第128話 キング候補

 ◇◇◇◇◇


 東京都心の最上級ホテルを後にしたグリードとソフィアがハイヤーで渋谷に向かう。


ソフィア:「久しぶりに会うんだよね!

 超楽しみなんだけど!」


グリード:「なぁ。ソフィア。

 アケミに確認したんだが、ホクトとナントはゲートに潜って、まだ戻って来てないらしいぞ。

 誰に会うつもりなんだ?」


ソフィア:「え?誰もホクトとナントに会うなんて言ってないよね?」


グリード:「いや、ジャパンのキング候補って言ったよな?

 この国は、スリースター以下しかいないはず。

 ホクトとナントですらポテンシャルの話で、実際はキング候補ではないよな?

 一体、誰がキング候補になるんだよ?」


ソフィア:「そうね。彼はまだツースターだから知らないと思うよ。」


グリード:「はぁ!?ツースターだって?

 そんな奴がなぜキング候補なんだ!」


ソフィア:「私の感ね。今のところは、サエと私だけじゃないかしらね?

 でも、私の第六感は、彼がキング候補筆頭と言ってるわね。ふふふ。」


グリード:「筆頭は俺だろ?ふざけんなよ。

 絶対に潰してやる。」


ソフィア:「あら、ダメよ。そんなことしたら、どうなるか分かってるよね?」


 グリードは、それ以上何も言わないが、そのツースターのキング候補筆頭とやらに瞬時的に極限の憎悪を感じた。


 こうなったらバレないように潰すまでだ。

 これはナントにやらせるか?

 あいつなら上手くやるだろうぜ。


 グリードは、こういうことは北斗なら性格上やらないが、南斗ならビジネスとしてやると思っている。


 まもなく、ハイヤーは渋谷にある日本探検者協会本部に到着。

 待ち伏せたメディアを振り切って、出迎えた紗英と共に特別応接室のドアを開けた。


 龍太郎とカレンも立ち上がって出迎えた。


ソフィア:「ハーイ!リュウタロ!」


 入って来るなり、ソフィアが大きな声で挨拶をして龍太郎に抱きついて来た。


龍太郎:「う!どーも。」


 グリードも龍太郎を睨みつける。

 世界トップランカーとあって、威圧感が半端ない。


グリード:「おい!お前、誰だ?」


龍太郎:「ん?俺?天堂龍太郎だ。

 お前こそ誰だよ?」


 龍太郎は、目の前にいる男がグリード・キングと分かったが、売り言葉に買い言葉。

 あえて、鸚鵡返しの質問を投げかけた。


グリード:「はぁ!?俺を知らんのか?」


 グリードは、目の前の小僧に舐められて、怒りは頂点に達していた。

 そして、当てるつもりはなかったが、咄嗟に龍太郎の顔に高速のジャブを軽く放った。

 あくまで、威嚇のための行動であったが。


 それを龍太郎は、少し顔を横に逸らして躱し、そしてグリードを睨みつけた。


 そのやり取りは速すぎて、周囲の紗英、カレン、ソフィアは気付いていない。


 グリードは体がデカく典型的なパワー系で、龍太郎はどちらかというとスピード系だ。

 反応速度だと個体強度レベルの差は埋まっていた。むしろ、龍太郎に分があるように見えていた。


 龍太郎はグリードを危険人物に認定。

(あぶね!こいつ、いきなりなんだよ?)


 グリードも龍太郎を通常のツースターではないと判断した。

(こいつ、俺のジャブを見切ったのか?

 ツースターじゃなかったのか?)


 何も知らないソフィアは、龍太郎たちにグリードを紹介した。


ソフィア:「リュウタロ!彼はグリード。

 アメリカのトップエクスプローラだよ。」


紗英:「まあ、とにかく席に掛けましょう。」


 ジャパンとアメリカの二手に分かれて席に付こうとしたが、なぜか、ソフィアが龍太郎の隣に座る。


 カレン、龍太郎、ソフィアの並びで長いソファに。その反対側にグリードが座り、紗英が一人でポツンと立っている。


紗英:「ソフィア。あなた、こっち側でしょ?」


 紗英は、グリードの横を指差した。


ソフィア:「あ、そうね。残念。」


カレン:「龍太郎!鼻血出てるよ!」


龍太郎:「え?」


 龍太郎が鼻血を拭き取っている間に、ソフィアが反対側の席に座り直す。

 一連の流れにまたグリードが何か文句を言いたそうだ。


グリード:「それでソフィア。このリトルモンキーがキング候補ってどういうことだ?」


 グリードから見れば、龍太郎は筋肉バカだが圧倒的に小さい。そして、弱そうに見える。


ソフィア:「ちょっと!グリード!

 失礼なこと言わないでよね!

 リュウタロはリュウタロ。

 ちゃんと名前で呼んで!」


グリード:「嫌だな。

 それより俺の質問に答えろ。」


ソフィア:「もう!リュウタロ。ごめんね。

 リュウタロがなぜキング候補って?

 それはね……。

 私が唯一、心を奪われた人だからよ。

 ね?リュウタロ?」


グリード:「な、なんだとぉ!?

 潰す!絶対に潰す!」


 おいおい!物騒だな!

 ソフィアさんも余計なことを言わないでくれ!頼む!


