吾輩はロボである ~ロボと水着と四角カンケイ~

飛鳥つばさ

わざわざアキバに来たわけは

 吾輩はロボである。名前はミケ。

 学校が夏休みに入ったある日。吾輩たちは、現在いまはロボの街となったアキバのロボカフェに繰り出していた。

「で? わざわざボクらをアキバまで連れまわしてきた用事って、なに?」

 吾輩の隣で、ちょっと不機嫌な声をあげた女の子は、マスターのひまわり。

 いつもは元気と明るさを周囲に振りまいている高気圧中学生なんだけど、今回は呼ばれた相手が相手だけに、ご機嫌が傾いているご様子だ。

「水着が欲しいの」

 吾輩の向かい、テーブルの上にさらに小さな椅子とテーブルをのせて、そこにちょこんと座っているのが、今日の主役、パイリァン。

 はかなげな印象を与える女の子の姿をしているけど、身長は30センチと少し。こんな子が人間のはずがない。そう、彼女もロボだ。

「ちゃんと泳げるもの」

 パイリァンが言葉を続ける。

「なる。それでアキバかあ」

 マスターもそれで納得いったみたいだった。

 そう、吾輩たちロボは、人間の形を模しているが、中身は金属のカタマリ。基本水には浮かばない。

 それを補う浮力を持つ素材となると、等身大にんげんサイズなら地元にもまだあるが、小型ロボだとまず縮尺スケールがまちまち。これはもうアキバで探すしかない。

「マスターだけでよかったのに……なんでこの人たちまで呼んだの?」

 パイリァンはテーブルの上の小テーブルの上に、飲みかけの”いまいち燃えない潤滑油オイル“を置いた。愁いを帯びた視線が、彼女の隣、マスターの向かいの席を刺す。

「オレじゃこの街はよく分かんねえ」

 ふてくされた表情で答えたのは、ヤンチャな雰囲気の男の子。パイリァンのマスター、名前はトイトイだ。

 その理由には吾輩納得である。トイトイ殿がロボを始めたのはこの春から。パイリァンも、できてまだ二ヶ月の幼いロボだ。道は先が長い。

「それに、水着売り場なんて、男一人で入って行けっかよ」

 そっぽを向いて吐き捨てたトイトイ殿の顔は、ちょっと赤くなってる。

「だったら、最初から男の子のロボにしとけばよかったのに。へんた~い」

「女性型にしたのはワケがあんだよ!」

 ジト目でにらんだマスターに、トイトイ殿はさらに顔を真っ赤にしてかみついた。

「まあまあ、せっかくのお呼ばれじゃありませんかマスター。今日はお二方にアキバを案内してあげましょうよ」

 このまま放っておくと空気が悪くなる一方だ。吾輩は”マスターとの冷却(期間)液クーラント“のストローから口を離した。

「そりゃ、ミケはパイリァンちゃんとご一緒できて、これから水着姿も見れて、ご満悦なんだろーけど!」

 おっと、こちらに飛び火してしまった。マスターの頭に付けた、お気に入りのリボンの色が黒ずんできている。

「それは否定いたしませんがね。こんな小さな子に当たり散らしたって、みっともないですよ?」

 こうして三人(?)をなだめる役に回れるのも、吾輩としてはこの状況に不足がないからか。

 そう、休みの日も、パイリァンといられる。

 ――この子が完成してから、吾輩の思考は変わった。

 それまでは、仲間の中では、吾輩が一番幼く、下っ端で、逆に言えば周りに甘えていればよかった。

 けれど今は、<この子を守らないといけない>。そんな命令コマンドが頻繁に生成される。

 吾輩にとって、パイリァンは妹のようなものなのか、それともそれ以上のものなのか。いまだ解析不能。

 何を言われてもこたえない吾輩に、マスターも怒る気が失せたのか、ため息をついてお茶を一口すすった。

「まーいーよ。今日一日は付き合ったげる。こっからだと八十八おこめ電機かな、ミケ?」

「アイアイサー。……<検索>……八十八おこめロボ王国コスチュームフロア、営業中。小型ロボ向け機能水着も各サイズ品ぞろえがあります」

「よし行こっか。でもねトイトイちゃん? 覚悟しといたほうがいーよ?」

 マスターがイタズラっぽく笑った。ようやくいつもの調子が戻ってきたようである。

「ロボってのは、とにかくおカネがかかるんだよ? 今この子たちが飲んでるのだって、ホラ」

 ひょいっと差し出された会計タブレットを見たトイトイ殿が、コーヒーを吹いた。


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