2章 14話

 「なに? あの小僧が死んだ? どういう事だ私は殺しまで依頼した覚えは無いが」


「いっ、いえ、忘れ物をしたとかであいつが戻ろうとしたので少し痛めつけて脅してやろうと思ったら、川沿いで馬から落ちてしまいまして。死体は確認していないのですがあの急流では恐らく……」


「そうか、それなら仕様がないだろう。私は関係ないからな。あくまでお前らが勝手にした事だ。要人の警護の依頼は失敗という事だな。報酬も当然なしだ。ギルドには失敗の報告もしておけよ。早く何処かへ行け! 私は君達と会った事もない知らない人間だ!」


「そんな? これまであんたの命令で色々汚いこともやって来たのに、見捨てるんですか?」


 二人組の冒険者は演技だという事も忘れて抗議する。もし痛めつけていても、依頼は失敗にして金も払う気はなかったのかと言う本性に気づいたからだ。


「早く出て行け、それとも憲兵に通報されたいのか? この殺人鬼達め。私も殺されては敵わんからなぁ!!」


「ぐっ!おい、行くぞ」


 去っていく2人から目を切ってコンマンが自分の宿に戻る。自分が雇っていた斥候の特性も忘れて。


「おい、お前ら今日の夜またいって来い。今日で終わらせる。オールインに火をつけて来い。私は今からオールインに行って来る」


「そんなことしたら親方やマリアさんが死んじまうよ。俺達はこんなことをしたく無い」


「読み書きも満足に出来ないのに、契約魔法に簡単にサインをする方が悪いんだよ! 死にたくなければ、燃やせ。バレないようにな」


 何故こんなことに? 俺達はヘイホーが働けなくなってすぐに以前から引き抜きを断っていたコンマンからのスカウトを受けた。

 その時サインした雇用契約書が契約魔法だった。字が読めない事でこんな事になるなんて。オルテカ達は自分の無知を呪った。


「これで全て私の物だ……」


呟くコンマンの声は風のみが拾っていた。


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Side オールイン


「あんたの言う通りだった。コンマンは俺達を切ったよ。言われた通り去ったふりをして、隠密でその後も奴の話を盗み聞きして来た。今日宿を燃やさせるつもりみたいだ。それと……」


「えっ? マジ? 今日? 馬鹿じゃ無いの?」


「なぁ言う通りにしたろ? 解毒剤を早く。体が、蝕まれている感じがするんだ。頼むあんたには逆らわねえから」


 あの雑草にはそんな効果が⁉︎ それなんてプラシーボ効果? 笑いを堪えながら、まだダメだといい。絶望する2人を見る。


「お前ら、名前は?」


「モンだ」 「キーだ」


「そうか。モンとキー、コンマンに復讐したく無いか? 明日の昼間には必ず解毒剤をやる。だから手伝えよ。なぁに、今夜の警護に加わるだけで良い。あとは俺が追い詰める」


 コンコンっと、話の最中にノックが聞こえる。達也は素早く2人の首根っこを掴んで達也は裏に隠れスキルをオンにして、2人には隠密を使わせる。ガチャリとドアが開き、入って来たのはコンマンだ。


「どうもどうも、夜の忙しい時間にすみません。様子を見に来ましたよ。何ですかね、宿屋の勘とでも言うべきですか、タツヤさんに何かよく無い事が起きたんでは無いかと思いましてね」


「お久しぶりですコンマンさん、ご主人様は冒険者の経験もある方ですから大丈夫かと思いますが、ご心配ありがとうございます」


「マリア♡相変わらずお美しい。私の所に来る気にはなりましたか? 爵位の無くなったあなたでも妾になら迎える準備はありますよ。私は今でもあなたが大好きですからねぇ」


えっ? そうなの? 聞いてないよそれ。まさかそれでヘイホー恨んでとかじゃ無いよね?マリアさんの病気も実はこいつのマッチポンプとか?流石に無いか。



「人妻を呼び捨てにする物では無いですよ。私みたいな物をからかって。今度子爵様の娘と結婚して婿養子になるって噂になってますよ」


「あれは爵位を得るための政略結婚だ! 何故お前には私の真実の愛が伝わらない? 君の様な高貴なものがあんな野蛮な山賊の様な男に拾われて‼︎」


 初めてこいつが激昂するところを見たな。マジで好きなのか? って言うか、まさか恋路で宿を? まさに、燃え上がるほどの愛……なんて言ってる場合じゃ無いか。


「まぁ良い! 悪い事は続くと言いますから何か有ったら私を頼りなさい。例えば、職場や住む所がなくなるとかねぇ。男どもはいらんが、女達は私が面倒を見てやるよ」


「そんな事は無いとは思いますので結構です。他に用意がないならあなたの言った通り忙しい時間なので、お帰りください」


 ニッコリと冷笑を浴びせるその声には達也まで寒くなる様なプレッシャーが乗っている。それでも尚、「ふむ、やはりいい女だな」とかいって帰って行くコンマンはある意味大物だと思う。

 あと真実の愛はどうした? ララもリリもルルもやらんぞ。うちで育てて立派に嫁にやるんだ。


 モンとキーは手伝う事を了承した。物陰からコンマンを見る目が殺気立っていたのでこれなら大丈夫かと解毒剤(サウナで配ってる果実水)も渡してやった


「これは……身体の中の異物が浄化される様だ。改めてすまんかった。俺達もあんたに協力する。2度とあんな悪党と同じにはならねえと誓おう」


「あぁ。ギルドでいい仕事がないなら冒険者やりながらでもうちで働けば良いよ。俺の師匠の元で鍛え直してからにして貰うけどな。だからもう間違えるなよ」


「あんた神様か何かかい? 俺は、俺達は一生ついていきます」


 果実水にそんな効果は無いけど、これはもうネタバラシ出来ないよな。あいつら涙ぐんでるし。ロキにも口止めしないとな。

 あと俺は神じゃ無い。神は殲滅者と呼ばれた元Sランクのしごきの鬼(本人は善意)の元に使徒を送ったりしないからな。それはそうと。



「マリア、ヘイホー呼んできて。そしてコンマンと何があったのか話を聞かせてもらおうか」


 短く返事をしてゆっくりと頷いてマリアがヘイホーを呼びに行って帰って来た。


「アレは12年前の事です」


 マリアが語り始めた。



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