67:帰国
冴内は隣の部屋でまたしてもとんでもない事が起きていることなど全く知らずにのんきにスヤスヤとダブルベットで一人眠りこけていた。
隣の部屋にいた英国情報部「冴内篭絡お色気ムフフ作戦」チームは一人残らず魂が抜き取られたかのような放心状態になっていたが、翌朝日の出が出始めるとようやく少しずつ正気を取り戻していった。
昨晩の出来事は夢だったと思いたいがその場にいる全員が体験したことなので現実なのだろう。
誰も身動き一つ出来なかったので携帯カメラで録画することは出来なかったし、一応プライベートな宿泊部屋なので部屋の中には防犯カメラの類はないので昨日起きたことの物的証拠は何一つ残っていなかった。
皆が思っていてもなかなか口に出せなかったことをようやくシーラ嬢が口にした。
「叔父様、いえ、局長、昨夜のことは・・・報告すべきでしょうか」
情報部員全員が局長を見た。ウィリアム3世は手を目に当ててしばし考えこんだ。それもそうだろう。お色気ムフフ作戦で冴内を寝取ろうとしたら、ワイのダンナになにすんじゃいと800歳を越えるという神の中の神に叱られたとか・・・
ってそんなこと言えるかい!
「さすがにありのまま全て・・・は伝えられんだろう・・・」
ウィリアム3世は、情報局トップのブレーンにこちらにとって都合の悪いことは隠しつつ、なるべく事実に即した状況報告書をまとめるよう指示した。
まぁそこら辺が妥当な落としどころだろうと皆一様に納得し、彼等の仕事に取り掛かることにした。
シーラ嬢の心境はというと、自分を救うために海をも割ってくれた冴内に愛情を感じてはいたが、彼自身が「神」となるとさすがに一緒になることに恐れ多い気持ちがあり、そこへきて「神の中の神」を名乗る光の存在が冴内を夫に迎えるというのだから当然謹んでご辞退申し上げ奉りますと睥睨するより他にない。深い恋愛感情になる前でむしろ良かったのかもしれない。私には私にふさわしい相手を見つけるのが幸せなのだと自分の心を偽ることなく納得することが出来た
こうして、冴内の・・・アレは、間一髪800歳を超える自称神の中の神によって守られることが出来たのであった。
冴内の訪問目的は表面上の目的も、裏の目的もこれで全て達成されたので、帰国の途につくことになった。
ウィリアム3世、シーラ嬢、職員(情報部員)、馬具職人、冴内を神と信じて疑わない英国シーカーの人達、短い英国滞在中に出会った人々全員総出で盛大に見送られ冴内は帰国の途に着いた。
帰りの飛行機は政府専用機ではなく普通旅客機であったが、それでも座席は特上のファーストクラスだった。
ストーンヘンジ・ゲート内ではあわよくばシーラ嬢の水着姿とロマンスを期待した冴内であったが、最後の大祝賀会の夜以降なんとなくよそよそしくなったシーラ嬢の態度を感じ取ってしまい、まさかお酒に酔って気に障るような言動をしてしまったのではないかと内心酷く不安になった。気のせいかそれまでは積極的にしてきたボディタッチも大祝賀会以降は少なくなったような気がする。
とはいえ露骨に冴内を避けている感じは皆無で最後までとても好意的に接してくれたし、サメから身を守ってくれたことに対して何度もお礼を述べてくれた。
冴内も考えてもみればこれまで全くもってその名前の通り冴えない人生を送ってきたわけで、恋愛経験どころかまともな恋愛感情すら抱かず20年間を生きてきたのだ。そんなうだつの上がらぬ自分がこんな誰もが見とれるような美人となんか全くもって釣り合うわけがない。自分は一体何を勘違いしていたんだと、赤面しそうな気持になった。
そもそも正式ゲートシーカーになってまだひと月も経ってない全くの単なる青二才が神になったからって・・・えぇっ!神ィィィ!!??
ってお前、何、今気づいてんだよ・・・
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