失恋と始まらなかった恋

白黒灰色

 前編

 春風がさわさわと木の葉を揺らしている。木漏れ日が眩しくて目を細める。地獄のような大学受験が終わってから、時間がだいぶゆっくりと流れるようになっていた。

 俺は今、駅前広場のベンチに座って人を待っている。

 少し前までは、隙間時間があれば単語帳でも開いていたのだが、もうそんなことする必要もない。そんな日々に嫌気がさしていたのに、いざそれが終わると、今度は何をして時間をつぶせばいいか分からなくなる。

 俺は何となく、通りを眺めてみることにした。

 すると2人組の女の子が通り過ぎていくのが見えた。2人は仲良さそうに手を繋ぎながら、何か話していた。

 ――あれは友達かな? それとも、恋人?

 そっち方面の創作ばかり見ていたせいか、考えがそっちに流される。2人は俺の視線に気付くことなく、角を曲がって視界から消えていった。

 それと、ほぼ同時だった。

「原田君、原田君」

 後ろから肩を叩かれた。

「園子か?」

 俺が後ろを振り返ると、待ち構えていた人差し指が頬に当たる。町田園子はいたずらっぽい笑顔を浮かべていた。特徴的な長い髪が風になびいている。

「ごめん。待った?」

「……いや、俺もさっき来たばかりだから」

 実際には、妙にそわそわしてしまって15分も前から待っていたのだが、嘘を付く。園子は「なら良かった」とまた笑った。その笑顔に思わず、ドキッとしてしまった。

「じゃあ、映画行こうか」

 そう言って、園子は駅前の――というには距離があるが、映画館の方に目を向ける。

「そうだな」

 俺も立ち上がると、平静を装いながら、園子と一緒に並んで歩き出した。

「映画楽しみだね」

「特典のプロマイド、誰狙ってるの?」

「ルルちゃん。でもさ、ランダムってちょっと酷くない?」

 園子とそんな他愛もない会話をする。その間、俺はバッグの中のプレゼントの方に意識を向けていた。

 俺も園子も、来週には別の地方の下宿先のアパートに引っ越すことになる。だから、今日が終わればしばらくお別れだ。

 ――いや、もう会うことはないだろう。

 この想いに決着を付けられるのなら、正直肩の荷が下りた気分だ。この気持ちは、受験よりも長かった。

 何処から飛んできた桜の花びらが、俺達の間を通り抜ける。俺は何となくそれを目で追った。

 その花びらは、たぶん俺以外に気に留められることもなく、静かに地面に落ちていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る