2章 第4話 ヘイホーの裏切り(いい意味で)

 町に帰って来ると、ヘイホーが指示通りに大皿に料理を用意して待っていた。本人は料理人と言っていたが、俺もあいつの料理を食べるのは初めてだ。


 村から連れてきたのはホールや受付ベッドメイキングに3人。厨房に1人だ。

3人はいずれも女の子でリリと、ルルの14歳と13歳の姉妹そして14歳のララ。厨房には14歳の男の子バインだ。ララの弟で、おまけのロキがいる。


 選考基準としては面談をした時に容姿もポイントだが、何より愛嬌があった。冷たい美人より、笑顔が1番だよな。そして逃げ出しづらいように、姉妹を選んだ。


「仕事は明日からだ。今日は思い切り食べてくれ」


「えっ⁉︎」 「んっ?」


「私たちは皆様が食べた後に残り物を頂くと村長から聞いてます。だって奴隷ですよ」


「あぁ。俺、奴隷ってあんまり得意じゃなくて。他になんて言っても村の人に伝わらないと思って奴隷を買いたいって村長には言ったけど、正式には奴隷じゃないんだよね」


 きょとんとしながら俺を見る人達に、さぁ早く食べてと促すとおずおずとしながらも。一口箸をつける。すると怒涛の勢いで食べ出した。

 まぁ前金制だし奴隷なのかな? なんていうんだろ?人買い?個人的には、正社員登用のある、契約社員としてみんなを扱いたいと思ってる。


 それはそうとヘイホーのドヤ顔が気になる。

俺もさっきから料理が気になっていたから、食べてみるか。食材は基本的に地球と同じものが多かった。名前は違うみたいだが、俺の唯一の異世界テンプレの言語翻訳機能は同じに表示してくれる。


 目の前にあるコレは、海老のチリソースに見える。この町の近くに海はなかったはずだが、芳純な香りがたまらない。ベルドラや王都は洋食がメインだったので、中華の香りは俺の心を深く揺さぶった。フォークを伸ばし、それを口に含む。


 旨い。元々好物なのだが3年ぶり、そしてしっかりと下処理された海老、照りとろみのあるチリソース、香りが強いネギと、アクセントのニンニクも忘れていない。

 火加減や調味料のバランスも完璧だ。日本で食ったどの店よりも旨い。あいつはちょっと抜けたところのあるネタキャラじゃなかったのか? なんか裏切られた気分だ。


「へへ、どうですか旦那?」


「旨いよ。今まで食った海老のチリソースで1番旨い」


「驚いた!どこでこの料理を?旦那を驚かせようとして、港町で習った料理を出したのに」


「まぁ、色々な。見ての通り冒険者だったからな」


 今はクランリーダーだがな、とは言いたく無い。海産物について聞くとこれは川海老と言うものらしい。メインがそろそろ出来ると思うのでと、ヘイホーが居なくなった。立ち込めてくる匂いに、期待をせざるを得ない。やつの料理は香りも大切にしているようだ。


 隣では新入社員たちが無言で凄いスピードで食べ続けてる。俺は果実水をテーブルに置いた。また恐縮がるのを見てクスッとしたが追い追い慣れて行けばいいさ。


 ヘイホーが大皿を手に持って来た。そこに見えるのはどう見ても豚の角煮、イヤ中華が得意のようだし東坡肉とでも言おうか。珍しくハイオークと言うオークの上位種が市場に入ったとヘイホーが説明していたが、俺は皿から目が離せなかった。


 一目で上質だと素人でもわかる肉の輝き、こってりと味付けされたオーク肉は艶々と輝いている。煮卵が隣に添えられているのを見ると、ヘイホーへの評価が爆上がりする。俺は我慢できずにそれを頬張った。


「っくはぁ」


 ニヤリとするヘイホーがムカつくが、もう今回は俺の負けだ。下手な食レポなんていらない。これが料理漫画なら俺の服は弾けていて8ページはリアクションに使う味だ。


「まいったよ」


 脱帽だ。しかしこれでこの宿の売りの一つは出来たな。こいつの宿が町1番だったと言うのも頷ける。俺の前の世界の知識も使って料理も売りにしていこう。


 パタンと音が鳴り、ロキが帰ってきた。


「素振り200回終わった……」


「お疲れ、水浴びして汗流したら飯食っていいぞ!」


「えぇー! すぐ食べたいよ」


「ロキ!!」


「へーい」


 摘み食いをしたロキには罰として、素振り200回にした。かなり疲れているので、見本を見せた通りにしたみたいだな。一回一回を敵を想定して、全力で振る。シャドーボクシングの様なオウル直伝の素振り?だ。

 コイツには冒険者になってもらう。早めにいい師匠探さなきゃなぁ。


 食事も終わり、皆がひと心地着いているときに、俺は宣言をした。


「みんな聞いてくれうちの宿は、1日8時間、週休1日で回していく。人が増えれば完全週休2日で行くつもりだ!」


もちろん、みんな訳のわからない顔をしている。さぁ俺の異世界宿屋改革の始まりだ。

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