吾輩はロボである ～ロボと水着と四角カンケイ～

マニアなご趣味とあぶない水着

　そんなわけで、四人（？）連れ立ってやって来た水着売り場。

「コイツに合う水着を見つくろってくれ。ちゃんと浮くやつ」

　マスターの手前、トイトイ殿が、肩の上に乗ったパイリァンを差して店員さんに呼びかけた。

「承知しました。こちらのお嬢さんですと１／４サイズですね。こちらへどうぞ」

　店員さんに連れられて、二人がフロアを見て回る。待つことしばし。パイリァンが試着スペースに入っていった。

「とりあえず、手ごろな値段のを選んできた」

　ロボを肩から下ろしたトイトイ殿の顔は少し赤い。まあ作り物とはいえ、女の子の水着を大量に見せられればこうなるのは、吾輩も納得である。

「着替え、終わった」

　か細いパイリァンの声が聞こえて、カーテンがおずおずと開かれた。

「こっ、これは……」

　あらわになった彼女の水着姿を見て、吾輩は一瞬動作停止（フリーズ）してしまった。

　紺色のワンピース。ちょっと厚ぼったい生地の、ずいぶんと地味な……＜検索＞……これはスクール水着というやつでありますな。しかも旧の付く。

「うわトイトイちゃん、まにあっくぅ～」

　マスターがドン引きしている。

「『今ならサービスでお名前もお入れしますよ』って言うから、おトクだと思ったんだが。なんかマズいか？」

「……マスターがこれがいい、って言うなら……」

　パイリァンが控えめに自分のマスターの味方をするものの、本人はやっぱりお気に召さないご様子。

「ミケ、お前から見てどうだ？」

　形勢不利と見たか、トイトイ殿が吾輩に振ってきた。アイコンタクト完了。うん、人間は人間同士、ロボはロボ同士。それが正しい道と言うものだ。

「吾輩もいいと思いますが。なにかこう、不思議な魅力があるというか」

「ミケまでそんなこと言う～？」

　う。マスターの視線が零下だ。

「あ、そう。じゃ、これミケに買ったげる。すいませ～ん、これの等身大（にんげん）サイズ一着」

「うわたたた、分かりました！　じゃあこれはナシということで！」

　何かというと吾輩を女装させたがるのは、マスターの悪い癖である。ともあれこの四人の中では一番立場が強いうちのマスターの強権発動により、第一案は没となった。

「今度は店員さんにまかせたから、間違いないと思うが」

　再びのパイリァン着替え待ち。自分で見てないせいか、トイトイ殿も落ち着いている。

　……しかし、今回の着替えはずいぶん時間がかかってるな。そんなに複雑なつくりなのか？

　いい加減吾輩たちが焦れたころ、パイリァンがぽすっと、カーテンの隙間から頭だけ出した。

「ねえ、これで着かた合ってるの？」

　さっきにも増しておずおずとした彼女の顔は、なぜか相当過熱していた。

「俺だってよく分かんねえけど、どれ」

　試着室の中に首を突っこんだトイトイ殿が、マッハで首を引っこ抜いた。こっちもいきなり首まで真っ赤になってる。

「もーなによー！　水着くらいでそんな恥ずかしがって」

　こういう煮え切らない態度が嫌いなマスターが強引にカーテンを全開にして――思いッきり硬直した。

「ミケは見ちゃダメー！」

　慌てて吾輩の目をふさいできたが――そのわずかな間に、吾輩は見た。見てしまった。

　肝心な部分は辛うじて覆っているものの、布地面積のほとんどない――紐だけ状態の水着だった！

「……『マスターさんも、こういうの喜びますよ』って……」

　パイリァンの声は今にも消え入りそう。さっきから警告（ワーニング）音も出てる。たぶん水温。

「っだー！　中学生になんてもん売りつけんだ！」

　トイトイ殿が切れた。

「そうですよ！　そんな格好で、いけない人にでも捕まって、煮て食べられでもしたらえらいことです！」

　マスターに目隠しをされたままであるが、吾輩も完全同意。＜判定＞するまでもない、これもうアウト！

「とにかくこいつらよそを向かしとくから、パイリァンちゃんはさっさと着替えて、それ返してくる！」

　三人即一致により、店員オススメ案は却下となった。