第25話 Google Geminiを触ってみた。

 当エッセイ(?)では創作小説の分析評価ツールとしてNolaの「AI読者ネコのヨミスケ」機能を紹介した。


 ヨミスケくんはなかなか良くできていて、長所を褒めてくれる一方で短所を指摘し、改善する方法をアドバイスしてくれる。


 もちろん機能には限界があり、常にアドバイスの内容が的確であると保証することはできない。それでも、「他人から指摘される」という経験を疑似的に体験できる点が「AI書評」のメリットだと思う。


 自分でうすうす気づいていることでも他人から改めて言われることで、初めて手直しという行動に移れるケースがあるのだ。というか、よくある。

 書き上がった作品に手を加えるのは億劫なものなのだ。


 さて、今回はNolaヨミスケくんの対抗馬として、Google Geminiアプリを紹介しよう。


 筆者の環境はAndroidなので、Android版アプリの体験レポートということになる。現在は試験運用中のAIアシスタントである。


 ヨミスケくんと異なるのは、Geminiが汎用アプリである点だ。その対応する機能は範囲が広い。


 ・文章やリストの作成、アイデア出し、新しい機能の習得

 ・Gmail、Googleドライブからの情報まとめ、情報検索

 ・画像生成

 ・Googleアシスタントの代替


 さて、それでは早速テストドライブしてみよう。

 筆者のとある短編小説をGeminiに読ませて、「この小説を読んで長所と短所を教えて」とリクエストしてみた。



■Geminiからの返事(一部抜粋):


長所


・王道の冒険譚:少年が予言された死を回避するために、様々な修行を重ね、強大な力を持つという王道の冒険譚が展開され、読者を惹きつけます。


・成長物語:主人公が様々な困難を乗り越え成長していく過程が丁寧に描かれており、読者は主人公と共に成長していくような感覚を味わえます。


・想像力豊かな世界観:魔法、仙術、異世界転移など、ファンタジー要素が盛り込まれており、読者の想像力を刺激します。


・あきらめない主人公像:どんな困難にも屈せず、目標に向かって突き進む主人公の姿は読者に勇気を与えます。


短所


・設定の矛盾:「予言は絶対に外れない」という前提と、主人公が予言を打ち破るという結末が矛盾しているように感じられます。


・説明不足:魔法や戦術のシステム、死に神の正体などが詳細に説明されていないため、読者は疑問に思う点が残るかもしれません。


・展開の予測可能性:物語の展開が比較的読まれやすく、意外性や驚きが少ない点が挙げられます。


・テーマの薄さ:死や運命といった深いテーマを扱っているにも関わらず、テーマが表面的な印象を与えてしまいます。


全体的な感想


王道の冒険譚として、読者を飽きさせない魅力を持っています。しかし、設定の矛盾や説明不足といった点が物語の完成度を下げている印象を受けます。また、より深くテーマを掘り下げることで、より感動的な作品になった可能性も感じられます。


改善点の提案


・予言の設定の再考:予言が絶対的なものなのか、あるいは条件付きのものなのか、設定を明確にすることで矛盾を解消できます。


・世界観の深掘り:魔法や戦術のシステム、死に神の正体などをより詳細に説明することで、読者の理解を深めることができます。


・意外性の導入:物語の展開に意外性や逆転劇を加えることで、読者の興味を引き続けることができます。


・テーマの深化:死や運命といったテーマを、主人公の成長や世界の仕組みと関連づけることで、より深い物語にすることができます。



 さて、Geminiくんのアドバイスを振り返ってみよう。


 長所については、(ちょっと大げさな表現ではあるが)筆者の描こうとした内容と一致している。「死ぬ」と予言されたピンチに抵抗して、必死に生き延びる様を描くことが本作品のテーマである。


