コラボ配信with秋月ミクル①


 時は少し遡り、俺がお披露目配信を終えた直後のことである。


 配信を終えた俺は、すぐさまミクルさんへと連絡を取っていた。

 Vtuberとしてデビューを果たした俺が次にするのはコラボである。

 この話題性に乗っかるというわけだ。考え方があくどいって?いいんだよ。俺も楽しいしリスナーも嬉しい。一石二鳥ではないか。


『ミクルさん、俺もVtuberになったのでコラボしましょう!』


 シンプルな文言である。

 でもこれ以外なんて言っていいのか分からない。


 するとすぐに返事が返ってきた。

 暇なのだろうか。


『分かりました!よろしくお願いします!』


 ということでコラボをすることは確定的な決定事項となった。

 あとはここからお互いの予定を詰めていくだけなのだが、俺としては特に用事などないので、休日であればいつでもオッケーだ。


『コラボの日にちはどうしましょう?俺は土日であればいつでも問題ないですよ』

『了解です。では、明日などどうでしょう?あと、CHIZUさんが良ければボイスチャットで打ち合わせしませんか?』


「おっ。女の子からボイチャのお誘いだ」


 誤解しないで欲しい。

 こちとら彼女いない歴イコール年齢の童貞である。ボイチャとは言えちょっとソワソワしてしまうのが性なのだ。

 

 え?童貞すぎだって?うるせぇよ。はったおすぞ。


 それにあの包容力のある声で話しかけられたら最悪の場合、俺がバブみを感じて幼児退行してしまいかねないのだ。

 そういった懸念事項もあるので身構えてしまうのも仕方がないだろう。


 キモイ?うっせ。


「あ、あー。こんばんは」

「こ、こんばんは。CHIZUさん、ですよね?」

「そうですよ?どうしました?」

「い、いえ、この前会った時と比べて声が低いような気がして」

「んー……家にいるからですかね……?」


 リラックスできる場所にいるので声のトーンが自然と低くなっているのだろう。

 仲が良い友達とかと一緒にいたりするとテンション上がって高い声になりがちだし、この前はあのバカップル2人がいたから余計にそうなのだろう。


「そうですか……。コラボ配信ですよね。私としては明後日とか時間がありますけど、CHIZUさんはどうですか?」

「明後日ですか?全然大丈夫ですよ」

「そうですか!なら明後日の夜7時とかはどうでしょう?」

「オッケーです。じゃあ当日やる企画とかその辺も決めちゃいましょう!」


 こうして俺たちはコラボ配信でやることを決めていった。

 途中で大学の話になったり、趣味の話になったり、紆余曲折あったがかなり有意義な通話ができたと思う。


 同業者としても同い年としても心強い友人ができたのは喜ぶべきことだ。





「どうです?緊張してます?」


 さて、そしてコラボ配信当日となったわけだが。

 俺もミクルさんも配信者としてある程度の経験は積んでいるし、なんならミクルさんの方が先輩にあたるのだが、俺たちが配信をするという行為に限って今更緊張などすることはないのだ。


 だがミクルさんにとってこの配信は、人見知りの克服のためのコラボという側面がある。


「大丈夫です。自分でも驚くくらい落ち着いていますよ」


 その言葉を聞いて俺は安心と同時に驚きも感じていた。


 出会った当初のような弱々しさが感じられないのだ。

 ミクルさんの声質と合わさって聞いている方が安心感を覚える柔らかな物だった。


「では、始めますね」


 落ち着いた口調でミクルさんが言う。

 今回の配信はミクルさんの枠でやってもらうこととなっている。


「皆さんこんばんは~。秋月ミクルです。そして……」

「どうも皆さんこんばんは。CHIZUで~す」


 コメント欄

 :キタ!

 :キタ!

 :キタ!

 :こんばんは

 :こんばんは~

 :こんばんは~

 :落ち着くなぁ

 :ゆるふわな雰囲気

 


 滑り出しは上々だろう。

 というか俺もミクルさんもいつも通りのペースだし、心配することはなさそうだ。


「今日は私もCHIZUさんも初めてのコラボということで、がんばってやってみます!」

「お手柔らかに~」


 コメント欄

 :かわいい

 :ミクるんかわよ

 :気合が入ってるミクるんいいわ

 :2人とも初めてのコラボなんだな

 :どんな風になるのか楽しみ


「じゃあ、早速本題に入りますね。じゃん!今日やるのは質問コーナーです!事前告知など一切やってませんが、今から質問箱にリスナーさんたちの質問を受け付けるので、どんどん質問してください~」

「俺のところにやってもいいぞ。なかったらなかったで面白いからそれでもヨシ!」


 コメント欄

 :草

 :ええんかそれで

 :なかったら一発目で企画倒れやないかい

 :質問なんてあるに決まってんだろ

 :CHIZUにもミクるんにも聞きたいことなんて山ほどよ

 

 俺たちが質問を募集すると来るわ来るわ大量の質問たち。

 これは捌きながら配信するのは骨が折れそうだが、まあ2人もいるので何とかなるだろう。


「はい。じゃあまずは俺のところに来た質問からね。まずはこれ」


『お2人の第一印象を聞かせてください』


 第一印象ね。俺はパッと思いついたことならまあある。

 ミクルリスナーとはちょっと違うものかもしれないが。


「ミクルさんの第一印象は小動物かな」

「しょ、小動物……?」


 コメント欄

 :ほう……

 :これは面白い話が聞けそうですね

 :意外なチョイスやな

 :小動物とな?

 :分かるような分からないような

 :ママ的な印象なのかと思った


「まあこれは俺がミクルさんに初めて会った時のことなんやけどね……」


 





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