽を届けてくれることこそが何よりのお礼で、こっちの方こそお礼が出来て、そして直に冴内に会えて嬉しかったといってくれた。冴内はこうした人達の素朴で暖かい気持ちに感動して鼻の奥がツーンとして涙があふれてきたのが止められなかったが、そのままの気持ちを隠さず感謝を伝え、またの再会を約束して集落を後にした。


 そうしてまた空を飛び、午後5時になってその日の移動を終了した。冴内は気付いていないが驚くべきことにこの日だけで千キロ近く移動していたのである。


 ちょうどきれいな水辺があったのでそこに降り立ち明るいうちにオイルバーナーコンロで湯を沸かしカップラーメンを食べたが物足りないので干し肉をかじったところ激ウマだった。食後に歯を磨いてすぐに寝袋に入って寝た。


 翌朝、まだ日の出前の薄暗い時間帯に米を炊いて湯を沸かして味噌汁を作り、干した沢庵をおかずにかきこんだ、これもまた激ウマだった。大自然の中で自分で作った、それも沢山の愛情がこもった食材なので生涯忘れられない程に美味しかった。


 そうしてまた2時間移動しては1時間の休憩を挟むというのを繰り返して、決して無理せずしっかり着実に進んでいった


 時折今進んでいる方角が間違っていないか不安になることもあったがアリオンが大丈夫だまかせておけという風に見えるくらい自信満々な顔で進むので冴内はアリオンを信じて飛び続けた。ひょっとしたら眉間にある立派なツノがセンサーになっているのかもしれない。


 そうして進み続けることなんと3日目にして動画で見た山を視界に捉えた。さらに4日目には動画で見た湖も見えてきた。「あそこにはきっと力堂さんのいるベースキャンプがある。このままいけば明日には力堂さん達に合流出来そうだ。アリオンありがとう!お前のおかげだよ!」

「ヒヒィィーーーン!!」


 こうして冴内は力堂達が20日かけて到達した距離をわずか5日で移動しようとしていたのだった。

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