 大切なのは短所と改善策の内容だ。


 短所の1つめ、「設定の矛盾」という指摘はどうだろう。矛盾させることがお話の狙いなんだよね。ちょっとピントがボケているように感じる。


 短所の2つめ、「説明不足」。これはごもっともだが、字数の関係で割愛した部分である。ここに深入りすると全体のバランスが崩れると考えている。


 短所の3つめ、「展開の予測可能性」。ごめんなさいねー、浅い展開で。ここはご指摘が耳に痛い。


 短所の4つめ、「テーマの薄さ」。ううっ、手加減のないご指摘ありがとうございます。原稿用紙5枚のショートショートなのでね。薄味でまとめてみました。


 これらの指摘を振り返ると、十分実用性があるというのが筆者の評価だ。見たくない欠点に指を突き立てて、目玉をひん剥いてくれる。ありがたい。


 同じ作品をヨミスケくんに呼んでもらった時の感想を見ると、改善点はこんな感じになっている。



【ヨミスケくんの感想】


例えば、予言が「十五歳の誕生日にこの世を去る」という設定じゃが、「この世を去る」という言葉の曖昧さをもう少し掘り下げても良かったかもしれんのう。この曖昧さが物語の緊張感を増す一方で、解釈の幅が広がり過ぎる可能性もあるからのう。また、ポールの両親が悲しむ姿が描かれているが、彼らの感情の変化や、ポールの修行に対する反応をもう少し深く描くことで、物語全体の感情的な深みが増すかもしれんのう。



 こちらはこちらで、予言の解釈に幅を持たせることが物語のフックになっていたりする。個人の感想としては「読みが浅い」感想になっていると受け止めた。

 感情の変化云々は「物語の一般論」としてはごもっとも。今回は約1500字の掌編なので、そこまで書き込む余裕がないのだ。(「掌編小説に対する感想」という限定を受けていないので、AI的にはこういうスタンスになるのだろう)


 次に、改善策のアドバイスを見てみよう。



改善点の提案


・予言の設定の再考:予言が絶対的なものなのか、あるいは条件付きのものなのか、設定を明確にすることで矛盾を解消できます。


・世界観の深掘り:魔法や戦術のシステム、死に神の正体などをより詳細に説明することで、読者の理解を深めることができます。


・意外性の導入:物語の展開に意外性や逆転劇を加えることで、読者の興味を引き続けることができます。


・テーマの深化:死や運命といったテーマを、主人公の成長や世界の仕組みと関連づけることで、より深い物語にすることができます。



 うーん。基本的に短所で言っていることの繰り返しだね。そういうものといえば、そういうものだけど。もう少し具体的な例が欲しいかな。

 この点では、短所の指摘と改善策の提示を1つにまとめたヨミスケくんのスタイルの方が使いやすいかもしれない。


 ところでGeminiくんにはヨミスケくんにない長所が存在する。

 それは質問を追加できるということだ。


 ためしに、「この小説に意外性を導入するにはどんな展開にしたらいい?」と聞いてみた。すると、次のような回答が返ってきた。



■Gemini君の回答:


小説『外れない予言』では、主人公が様々な手段で死を回避しようとするも、最終的に死に神の下半身だけを残すという意外な形で予言を回避するという展開が印象的でした。この作品から得られるヒントを基に、あなたの物語に意外性を持たせる方法をいくつか提案します。


1.予言そのものが間違っていた、あるいは別の解釈が可能だった


・予言の誤訳:(省略)

・予言の対象が違っていた:(省略)

・予言の条件が満たされていなかった:(省略)


2.主人公の能力や存在に隠された秘密


・主人公が特別な存在だった:(省略)

・予言自体が主人公を成長させるための試練だった:(省略)


3.世界の仕組みや法則に隠された秘密


・世界がシミュレーションだった:(省略)

・時間がループしていた:(省略)

・並行世界が存在していた:別の並行世界では、主人公がすでに死んでいた。


4.死に神の正体が意外だった


・死に神は味方だった:(省略)

・死に神もまた、別の存在に操られていた:(省略)

・死に神は、主人公の一部であった:(省略)


5.予言の回避方法が予想外だった


・予言を信じることをやめる:(省略)

・予言を逆手に取る:(省略)

・予言を自ら作り出す:(省略)



 なんだか話がかみ合っていない感じ。「外れない予言」というのが感想を書いてもらった小説のタイトルなのだが、「意外な形で予言を回避するという展開が印象的」と言ってくれている。


 なんだよ? 意外性がないっていったじゃないか?


 提案の内容は、ほとんどダメダメ。「1」とか絶対ダメでしょ。「外れない予言」だって言ってんのに。

「3」の展開もなあ。メタに逃げ込むパターンでしょ? 物語の設定としてこれを持ち込むのはありだけど、「問題解決の方法」としてこれに頼っちゃダメでしょ。

「5」に至っては、無茶苦茶じゃん。何だよ、「予言を信じることをやめる」って?


 使えるとしたら「4」くらいかな。死に神を意外な存在としてカミングアウトさせるというパターンはありうるかも。


 今回はGeminiくんに作品の感想とアドバイスをもらうという形で、アプリを試用してみました。

 他にも誤字脱字や表記のばらつきをチェックさせるなど、校正用途に使用することができるかもしれません。


 何よりも無料で使えるっていう所が素晴らしいですね。ではまた。

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