水鏡に真実を映して(第3回空色杯応募作品)
江葉内斗
水鏡に真実を映して 前編
東京都心部から少し離れたところにある街、
一人の大富豪・
「やれやれ……確かに門限は決まってないとはいえ、さすがに遅すぎやしないか? 連絡もつかないし……」娘は大学生になったばかり。受験戦争から解放された反動で、夜まで遊びふけっているのだろうか。
そんなことを考えていると、突然部屋の扉が開き、使用人が飛び込んできた。
「何事だ、ノックもせずに!」清水は無礼な使用人に怒鳴った。
「そんなことより、ご主人様、大変です!!!」そういった使用人・
清水が小包を取ると、その中には手紙が二枚と、水入りのペットボトルが入っていた。
手紙には以下のように書かれていた。
「お前の娘は預かった。返してほしければ七日以内に現金一億円を持って別記の場所まで来い。来なければ娘を殺す」
清水は自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。
「な……なんだこれは! いったいどう言うことだ!!」清水は吉本の肩を掴んで揺さぶった。
「分かりません!! ただ、ポストをみたらこの小包が入っていて……」吉本は八つ当たりされながらもしっかり状況を説明しようとした。
すると、清水の携帯に着信が入った。
確認すると、非通知設定になっている。
清水は判断力が鈍っているのか、怪しむことなく「応答」をタップした。
「もしもし!!?」「ククク……先ほどそちらの家に封筒を送ったものだが」どうやら誘拐犯からの電話のようだ。
「娘はどこだ!!! 無事なのか!!!?」言い終わる前に返事が来た。「娘さんは無事さ。《《今のところな》》。あんたは黙って俺のところに一億円を持って来てくればいいのさ。まあ、俺の居場所がわかったらの話だが……」
清水がなにか言いかけるまえに通話が途切れた。
「ああ……
そんな主人を吉本は、「落ち着いてください!! とにかく、一億円用意して助けにいきましょう!!」と冷静になだめていた。
「そ、そうだな……それで、やつはどこにいる?」場所は別記されている、と言う文言を思い出した清水は、小包に入っているもう一つの便箋を取り出した。
それにはこう書かれてあった。
「竜が二匹現れるとき、六つの角にそびえ立つ塔あり。水鏡を置いて真実を写せ」
「……どういう意味だ?」「……分かりません」二人ともその文章の意味を理解できなかった。
「誘拐犯め、わざわざ暗号などで場所を示しおって……まずい、このままでは娘の命が……!」清水がまた発狂しそうになったので、吉本はあることを提案した。
「それでは、
「探偵ぃ? 探偵よりも警察に連絡したほうが……」
「東探偵事務所は、金持ち御用達の探偵事務所で、これまで数々の難事件を解決してきたそうですよ」
「そ、そうなのか?」
「守銭奴で依頼料は相場よりかなり多く取られますが……」
「金はいくらでも出す!! その探偵に連絡しろ!!」清水は、藁にもすがるような思いで命令した。
こうして翌日、探偵・
ただ、この探偵、結構風変わりである。
エントランスに入った東は「ウッヒョー!! 清水さん家めっちゃでけー!」と、公園ではしゃぐ子供のように家中を見渡した。
さらにこの探偵、ジャージを着ている。
まるでランニング帰りの大学生のようだ。
そんな彼の様子を見て清水は内心ものすごく不安だったが、娘のためだと思って我慢した。
二月二十四日、午後五時ごろ、探偵と依頼人による話し合いが行われた。
「……と言うわけだ。どうかこの暗号を解読してくれ!!」金持ちは傲慢だと思われがちだが、清水は娘のために若造に頭を下げた。
これに対し、東は意外な回答をした。
「えー? 嫌っす」「なっ」清水は空いた口がふさがらなかった。
「……娘の命がかかってるんだぞ!!?」と怒鳴っても、「そういわれましてもねー、こんな簡単すぎる暗号解いたって面白くないんっすよ。ほかの探偵さん紹介するんでそっち行ってくれませんか?」と言って真面目に取り合おうとしない。
頭を抱えた清水だったが、吉本の「(東は)守銭奴で依頼料は相場よりかなり多く取られる」という言葉を思い出し、そしてこう言った。
「そ、それならば、依頼料五百万円でどうか「やりますっ! ぜひやらせてください!!!」東は食い気味に答えた。目がキラキラしている。
清水は東の手のひら返しのスピードに呆れたが、やる気が沸き上がっていく東を見て、彼ならなんとかしてくれると思うようになった。
すると東は「さて、明日の朝六時半にまた来るので、早起きしといてくださいねー?」と、いきなり身支度を始めた。
清水は「ちょ、ちょっと待て!! もう行くのか!!? 事件はどうなる!!?」と慌てて立ち上がった。
しかし東は「大丈夫、大丈夫っすよ。明日は晴れるらしいので、明日の朝には全部解決してるんで。ほんじゃ、また明日ー」そう言って本当に帰ってしまった。
「あ゛~……本当にあの探偵に任せて大丈夫なのか……」昨日から今までにかけて相当な心的ストレスを食らって今にも倒れそうな清水。
そんな主人を見て、何とも言えない表情をする使用人・吉本。
ルンルン気分で帰路を歩む探偵・東。
それぞれの思いが交錯するのもよそに、黄金町の一日は終わろうとしていた。
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