紗英:「それでソフィア。今日は何か重要な話があるってことだったけど、なんなの?」


ソフィア:「あ、それね。一つはリュウタロをグリードに会わせること。ってことになってたわね?表向きは。今後、一緒に討伐に向かうこともあるでしょう?」


グリード:「ハッ。有り得ないな。

 俺とこいつはレベルが圧倒的に違う。

 こんな猿と一緒にするな。」」


龍太郎:「俺もないと思うぞ。

 ただし!レベルはすぐに追いついてやるからな!」


グリード:「ハッ。ツースターが、ファイブスターに追いつく?お前、馬鹿か?

 もし、お前がファイブスターになったとしても、その頃には俺はナインスターになってるわ。クソが。」


 グリードは、そう言うと龍太郎の顔面に高速のジャブをまたもや放つ。

 先ほど避けられたのが癪に触ったのか、全力のジャブを放ち、流石の龍太郎もこれは全く避けられず、後方に吹っ飛ぶ。

 そして、そのまま後方の窓ガラスに激突し、宙に放り出される。


 ガシャーン!


 窓ガラスは木っ端微塵に吹き飛び、轟音と共に協会本部の18階から、地面に真っ逆さまに落ちていった。


 その様子を周りに居たメディアが捉えた。

 協会で何があったのか?

 そして、この落ちて来た男が龍太郎と気付くと、生中継で報道員が解説を行っている。


報道員:「たった今、協会の特別応接室がある18階から窓ガラスを破って、一人の男が落ちて来ました!

 第一将持国天の天堂龍太郎です!

 世界トップランカーのグリード・キングと会談中の筈ですが、一体何が起こったのでしょうか?」


ソフィア:「グリード!」


 ソフィアは、ものすごい剣幕で怒っている。

 紗英とカレンは立ち上がって、割れた窓ガラスから下を見て龍太郎に声を掛けた。


カレン:「龍太郎!」

紗英:「天堂くん!」


 協会本部の窓から龍太郎の落ちた地面を見ると、龍太郎が立っていた。

 龍太郎はかなりの衝撃を受けたようだが、スキルによる防御力強化によって、痛みはあるがほぼ無傷。

 さらに、地面に落下するものの飛翔スキルで上手く着地していた。龍太郎にとって、この高さはどうでもない。


龍太郎:「ああ!大丈夫だ!」


 龍太郎もカレンと紗英に向かって、無事を伝えた。


龍太郎:「くっそ。あいつ、本当に狂ってるぞ。

 殺す気かよ!部屋まで壊しやがって!」


 龍太郎の無事を確認した紗英は、ソフィアに詰め寄った。


紗英:「ソフィア!この状況わかってるわよね?国際問題になるわよ?」


ソフィア:「もう!グリード!」


グリード:「はっはっは。悪いな。ついむかついてな。だが、スッキリした。

 ソフィア、後は任せたぞ。」


 グリードは、割れた窓ガラスの方にジャンプして、そのままそこから飛び降りた。

 そして、かなりのスピードで落下するもかなりの轟音と共に地面に着地した。


 ただ、そのそばにいた無傷で立っている龍太郎を見て少し驚いた表情を浮かべたが、自分との力の差に満足し、さらに龍太郎がキング候補ではないと確信を持った。


グリード:「おい!猿!俺の前で二度とデカい口聞くんじゃねえぞ!

 向こうの世界じゃ、俺はこの何倍も強い。

 いくら頑張っても差は埋まらねえよ。」


龍太郎:「分かりました。

 って言うわけねえだろ!

 絶対に追いついてやるよ。」


グリード:「はっはっは。まあいい。

 チビの子猿に何を言われても腹が立たん。

 もう、お前には興味ない。」


 そう言って、待たせていたハイヤーに乗り込み、一人で宿泊先のホテルに帰っていった。


 龍太郎も、グリードに啖呵を切ったものの、自信を持っていたスピードで圧倒されてしまった現実に世界トップランカーの凄さを知らされることになった。


 あいつ、絶対にパワー系だよな?

 それであのスピードかよ。見えなかったぞ。

 これがレベルの壁か……。


 この様子も一部始終、ネットで配信されて、いろんな尾ひれを付けて、世界のトップニュースとなった。

 日本では、超有名人となっている龍太郎が、このニュースをキッカケに世界的に知名度を上げた。

 アメリカのトップランカーにやられる弱小日本のジョーカーとして。

 もちろん、いい意味ではなく、揶揄である。


 このあと、ソフィアと紗英、カレン連合の間で揉め事があり、やむなくソフィアもタクシーを手配してその日は大人しくホテルに帰って行った。


 ただし、実は、誰も気付いていなかったが、特別応接室でソフィアが着席した瞬間に、ソフィアの監獄スキルと龍太郎の監獄長スキルの攻防があり、すでにソフィアの目的は達成していたのであった。

 龍太郎も、ある程度予想はしていたが、いきなりの攻防にやむなく付き合わされて、そして、そのことはみんなには黙っていた。


 言う必要ないよな?気付いてないし。

 

 それにしても、ソフィアさんはやっぱりすごいな。じゅる。


カレン:「龍太郎!鼻血出てるよ!」


 ◇◇◇◇◇

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