ヘイホーとマリア3

長編になりそうなので次で一旦辞めます💦


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 えーと、どこまで話したかしら? あっ!

結局ご主……ヘイホー様はあの後私に手を出さないで寝てしまいました。


「おはようございます。今日からよろしくお願いします」


「おう、良く眠れたみたいだな。今日からうまいもん食わしてやるからな」


 彼の言う、うまいものには心が踊る。社交界デビューの練習と言って何度か招かれた公爵家の小さな(私にとっては大きい)パーティ。その料理よりも美味しい気がするのだ。その事を公爵家の事をぼかして伝えると。


「そりゃあそうだ。パーティは100人の舌に合う料理を作る。昨日の俺はアルマの身体に1番合う料理を作ったからな。俺のとこにいるうちは、アルマの塩加減、アルマの好みで飯作ってやるよ。スペシャリテ、特別な一皿ってやつだな」


「そう言うものなのですね。でも私はやっぱりヘイホー様の料理は美味しいと思います。スペシャリテ……嬉しいです」


「ありがとな。嬉しいよ。まぁそうは言っても料理人は負けず嫌いだ。アルマに言われなくても心の中では宮廷料理人にも負け無いって思ってるのさ。俺はまだ、成長中だしな」


 そう言ってヘイホー様が力こぶを作り朝の会話が終わりました。その後屋台の準備に向かいました。

 ヘイホーさんの店はお酒のおつまみというモノを出していて、パン粥やうどんなんて物は普段無いそうです。これも特別な一皿ですね。嬉しかったのは秘密です。

 屋台を開いて、テーブルを前に2つ置いてお店を開けます。


「よぉヘイホー生きてたか? んんっ⁉︎」


「おうアリじゃねえか。お前こそ臆病なんだから冒険者は辞めろと何度も言ってるだろう? いつものでいいのか?」


「……」


「いらっしゃいませアリ様。今日からヘイホー様のお手伝いをするアルマです。よろしくお願いします」


「そんなかしこまった挨拶しなくていいぞ、みんなにそんな挨拶してたら時間がなくなっちまう」


 ヘイホー様から注意を受け挨拶を簡単にしようと思っていたら、アリ様が弾けたみたいに喋り出しました。


「おいおい! なんだこのネェちゃんは? 綺麗な女だな。お前とうとうやったのか? 人攫いは足がつきやすいからやめとけとあれほど。こんなバカ丁寧に喋るなんて、さては訳ありな女さらったんだな。安心しろ俺は口が硬いから……っつぅ!」


「馬鹿野郎! 俺がそんなことするか? 普通に彼女ができたとは思わんのか?」


「そんなバカな?・・そうなのか?」


 ヘイホー様から拳骨を受けたアリ様がヘイホー様を信用せず私に尋ねてきたので、はっきりと答えてやりましょう。


「違います! 私はヘイホー様の所有ぶ……むぐぐ」


「何を言う何を! 大切な人から預かったんだよ。社会勉強だとさ。手ぇ出すなよ」


 ヘイホー様いつの間にそんな言い訳考えたんですか? ふーっと長い息を吐いて、こほんと咳払いしてアリ様が言いました。


「良かったよ。君の様な可憐な人がヘイホーの様な野蛮人に囚われていなくて。勿論友人の大切な預かり人だ。手を出すつもりはない。でも君が僕を好きになったら受け入れるから言ってね」


「……はぁ?」


 ちょっと何を言っているかわからないです? 私は空気を読んで、間抜けな返事をした後は微笑みました。


 それから色んなお客様が来てとても楽しかったです。皆さんいい方で私の事を看板娘と言ってくれました。

 その日は野菜のスープを食べさせてくれました。とても美味しかったですがあの串焼きが食べたいのにまだ食べさせてくれません。私の体のためなのはわかるんですけど。1日が終わって宿に戻ります。今日もヘイホー様は手を出して来ません。心の準備はしたのに。


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 1ヶ月ほどたって、私はすっかり元気で串焼きも食べられる様になりました。お客様とも仲がいいです。しかしそんな幸せは終わろうとしました。


「おはよう、アルマちゃん今日も可愛いね。今日はこれ! 君に似合うと思ってね」


「ありがとうございますアリさん! でも来てくれるだけで嬉しいから無理しないでくださいね」


 屋台の1日はアリさんから始まります。私の返答にアリさんは悶えていました。横でヘイホーさんが「ありゃあ病気だな」と呟いています。

 今日も変わらない1日が始まると思っていた時に騎士様が街にやって来て、広場で大声で話し始めました。


「トスカーナ公爵家のクローディア公爵令嬢の命で、マリア=フォン=エルデライトと言う伯爵家の令嬢を探している。見つけたものや、情報提供者には謝礼も用意しよう」


 へぇとか謝礼とかザワザワと街の人が湧くなかで私はまだ喋っている騎士様の声がだんだん遠くなっていきました。気が付けば私は宿屋のベッドにいました。


「おう、気が付いたかい! ひでえ顔色してるな。疲れちまったかな。明日は店でなくていいから、ゆっくり休みな」


「はい……ありがとうございます」


 あんなに保護を求めていたのに、ヘイホーさんと暮らす今、あの貴族の世界に戻りたく無いと、思っている私がいる。

 バルトロもウチを襲ったのがただの蛮族では無いと予想していたし、ディアには会いたいけど。そんな事を考え一日中ベッドの上にいるとヘイホーさんが帰って来ました。


「おう、調子はどうだい? まだちょっと悪そうだな。もう少し休むか。そう言えば騎士様は他の町にいっちまったぜ。情報は無かったみたいだな」


「いえ、もう元気ですので明日からはまた頑張ります」


「その事なんだがな。この街で屋台をやるのは明日で終わりにするわ。この街で学ぶ料理はもう無いし次は東部の港町なんていいな。……来るだろ?」


 昨日の反応でヘイホーさんは私がマリアに関係がある事を察したんだ。そして、私の事を騎士様に言わなかったんだ。


「どうして?……どうしてそんなに良くしてくれるんですか?」


「んっ?違うよ? 元々世界を回って料理の勉強してたからな。次の町に行くだけさ。おっ、お前のためじゃ無いよ」


 私がこぼす様に聞くとヘイホーさんはそう答えた。私は納得してない顔でヘイホーさんを見つめた。


「俺も昔、腹ペコで倒れて知らないおっさんに飯食わせて貰って料理を習った。まぁ俺の師匠だな。その人がまたお礼を受け取らない人でな。ある日言われたんだ。

『お前が料理を続けて、いつかお前みたいな腹ペコな奴がいたら腹一杯食わせてやれ! それが一番のお礼だよ。』ってな」


「それだけで⁉︎」


「それだけっ? て俺にとっては大切なことさ。アルマみたいな美人が元気に俺の飯を食って美味いっていう。それが師匠への恩返しになるんだぜ! 最高だろ」


 そう言って笑顔で私の頭をクシャクシャと撫でるヘイホーさんに、私はとうに忘れていた所有物という感覚では無く、代わりにほおが熱くなり胸がうるさく鳴る感情を覚えるのでした。

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