第13話 バレちゃった――三雲麻沙美視点――

「はあ……、絵梨おねえ様が余計なこというから、優ちゃんにバレちゃったじゃない」


 私は自宅へ帰ると、部屋の机に突っ伏していた。


 よくよく考えてみたら、今日あった出来事は恥ずかしいものばかり。


 普段、私が優ちゃんって呼んでるのもバレちゃったし、彼の腕も掴んでしまった。

 おまけに手を繋いで職員室まで行くなんて……。


 ああ、ほんとに恥ずかしいわ。


 でも……、元はといえば昨日、絵梨おねえ様から優ちゃんのことを聞かれたのが原因なのよね。


 あれは部活動中。


「麻沙美、お前はユウと同じクラスだろう。どうだ、あいつは皆と仲良くやれているのか?」


 なんてことを聞いてくるから、私どう答えていいかわからなくて。


「えっと……そうですね。優ちゃんはあんな感じなので……あまり人付き合いが得意ではないといいますか……ボッチです」


 ああ、私のバカ! 真っ正直に答えちゃったじゃない。


 でも、そんなこと絵梨おねえ様はわかっていたみたいで。


「フッ……やはりな。家では学校のことを全く話さんから訝しんでいたが、中学の頃と同じか」


「いえ……あのう、それ以上です」


 ……いやいや、なんで私、全部喋っちゃうのよ。

 これじゃあ、告げ口したみたいじゃない。


 流石の絵梨おねえ様も、ショックだろうなと思ったけど、やっぱり。


「あの頃以上…………か」


 暫しの沈黙。

 いやキツイって。


 ただ、絵梨おねえ様は何か考えがあるらしく、私に頼みごとをしてきた。


「そうか……なら、お前に頼みがある。明日のお昼休み、ユウを文芸部の部室まで連れてきてくれないか。私が言うと逃げるだろうから」


 そんな弱気なことを言う、絵梨おねえ様。


 でも、どうするつもりだろう。


「は、はい。それはいいのですけど、優ちゃんを呼んでどうされるのですか?」


 だから、私にはその意味が分からず、尋ねてみた。


「もう一度文芸部へ誘ってみる。城俵だけじゃなく、旗瀬川にも声を掛けるから、この意味わかるな」


「はい……、生方先輩ですね」


 部長の城俵さんだけでなく、二年生の旗瀬川先輩までとなると、それしか無いと思う。

 時々、私が図書室の様子を見に行くと、あの人コッソリ優ちゃんを見てたし。

 返却された本を返しに行くついでってのはわかるけど、露骨よね。

 まあ、私も他人の事いえないけど……。


 でも、それだけじゃない。


「ああ、そうだ。あいつは本気らしいからな」


「わかっています」


 もちろん私もわかっている。あの先輩は本気で優ちゃんを……。


「なら、問題ないな。色仕掛けだろうが何だろうが構わぬ、と言っておいた。ユウもあれで男だから、それで記憶が戻るかもしれん」


 って、嘘っ! 優ちