スキル【成金パンチ(値段=攻撃力)】を得た俺、高級腕時計でモンスターを撲殺する

フーツラ@発売中『庭に出来たダンジ

第1話 タイムラインがおかしい

 俺が家から出なくなった最大の要因は、出る必要が無くなったからだ。


 まだ二十代だった頃、俺は普通に働いていた。今みたいにテレワークなんてありゃしない。当たり前に毎日電車に乗って通勤していた。


 俺の働いていた会社はいわゆる事務機屋で、当時は複合機を売りまくっていた。しかし紙を馬鹿みたいに出す時代なんていつまでも続く訳はない。営業のノウハウを溜めたらさっさと転職するつもりでいた。


 その一方で、俺は日本円の価値にも懐疑的だった。何も考えずに貯金するなんて愚かだ。だから、ボーナスは全て投資に回していた。株と外貨と仮想通貨。綺麗に三分割。


 そしてある年、仮想通貨が暴騰した。先ず、主要なコインが三十倍近くまで跳ね上がった。


 俺はすぐさま売り払い、それを草コインと呼ばれるマイナーコインに全ベットした。この時は少々頭がイカれていたのだ。しかし、それが功を奏した。


 俺が全ベットした草コインは僅かな期間でその価値が五千二百倍にまで膨れ上がった。


 毎日脳汁が止まらない。


 俺は慎重に売り抜き、まさしく巨万の富を得た。税引き後でも余裕で十億り人だ。


 俺はサクッと会社を辞めた。


 そして地方都市のマンションを買い、引き篭もりの生活を始めた。


 仮想通貨からは手を引き、投資は株と不動産をメインにした。また、ちょうどその頃から俺の成金趣味が始まった。


 最初に手を出したのは高級時計、ロレッタスだ。今まで手が出なかったものが余裕で買える。俺は物欲を満足させるために目についたロレッタスを買い漁った。


 酒にもこだわった。それまで飲んでいた安物のウィスキーはやめて国内の長期熟成ものを蒐集した。オークションを荒らしまくった。ジャパニーズウィスキーの最高峰、山垣の55年だって俺の酒セラーの中にはある。もちろん、未開封だ。


 他にもスニーカーやフィギュア、現代アート。金で買えるものは何にでも手をだした。普段暮らしているマンションの隣の部屋は俺の成金趣味で埋まっている。



「さて、何か面白いネタは……?」


 今日も朝起きてPCのモニターを眺めていた。Twittorに映画のような滑らかなCG動画が投稿されている。


 鳥を撮影していると思ったら、それは徐々に近づいてきてやたらとデカい。ファンタジー作品でよく見るワイバーンに見えた。


 別の動画では醜い豚の顔をしたモンスター、オークが女性を追い回していた。


 マンホールから人の胴体よりデカいミミズが現れて車と衝突していた。


 スケルトンの集団が墓場で行進していた。


 とにかく、俺のタイムラインはモンスターで溢れかえっていた。


「なんだ? 急に……」


 流石におかしい。リプライの反応がマジだ。


 慌ててテレビをつけると、どの局も緊急特番をやっている。


「地球に異変? 世界中にモンスターが出現だと……!?」


 馬鹿らしいと思ったが、公共放送まで大真面目にモンスターについて報道している。そしてもう一つ気になるトピックが。


「ステータスを確認してください……!?」


 アナウンサーが必死に叫んでいる。モンスターに対抗するにはステータスを確認してスキルで戦ってくださいと。


「ステータス」と呟くと、左の手のひらに文字が浮かび上がる。


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 HN  :未設定(影山聡太)

 レベル:1

 スキル:成金パンチ

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「な、成金パンチ……!?」


 流石に心にグッとくるものがある。自分でも成金だとは思うが、スキルになるとなんだか胸が痛い。それに、一体どんなスキルなんだ?


【成金パンチ】の文字をタップすると、説明が浮かび上がった。


『手に持ったモノの値段を攻撃力に変換出来る。※値段はその時の市場価格』


 うん? つまり高価な物で殴れば攻撃力が跳ね上がるってことなのか?


 俺はPCデスクの上にいつも置いてあるロレッタスの腕時計を手に取った。ロレッタス・サブマリーナ。これを今オークションとかで買えば百五十万円は下らない。ダイビングなんてやったことないが、名前がカッコいいので集めている。


「これで、攻撃力百五十万?」


 ナックルダスターよろしく、ロレッタス・サブマリーナを拳に装着する。


 試してみたい気もするが、流石にマンションの壁を殴って穴でも空いたら大変だ。何処かに手頃なモンスターはいない──。


「グルアアァァァ!!」


 なんだ!? 唸り声のした方を向くと、窓の外で巨大な鳥のようなものが翼をはためかせている。これと同じものをTwitt orで見たぞ……。


「ワイバーンか?」


 俺はたまにおかしくなることがある。普通は躊躇ったり恐れたりする場面で、その逆に振れてしまうのだ。つまり……。


「やってやらぁ!」


 ベランダに飛び出して、ワイバーンと対峙する。俺を獲物と認識したのか、口から涎を垂らしながら大口をあけて首を伸ばしてくるが──。


【成金パンチ!】


 ドバンッッ!! と弾け飛ぶワイバーンの頭。巨体がマンション十三階の高さから落下していく。覗き込むと、幸い下には誰もいないようだ。


「すごい攻撃力だ……。さすが、ロレッタス・サブマリーナ」


 俺はこの日からモンスターとの戦いを求めて外出するようになる。

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