2章17話 ヘイホーとマリア1

ここから数話はラブストーリーです。僕はかなり好きです


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「……ぃ……おい! しっかりし!どうしたんだ?こんなにやつれて病気か?」


「ん……?」


 意識の朦朧とした私に何か必死に呼びかける男の人がいる。この人も私を売ろうとしてるのかな、もう良いかな諦めても。……『ぐ〜っ』私のお腹はシリアスな思考を認めない様に鳴った


「お腹がすきました。何か食べさせて下さい。御礼に貴方の望む事をします」


「へっ?」


「お腹がすきました!」


「おっ、おう。取り敢えずこれ食えよ」


 男が渡して来た串焼きを食べるとあまりの美味しさに目が覚める。私は餓鬼の様に懸命に喰らい付きました。喉を詰まらせた私にお椀を差し出してくれてそこには温かいスープが。


「ングッゴクゴク……」


「そんだけ食えれば大丈夫だな。ちょっと待ってろよ。あー、それは駄目だ。もう食べるなよ」


 どうやら男の人の屋台の前で倒れていたらしいです。串焼きに目をやるともう駄目だと言われてしまいました。

 私は全てを差し出すんですからケチケチしなければ良いのに。それなりの容姿は持っているらしいから私を売れば充分に串焼き分位にはなるだろうし、慰み者にすれば、性欲のはけ口位にはなるでしょうに。

 私は男がいないのを確認して、串焼きに手を伸ばしました。


「あー、ダメダメ! 今度いっぱい食わしてやるから。あんたしばらくロクに食って無いだろ? 最初はつい、食わせちまったけどそんな時に肉なんて食べると腹がビックリして痛くなっちまうんだ。今別のものをちゃんと作ってやるから」


「あっ、はい」


 恥ずかしい。この人は私の身体の事を考えてくれたのに、私はケチなどと思ってしまいました。

 少し食べて頭が働いて来て、自分の行いや考えが、貴族としてあまりにも良くなかったことを悔いた。でも持ってるのは、粗末なパン。串焼きの方が……


「ほれ、出来たぞ。俺も食うかな」


「これは、なんですの?」


「パンがゆだよ。ゆっくり食えよ。いっぱい作ったから」


 私はお預けの出来ない犬みたいにパンがゆを口に含みました。ミルクによく浸かったパンは先程のような刺激的な旨味は無く、でも安らげる。染み渡る。あぁ家族を思い出すような味だ。


「うめえだろ? 粗末なパンの方があまり油使ってないから旨いんだよ。どれ俺も。いただきます」


「イタダキマス? えっ? なんで?」


「粗末なパンって言うのは口に出てたぞ。『いただきます』ってのは流れ人の言葉で、作ってくれた人や食材、調理道具、果ては使った火や水、全ての料理に関わったものに感謝してお礼を言う言葉なんだってよ。気に入って使ってるんだよ」


口に出てた? なんて恥ずかしい。食べられるだけでありがたい事なのに、それに文句を言うなんて。あっ!


「いただきます!」


「おう、次からは食べる前に言うんだぜ。さて、俺の望む事をなんでもしてくれるんだったな。それじゃあ食べたらそこの角を進んだとこにある、『銀の匙』って宿屋に部屋をとって、水浴びでもして身体を綺麗にしておいてくれ。ヘイホーの紹介って言えば大丈夫だろ」


「……はい」


 男はヘイホーと言うんだろう。まだ若い、がっしりとしたタイプの美丈夫……まではいかないが、まぁ人好きする笑顔を見せるタイプの人だ。

 金を渡され部屋を取るように言われた。身体を綺麗にしろとも。捨て鉢になっていたのに、やっぱりやだなぁ。

 行儀見習いの時にみんなで話したなぁ。初めてはロマンティックなシチュエーションでとか。どうやらそれは叶いそうに無い。


「あぁ、俺はヘイホーだ。あんたは?」


「マリ……アルマです。それでは行ってまいりますご主人様」


「ごしゅじんさまぁ?」


 まだ追手があるかもしれないので、偽名を使い、私の所有者となった男に一礼し宿へ向かった。

 宿の女将さんはとても良い人で、水浴びしている間にあんなに汚れていた私の服を洗ってくれて、乾くまではって言って代わりの服も貸してくれた。そして私は部屋に戻り久しぶりの、ベッドに座り気づけばそのまま眠りに落ちてしまった。


 どれくらい経っただろう。男がここに来ていないと言う事はまだあの屋台で働いているのだろうか?おなかがまた鳴って思考を妨げる。

屋台に行ってみよう。また何か食べられるかも。下心満載で私は出かけた。


「へい、らっしゃい! 何にします?」


「?アルマですご主人様」


「おう⁉︎ なんだあんた別嬪さんだなぁ。ちょっと待ってろよ。ほらメシ。これも流れ人が伝えた料理らしい。うどんって言うんだ。後ご主人様って何?」


「「いただきます」」


「おっ?、早速使ってるね」


 ヘイホーはまた人好きのする笑顔でこっちを見て食べ始める。これも美味しい。公爵家でも出た事あったけど、それより美味しいかもしれない。優しくて私の体に合わせて作ったみたい。


「おーい、まぁ良いか。ご馳走様でした」


「ゴチソウサマ?」


「いただきますは食べる前の感謝でご馳走様は食べた後。挨拶と一緒だよ。こんにちは、さようならみたいな」


 これも良い言葉。この人良い人そうだな。あのコンマンとか言う奴の物になるより良かったかもしれないな。

 我ながらちょろいとは思うけど、弱ってる時に優しくされるとね。


 屋台を少し手伝おうとすると、ヘイホーに止められた。体力が戻ってないのにと宿に返された。あれ? 私これこのまま逃げれるんじゃ無い? でも逃げるところもないし約束を破るのは貴族として良くない。家が無くなっても家族がいなくなっても、貴族としての矜恃だけは持っていよう。


 夜、私はもう一度水浴びして、身体を清めて男を待ちました。コンコンっとノックが鳴り男が入って来ました。

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