意外な繋がり
テキトーなカフェを見つけて、俺たちはそこで軽食がてら話をすることになった。
カラメさんが俺に何を聞きたいのか、気になるところではあるが何を言われるのか今から気が気でないことは確かだ。
とりあえず俺はサンドウィッチを頼んだ。
カラメさんはコーヒーとプリンを頼んでいる。
「そういえば、事務所は大丈夫なんですか?」
「うん?」
「いや、コラボのスケジュールとか」
企業所属のVtuberならマネージャーがいるはずだ。俺とのコラボは大歓迎なのだが、そちらの都合がちゃんと通っているのかを知りたい。
まあないとは思うが、もし無理やりとかだったら俺は断るからね。
「ああ、それなら問題ないよ。マネには話を通してるから」
どうやら杞憂だったみたいだ。
この人の事だから自分勝手にスケジュールを埋めてるみたいなこともありそうだったが。
真面目なところではしっかり真面目なようでなにより。
「意外だと思った?」
「そうですね。飛び抜けた社会不適合者では無いんだなぁって思いました」
「…………そう」
なんだかカラメさんの顔がしょんぼりしちゃったのだが、何か心当たりない?
ある?まぁあるよね。
衛生兵ーー!!!
主に精神面での衛生兵ー!!
「すいませんすいません。ちょっと弄っただけなんです」
俺の心の中の衛生兵が反応したようだった。
「キミは丁寧なのか図太いのか分からないな」
「なんで丁寧だって思ったんですか」
「いや、ボクがこのテンションで初対面の人と会うと大抵の人は引いちゃうから」
「いや、引きましたよ?」
「まあキミの中ではそうなんだろうけど、ボクからしたら対応が丁寧に感じたかな」
この人どこかおかしくなっているのではなかろうか。
俺としては結構不遜な態度取ってるような気がするんだけど。少なくとも初対面の相手にするような態度ではなかったはずだ。
その大部分はカラメさんのぶっ飛んだ性格と発言から、「あ、これは多少失礼しても平気かも」と思ったからなのだが。
「病院行った方がいいと思います」
「ハッキリ言うね〜」
そう言うカラメさんはどこか嬉しそうだ。
ちょっと変態かもしれない。
「ボクって性格が普通とは言えないから、反りが合う人が少ないんだよね」
「ほぅ」
「まあ『でらっくす』の面々はみんな反りが合うんだけど」
事務所が同じだし、系譜が似てくるのだろうか。Vtuberという職業柄、面白そうなことはなんでもやるからだったり、同じ仕事仲間だからだったりするからだろうか。
類は友を呼ぶってやつだろう。
「良かったですね」
「うん。それで、『でらっくす』じゃないキミと上手くやれそうで良かったよ」
「そうですか?カラメさんは色んな人とコラボしてますし、誰とでも仲良くなれるのかと」
「確かにね」
否定はしないらしい。
誰とでも仲良くなれるが、深い関係まで行けるの人が中々いないのだろう。
「それと、『碧衣天』って知ってる?」
碧衣天。もちろん知っている。
簡単に紹介するのなら『でらっくす』3期生の明るい女性Vtuberだ。
見た目は、名前から察する通り水色を基調にした爽やかな人だ。
「知ってますよ」
俺がそう言うと、カラメさんは頷いた。
「天ちゃんの機嫌が良くてね。何かあったのか聞いたら、親友の『秋月ミクル』ってVtuberが人見知りを克服してコラボに踏み切ったから我が事のように嬉しいって言ってたんだよ」
「ブフォ!?」
飲んでいた水を吹き出しそうになった。
「それを聞いてね。ああそうなんだ、誰とコラボするんだろうなーって調べてみたら、相手がキミだったんだよ」
「……世間って狭いですね」
「そうだね〜」
『六次の隔たり』という概念がある。これは全ての人や物事は6ステップ以内で繋がっていて、友達の友達…という具合に辿って行けば、世界中の人々と間接的な知り合いになることができる。というものである。
これは仮説に過ぎないが、6ステップどころか3ステップでカラメさんと俺の繋がりが見えてしまったので、あながち間違いではないのかもしれない。
「ボクは元々キミのことは知ってたし、丁度いいやってんでコラボの誘いをしたんだよね」
「なるほど」
いやはやどこで繋がりがあるのか分からないものだ。
『でらっくす』と繋がりができてしまえば、間接的にほとんどのVtuberと繋がりが出来そうな気がしなくもないが、そう思うと『でらっくす』の界隈に与えている影響力の大きさを垣間見ることが出来よう。
「驚きましたね」
「そうだね〜」
緩く返事をしながら、カラメさんは頼んでいたコーヒーを口に着けた。
ちなみに、俺の皿はだいぶ前に空になっている。サンドウィッチは美味しかった。
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