超超超・レベルアップ!!!

「EXPプール、解放――――――!」


 俺の宣言と同時に、今まで俺に蓄積されていた50万もの経験値が、俺とラプスの全身にあふれ出す。


(……こ、これは……!)


 俺の中に、幼い少女の光景が浮かんだ。必死に身体を鍛え、勉強し、努力している姿が。


(……ラプスか……!)


 懸命に努力し、それでもまったく実らず、周囲から疎まれ、それでもめげずに、努力する。ちょっとでも、家族との中に、居場所を作るために――――――。


(……そうか、この経験値は……)


 どういう訳、なんてものじゃなかった。正真正銘、彼女の努力の結晶だったのだ。

 そして、彼女のステータスが低い理由も、これではっきりした。彼女の今までの努力は、ずっと蓄積されていたものの、反映されていなかったのだ。その理由は腕の持つスキル

「EXPプール」。このスキルにより、彼女の努力はずっと閉じ込められていたのである。


(……じゃあ結局、やっぱり右腕おれが悪いんじゃねえか……!)


 自分――――――いや、この腕に意識が入る前の身体だから違うのか? もはやあいまいだが、とにかく今はそんなことはどうでもいい!


「お前の10年の努力は――――――無駄なんかじゃ、ねえぞ!」

「え―――――――」


 驚くラプスだったが、彼女の身体には、大きな変化があった。


「……あれ? 痛く……ない」


 気がつけば、俺の視界もクリアになっている。さっきまで真っ赤の瀕死状態だったのに。何より、ラプスに刺された傷がいつの間にか、すっかりなくなっていた。それはラプスも同様で、足の骨折が治っている。そして、全身の毒も、吹き飛んでしまった。


「こ、これって……!?」

「ああ! ――――――だ!」


 天使の言っていた、この世界の法則。それはRPGでも、時折見受けられる機能であった。


 それは、「レベルアップ時にステータスが全回復する」というもの。悪い状態異常やダメージなど、そういったものが、すべてリセットされるのだ。

 かつての世界では、それを活かして敢えて困難なダンジョンを突き進む、という猛者もいたらしい。


 そしてこの法則は、この世界でも同様だと、俺は教えられていた。


(……これで、まずは全回復! そんで、ここからは賭けだ!)


 この状況での運要素。それは、ラプスのレベルがどれだけ上がるか、ということだ。50万という数字がどれだけレベルを上げるのか、俺には見当もつかない。

 できればドラゴンゾンビを倒せるくらいは強くなってほしいが……!


(……どうだ……!?)


 俺の見えるラプスのレベルとステータスは、ぐんぐんと上がっていく。急激な成長すぎて、本人が理解しきれないほどの速度だ。すでにすべてのステータスは最低のFからEへと変わり、レベルも10を超えている。これなら、ブロブくらいは何とかなるはずだ。

 加えて、ラプスのレベルが上がることで、その右腕である俺自身のレベルもぐんぐんと上がっていった。

 そして、レベルが5を超えた時、俺のスキルに新たな項目が追加される。


「……『構造変化』に『強化+++++プラス5…』?」


 一体なんだろうと思えば、そのスキルの詳細が、頭に浮かんできた。


「TIPS スキル『構造変化シェイプシフト

 身体構造を変化させる。変化に応じてステータスが変動する。構造変化には、変化対象をラーニングする必要がある。」

「TIPS スキル『強化+++++プラス5

ラプス・メイリアスが強化を受けた時、強化段階が5倍になる」


「え、これ、特に2つ目のスキルって、相当強いスキルなんじゃないか!?」


 上がり続けるレベルの中、俺はさらに天使から受けた説明を思い出す。


 この世界において、ステータスは一時的に強化できる。強化されたステータスは、ランクに「+」が付き、当然「+」が多いほど強化量は増える。

 そしてランクに「+」が付くと、おおよそ上のランクに匹敵する可能性がある。例えば、Fランクに「+」が1個付けば、それはEランクに相当する。だが、EランクがDランク相当になるためには、「+」が2個必要――――――という風に、ランクと必要な「+」の数は比例して増えていくのだ。だから本来、上のランクに到達するほどの強化は難しいのだが……。


(……このスキルがあれば、一気に能力が上がるんじゃないのか)


 現在俺たちのレベルは15を超えて、まだ伸びている。ステータスだが、攻撃、魔法攻撃はすでにDに達していた。


「行ける……! これなら、行けるぞ!」

「……力が、漲ってくる……!」


 急激なレベルアップであふれ出てくる力に、魔物たちも歩みを止めていた。いや、そもそもこのレベルアップがほんの一瞬であるだけなんだが、俺たちにとっては非常に長い時間の様にも感じる。


 そうしてとうとう、ラプスのレベルアップに使われた経験値50万は、すべて消費された。その最終的なステータスは、以下の通り。


「名前 ラプス・メイリアス 種族 レッサーデーモン 系統 魔族 闇属性


 レベル 20


 ステータス

 HP E

 MP C

 攻撃 D

 防御 E

 魔法攻撃 C

 魔法防御 D

 器用さ  F

 敏捷   E

 幸運   F


 スキル(パッシブ) なし」


 全体的に魔法型、攻撃型のステータスとなっている。特に目を引くのは魔法攻撃の伸びで、ランクはCにまで上がっていた。レベルは20でストップしてしまい、ドラゴンゾンビの30には及ばなかったが、奴の魔法防御は低い。一方こっちは物理防御が低いから、ちょっと心配ではある。

 そして、俺のステータスも上がった。上がり方はラプスと同じなので割愛するが、その代わりにいろいろスキルが増えていた。


「スキル(パッシブ) EXPプール:0

           構造変化

           強化+++++

           状態異常耐性E」

          

 先ほどのスキルに加え、状態異常耐性、というものまで増えている。さすがにこれは見なくてもわかった。恐らく毒を受けたのをレベルアップで吹き飛ばした影響だろう。

 そして、ラプスのステータスを見てもわかる通り、どうやら彼女にとってのスキルは、すべて俺に集約しているらしい。まあ、右腕なんだから一緒でも何の不思議ではないのだが。


 ともかく、これがレベルアップで得られた結果だ。最初の全ステータス最低よりは、幾分かマシになったんではなかろうか。

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