49:ペガサスになっていた

 一夜明けて、厩に行ってみると「アリオン」は一回り大きくなって翼が生えていた・・・


 冴内は言葉を失いその場に立ちすくんだままだったが、手は無意識に携帯をとりだし録画ボタンをタップしていた。この辺りはプロの探索者意識が板についてきたのかもしれない。当然配信モード録画である。


 「アリオン」は以前に増してすっかり神々しくなってしまった姿で厩から出てきて、乗れ!乗れ!といわんばかりに首を振ったり前足を打ち鳴らした。


 世界最高の乗馬の達人であったとしても、通常の乗馬方法が通用しなさそうな大きさだし、ましてや空を飛ぶための乗馬方法など存在しない。そもそもこの神々しい生き物に跨ることなど恐れ多くて到底不可能のような気がする。


 どう乗るのが正解なのか皆目分からないので結局やはり飛び乗ることにした。以前よりも一回り大きくなっているので思いっきり飛び乗ったが、案の定向こう側に落下した。二度目はうまくいったがやはり向こう側に落ちそうになるのをアリオンがうまくいなしてくれたおかげで、自ら乗ったというよりも乗らせてもらったという有様だった。


 乗るやいなやアリオンは駆けだした。やがて少しづつ地面が離れていく。大きな翼をバッサバッサと動かされたらさぞや乗りにくいんだろうなぁと想像したが、翼は飛行機のように水平に広げた状態で固定されていたので邪魔に感じることはなかった。そうしてペガサスになったアリオンは大空を駆け抜けていった。地面を蹴って駆け抜けるのではなく、何もない空(くう)を蹴って空を駆け抜けていった。


 いつものロッジもプレハブも食堂も何もかもが足の下だ。目の前を遮るものは何もなく、道を行く人や障害物にぶつからないように気を使って避けることなく自由にどこでも空を駆け巡ることが出来る。「アリオン」はそのことがたまらなく嬉しいのかヒヒーン!ヒヒーン!と嘶き続けた。


 その様子は地上にいる全ての人々の目を釘付けにした。大勢の人達が携帯を手にガチ録画していた。さすがは全員プロのシーカーである。いや、さすがにこれは一般人でも同じことするか・・・


 ほどなくして職員から連絡がきて、今日の冴内のスケジュールは全て埋まることになった。


 前回ヒアリングで使用されたプレハブ小屋にて冴内はひたすら事情聴取されていたが、前回と違って今回は冴内を心配することなく、アリオンはそんな冴内をよそにひたすら上空を駆けて遊んでいた。


 一方、研修センター情報部内ではまたしても冴内関連でもたらされる新情報に振り回されていた。さすがの神代もいよいよ周りを気にせず笑いだした。もう笑うしかないといった感じだ。


 午前のヒアリングからようやく解放され、プレハブ小屋から冴内が出てきたのでアリオンは地上に降りてきた。昼食後は前回同様厩でアリオンの身体調査を行うことになった。


 厩でアリオンの身体調査をしていると、早乙女さんが引いてるリヤカーに大工の宮君が乗ってやってきて、二人とも一回り大きくなってペガサスになったアリオンを見て絶句していた。早乙女さんが口をパクパクしていてなんとなく池の鯉みたいで可愛いなと思ってしまった。


 二人は緊急で厩の改修工事を職員から依頼されてやってきたそうで、早速宮君は厩の改修にとりかかった。早乙女さんが「名前ユーちゃんにしなくてよかった」と言っていた。まさかユニコーンがペガサスになるとは誰も思わなかったので、もしユニコーンに関連する名前をつけていたらおかしなことになるところだった。


 それにしてもさすがは大工スキルの宮君、夕方になる頃には厩の改修は完了し、ロッジにも見劣りしない大きさの見事な厩が出来上がった。


 その後職員達は研究センターに戻っていき、冴内達はいつもの食堂に向かうことにした。昨晩と同じメンバーに、今日は宮君も加わり食事をとり、食後はそりゃもう話題に事欠かない程の大盛り上がりとなった。それぞれが何か言わないと気が済まない勢いでとにかく話が尽きなかった。


 ただ、すぐに検討すべき課題として、とうとうアリオンが空を飛ぶようになってしまったので、これ以上「はだかの状態」のアリオンに乗るのは命にかかわるということで、道具屋にいって鞍や手綱、鐙(あぶみ)などの馬具一式を作ってもらうよう相談に行くことになった。

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