48:名前をつけた
いつまでも朝食後のお茶をすすってるわけにもいかず、かといって特に仕事の依頼を受けてもいないのでやることがなく、とりあえず厩でぼんやりとユニコーンを眺めていたのだが、なんとなく最初の草原に行こうかということでユニコーンに乗って最初にイノシシを倒した草原に向かった。
行く先々でシーカーの人達が一度はチラ見の無表情、ハッとすぐに振り返ってガン見の二度見というもうお決まりの行動パターンを見せてくれた。
草原に着くとユニコーンも気分がいいのか、まるでスキップしているかのような軽い足取りで草原を散策した。例の小川で水を飲ませたりしてある程度散策したところでユニコーンから降りて「好きに遊んできていいよ、あまり遠くにいかないでね」と言うとユニコーンは理解した様子であちこち楽しそうに駆け回った。
しばらくユニコーンを眺めていると、以前会った薬草取りのお婆さんがやってきて「ずいぶんお利口さんのお馬さんだねぇ」と声をかけてきた。熊に襲われていたところを助けたら仲良くなったと説明すると、目を細めて「あぁそれは良い事をしたねぇ。あのお馬さんは一生のお友達になるよ」と嬉しそうに言ってくれた。そのお婆さんの言葉を聞いて自分もすごく嬉しい気分になった。
「お馬さんに名前はつけてあげたのかね?」とお婆さんが聞いてきて「名前・・・ですか?いえ、付けてません」と応えると「名前を付けて呼んであげると、お馬さんも喜ぶよ」とお婆さんが言った。「名前か・・・名前・・・そうですね!そうします!」と応えると、お婆さんは背を向けて「それがいい」と言いながら薬草を取りはじめた。
ユニコーンは止まって何かの草を食べ始めたのでしばらくは食事タイムっぽいなと思い、することもないのでお婆さんの薬草取りを手伝うことにした。
お婆さんは以前会ったときも大きなカゴを持ってきていて、薬草取りをしているときはそのカゴを地面に置いて、近くの薬草を取ってはそのカゴに入れて、ある程度薬草を取るとカゴを移動してまた薬草取りを繰り返していた。
自分も採取した薬草をお婆さんが持ってきたカゴの中に入れると、お婆さんは「アンタは優しい子だね。だからお馬さんもアンタを好きになったんだね」と背中越しに語っていた。
しばらくお婆さんの薬草取りを手伝っている間、ユニコーンは食事に満足したのか座り込んで眠っていた。3時間近く薬草取りをしていたら腰がかなり疲れてしまった。お婆さんはそんなそぶりを全く見せなかったのでさすがだと感心した。
お昼近くなったのでユニコーンを呼んで二人と1頭で一緒に帰った。お婆さんに別れを告げて食堂に向かうことにした。ユニコーンには「先に厩に帰ってて」というと頭をさげて厩の方に歩いていった。
食堂に入って昼食をとっていたら、早乙女さんがいつも通り2人前をのせた大きなお盆を手にやってきた。自分がぼんやりしていたのに気づいたようで、「考え事ですか?」と早乙女さんに聞かれると、ユニコーンの名前を考えていたが、なかなか思い浮かばないんだと話すと「私も考えていいですか!」と目を輝かせて言ったので大歓迎だと答えておいた。
早乙女さんが嬉しそうに言うので訳を聞くと、建築材料の単純往復輸送をしているときに退屈で、歌を歌うのも一人しりとりをするのも飽きていたのでとてもいい退屈しのぎになるのだと、ちょっとばつが悪そうな顔をして白状した。そんなわけで早乙女さんに一緒に名前を考えてもらうことにした。
その後も一人食堂に残ってずっと食堂でああでもないこうでもないと考え、さらに何かアイディアの元にならないかと携帯端末で古今東西のユニコーンに関連する情報を調べていた。結局夕食の時間まで食堂で時間をつぶしていた。
夕食の時間になると良野さんと木下さんが入ってきて、続いて矢吹さん、梶山君、最後に早乙女さんがやってきた。宮君は建築現場で寝泊まり、鈴森さんは研修センターにいるだそうだ。
夕食後何故か早乙女さん以外の全員もユニコーンの名前を発表し始めた。どうやら早乙女さんがメンバーチャットに書き込んだところ、皆も興味がでて考えたのだそうだ。で、それぞれが考えた名前は以下の通り。
--------------------
早乙女「ユーちゃん」
木下「ウーニコルニス」
良野「リシュヤシュリンガ」
梶山「白馬丸」
矢吹「ウマオ」
--------------------
すごく申し訳ないのだが一瞬だけかなり残念な気持ちになった。一生懸命作り笑顔を浮かべすごく参考になったと言ったが、うまくいかずに全員微妙な笑顔を返してきた。
その後あれやこれやと皆で考えた結果、最終的に「アリオン」になった。ギリシア神話に出てくる名馬の名前だそうだ。
梶山君が三国志に出てくる「赤兎馬」になぞらえて、「白兎馬」はどうだといったときに、矢吹さんがそれだ!それしかない!と言ったが、馬に向かって馬というのも名前としていかがなものか、しかも全然可愛くないと女性陣から全否定された。
そんなわけでユニコーンの名前は「アリオン」に決まったところで解散し、いつも通り風呂に入ってから厩に向かった。
ユニコーンに「お前の名前はアリオンに決まったよ、神話に登場する名馬と同じ名前だよ」と言ったらユニコーンは大きく目を見開き、その瞬間ユニコーンは光り輝きはじめ、自分も光に包まれて目の前が真っ白になった。が、それは一瞬の出来事で光がおさまった後は何事もなくユニコーン「アリオン」は大人しく静かにしていた。
これにはかなり驚いたが、しばらく様子を見てどこにも変化や異常がないことを確認したので個室に戻り眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます