2章15話 貧乏貴族とフォックス商会
「私の元々の名前はマリア=フォン=エルデライト。伯爵家の長女に生まれました。お父様は側室を取らず、お母様も体が弱かったので、子供は1人と決めていたそうで、私が生まれると貴族の次男三男あたりに婿養子に来て貰って、私が爵位を預かりそして、次の世代に繋ぐ予定でした」
この国は、と言うか大体の貴族家は女主人を認めていないので、よくある問題だろう。没落貴族とは聞いていたが、伯爵だとは。
待てよ?マリアが生きているなら爵位は残っているのでは?
まぁ、話を聞いてからにしよう。
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15年前王国北部エルデライト家
「マリア、不甲斐ない事だが、うちの様な貧乏伯爵家は力のある男爵家や子爵家と言った、下級貴族に婿に来て貰う形になる。伯爵家の1人娘たるお前にこんな苦労をかけるのは本当に済まないと思う」
「お気になさらないでお父様。貴族の純愛など、出来の悪い物語でもなければ無理ですわ。マリアはしっかりとエルデライト家の務めを全うします」
「マリア……」
「それに、人は爵位などではなく中身だ! っと散々言っていたのはお父様でしょ」
この地方は山沿いが領地になっており、その山々には蛮族が住む。
蛮族との戦いは国の仕事では無いという理由で軍事費が出ない。また、農業に向かない立地の為、困窮を喫していた。
「戦時中は、鉱石が売れていましたが平和な世の中で暴落した鉄鉱山だけでは、とても伯爵家としての務めを果たすほどの収入はございません」
「わかっているわバルトロ。家令のあなたにそんな事を言わせてごめんなさい。不敬に当たるとわかっていて言ってくれてるのもね。私が成人したらすぐ結婚できそうなお金持ちを探して。なんなら助平爺さんの後妻とかでもいいわ」
「お嬢様、またその様な口調で……いや口調を注意するところではございませんな。そんな事を言わないで下さい。このバルトロお嬢様の好みは熟知してます。お嬢様の目がハートになるくらいの金持ち男を探し出してやりますとも。筆頭家令の名にかけて‼︎」
内容はともかく家族宛らの気安い会話が交わされる。エルデライト家の貴族は皆使用人と仲が良く、家族の様に接していた。もちろん節度はあるが。
使用人をゴミのように扱う貴族もいると聞くので皆この家が大好きだった。
マリアが13歳の時、縁談を持ち込むものが現れだした。バルトロも探してはいたが、妙齢で金持ちなんて優良物件は既に結婚していて、残っているのは性格や性癖に問題があるか、それこそ60を超える元気な・・・老人くらいだった。
そんな時、フォックス商会と言う北部では有名な商会から、15歳の1人息子の嫁にと言う話が来た。商人は金を持っているが、爵位も欲しい。貴族は金を持っていなく次代に繋げる経済力が欲しい。この辺が落とし所かと伯爵は一度会ってみることにした。
「始めましてフォックスさん。カルロス=フォン=エルデライトです。こちらが娘のマリアです」
「フォックス商会のフォックスだ。こちらが息子のコンマン。こちらから提案した話だが娘を生け贄に金を出せとは恥ずかしく無いのかな? まぁ噂通りの器量のいい娘だから良しとしよう」
慇懃無礼な男が値踏みする様に、マリアを見る。カルロスは歯軋りをしながら侮蔑に耐えた。名を、家を残す為に。
「それでは連れて行くぞ。1日も早く子をなさせて、フォックス家の血が入った跡取りを産ませんとなぁ」
「ふふふ、私も気に入りましたよマリア。あなたを凌辱するのはとても楽しみだ。いい声で泣きそうですからね」
これなら助平爺さんの方が、早く死ぬ分まだマシだと思う。こんな無礼な者の提案を受けなければならないのは本当に屈辱的だとマリアは感じ、血が出るほどに拳を握り耐えた。
「お待ち頂きたい。お嬢様はまだ13歳です。それに箱入りで育って来たので、商人様の家を手伝う事など何も出来ないでしょう。他の貴族家に顔を売る意味も込めて行儀見習いに出してからの方がフォックス商会とっても有益な結婚になるかと」
「家令如きがでしゃばりおって。しかし一理あるな。腐っても伯爵家なら最低でも侯爵家くらいには見習いに行けるだろう。そこで他の令嬢と顔を繋いでくるのもありだな。良かろう。2年待ってやる。私にとって有益な人間になって来い」
「はい、ありがとうございます」
「そんな、父さん!僕はマリアをすぐに連れて帰りたいよ。愛し合う2人が離れ離れになるなんて悲劇じゃないか?」
「随分と気に入ったようだなコンマンよ。しかし商人なら感情より損得を優先しろと日頃から言っているだろう。なーにたった2年だ。婚約の条件にマリアは純潔を守る事と言うのを入れておけ」
瞬く間に婚約は成りフォックス商会の2人は帰って行った行った。
愛し合う? あいつは何を言っていたんだ?しかしこれで時間稼ぎはできた。なんとしても、他の候補を探さなくては。婚約破棄の慰謝料も補填出来そうな者を。
「本当に情けない話だ」呟いてカルロスは天を仰いだ。
それから2年が過ぎた。
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