第2話 成金パンチ
俺のスキル【成金パンチ】には一つ、重大な欠陥があることが判明した。それは、スキル名を大声で叫ばないと発動しないということだ。
流石に素顔で【成金パンチ!】と叫ぶのは躊躇ってしまう。Twittorに顔出しで晒されるに違いない。なので俺は変装することにした。
オンラインハロウィンパーティー時に使ったサイバーパンク風の黒いフルフェイスヘルメットを装着しているのだ。これはなかなかの優れもので、シールド部分にLEDが仕込まれていて、発光する。かなりカッコイイ。
ヘルメットに雰囲気を合わせるために黒のモッズコートと黒のカーゴパンツ。その他、リュックやスニーカーも全てブラックで統一した。少々キメ過ぎの感はあるが、そもそもモンスターが現れたのだ。誰も気にしないだろう。
「よし、完璧だ。誰にもバレない」
姿見で全身を確認し、部屋から出た。モンスターを警戒してか人影はない。
マンション前の通りには朝一で俺が倒したワイバーンの死骸がある。めちゃくちゃ邪魔だなぁ。これから清掃業者が儲かるかもしれない。後で株を買っておこう。
少し歩いた先で目に入ってきたのは、シャッターの下ろされたスーパーとそれをこじ開けようとする緑色の小鬼──ゴブリンの集団だ。
腰布一枚のゴブリン達が「ギイギイ」喚きながらシャッターを叩いている。大分凹んでいるので、そろそろ破られそうだ。
俺は引き続きロレッタス・サブマリーナを右の拳に装着している。
「おい、ゴブリンども」
「なんだ?」
こ、こいつら……。普通に日本語話せるのか……!?
「シャッターを破ってスーパーに入るのは不法行為だ。今すぐやめて大人しく巣に戻るか、この場で死ぬかを選べ」
「ぬかせっ!」
ゴブリン達が一斉に飛びかかってくる。しかし俺にはスキルがある──。
【成金パンチ!!】
ドバンッッ!! とゴブリン達が弾け飛ぶ。ゴブリンの集団は一瞬でただの肉塊になってしまった。
広がる静寂。
辺りを見渡すと、シャッターの隙間から人の気配がする。
「もう大丈夫ですよ」
まだ壊れていないシャッターが上がり、中からスーパーの制服を着た男性が出てきた。
「ありがとうございます。助かりました」
「こんな日に出勤ですか? 大変ですね」
男は苦笑いをする。
「店長は店の状況を確認するように。って本部から指示があって……」
流石、日本人だ。こんな時でも会社に忠実。
「お疲れ様です。では──」
「ちょっと待ってください! お礼をしたいので」
一度店内に戻った店長はバタバタと袋に入った何かを持ってくる。
「これ、珍しい苺なんです。よろしければ食べてください」
「商品じゃないんですか?」
「大丈夫ですよ。私が払っておきますから」
そう言って押し付けられたレジ袋の中には、大粒で白い苺が入っていた。確かに珍しい。一粒千円以上しそうだ。
「なら、ありがたく頂きます」
全身黒づくめのサイバーパンク野郎が片手に苺をぶら下げた状態で、パトロールは続く。
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