思わぬ邂逅
あの後、俺とカラメさんは少しだけ――それこそ「お疲れさまでした」のような――他愛もない会話をしてボイスチャットを後にした。
コラボ配信、それも大先輩とのコラボと言うこともあって、配信終了後は疲労感と満足感が同時に襲ってきた。緊張の糸が切れたのだろう、一気に体力の消失が実感できた。
そして俺は、そのまま夕飯も食べず、風呂にも入らずに寝た。一昔前の言い方をするのならバタンキューと言うやつだ。
んでもって、今はスマホのバイブレーションの音と共に、最悪の目覚めを体験している。
風呂に入らなかったから髪はベタベタだし、夕食を摂らなかったから体力はないし、もちろん歯も磨いていないので口は気持ち悪い。そしてスマホの音と共に起きるという負の
さて、誰からの連絡か。
俺は鈍重な体を何とか動かしてスマホを取る。昨日から充電していなかったのでバッテリー残量は18%しかない。
未だ半開きの目でなんとか捉えられたのは、ラインの通知が来ていたことと送り主が凛斗であるということだけだった。
それ以上は脳が活動を拒んでいる。ノンレム睡眠の時に起きてしまったのだろうか。とりあえず二度寝させてほしい。
ブー!
うるせぇ!寝させろや!
二度寝をしようとしたらピンポイントで通知が来た。じゃあもうこの際無理やりにでも体を動かすとしよう。
「うあああああーーーー」
俺はベッドから体を起き上がらせて伸びをした。さながら猫のように。
さて、まずはシャワーでも浴びましょうか。
▼
時刻は13時。
俺は駅前にいた。なんでも凛斗のやつが買い物に付き合ってほしいらしいのだ。俺が起きたのは11時だったし、我ながらなんと素早い準備だったと感心する。さながら変わり身の術だっただろう。
「よーっす!」
目の前から凛斗が軽く手を挙げて歩いてきた。
「よっ」
それに対して俺も同じように返す。
ラインでやり取りした情報では、凛斗は杏に誕生日プレゼントを買いたいらしい。俺も友人として何か送った方が良いだろうし、凛斗と一緒に選ぶか。
現在、2月の24日。杏の誕生日は明後日だ。彼氏として、もっと事前に準備した方が良かったのではないかと聞いたところ、「隙が無かった」と言われた。凛斗としては、杏に悟られないようにしたいらしい。
隙が無いってなんだよ。忍者かなんかか?
俺のそんな疑問はどうでもよくて、顔合わせもしたことだし俺たちは早速駅内へと足を運ぶ。え?この周辺でショッピングするんじゃないのかって?いや、今から電車で向かうんだよ。
▼
と言うことでやってきました。でっけーショッピングモール。端的に言うとイ〇ンだ。日本国内にあるやつだと幕張にあるのが一番デカい。コ〇トコが囲われてるもん。一度あそこに行くと、他のショッピングモールが小さく感じる。具体的には、「あれ?もう端まで歩いたの?」という、誰得無自覚俺TUEEEE状態となる。
閑話休題。
「んじゃ、行きましょうかね」
「そうだな」
俺と凛斗はそんな会話をしながら店内に入る。ちなみに幕張ではない。
「んで、凛斗や、杏に何プレゼントするとか決めてんの?」
「いや、まだ悩んでるんだよね。もう俺たち付き合って4年になるわけじゃん?今年で5年目だからさ、もうプレゼントなんてたくさんあげてるんだよね」
「ほう、その隙自語には目を瞑ってやる。――つまりプレゼントのラインナップが尽きてきているってことね」
「そういうこと」
俺はそれを聞いて納得する。こいつら今年(来年度)で付き合って5年目になるのだ。微塵も分かれる気配がないので恐らくお互いの両親公認だろうし、多分結婚するんだが、まあ4年も一緒にいればプレゼントなんてたくさん渡してきただろう。何も贈り物をするのは誕生日だけじゃないしな。
「アクセサリーとかは?」
「それは去年渡した」
「服」
「あいつはたくさん持ってる」
「食い物」
「……突拍子もないこと言うな?」
良いんでね?お互い1人暮らしなんだしさ。食料はあって困るもんじゃないし。
「ロマンがない」
そう言ったら、こう返されて俺は何も言い返せなくなった。
ロマンチックなプレゼントォ……?
男2人が悩みながらショッピングモール内を闊歩している。
男の頭脳じゃ太刀打ちできないような気がしてきた。
「あずきを連れてくるんだったかな」
「お前の妹を?」
あずきとは、凛斗の妹で高校2年生。神楽坂あずき。
見た目は結構かわいい。俺も会ったことがあるが、なんというか、少しばかり圧を感じたので少々苦手意識がある。
恐らく俺の直感じゃあの子はブラコn――ッ!!
……なんだ今の悪寒は。なんだかこれ以上考えてはいけないような気がする。
俺は考えるのをやめた。さながら宇宙に解き放たれた究極生命体の様に。
「俺ちょっとトイレ行ってくるわ」
俺が得体のしれない悪寒に襲われていると、凛斗がそんなことを言った。
「おっけ、俺はそこの椅子に座ってるわ」
そうして俺は長椅子に腰かけたのだが……。
「あれ、草深さん?」
座った瞬間に聞き覚えのある声がした。
顔を上げると、そこにいたのは見知った人物と見知らぬ人物。
「おぉー恋歌じゃん」
「お久しぶりです」
「そんなに久しくない気がするけどね」
俺が恋歌――秋月ミクルとコラボしたのはつい最近のことだ。そこまで間が空いたわけではない。
それはそうと、気になる人物がいる。
「んんー?恋歌知り合い?」
気になる人物、恋歌の隣にいる女性はそう言った。
「うん。知り合い。同じ大学の人」
「ほほぉー。でもなんか聞き覚えのある声してるようなー?」
「それはこの人が私と最初にコラボした人だからじゃないかな」
「あーなるほど!君がCHIZUくんか!」
おおう。こんなにさらっと正体を言って良かったのだろうか。まあ恋歌が信用している人なら問題ないか。
「どうも。草深達平と言います」
「これはこれはごてーねーに。私は蒼崎雫って言います。ネット上では『碧衣天』の方が通りはいいかも?」
ほほー。
…………!?
◇◆◇◆
凛斗でラブコメ書けそうな気がする
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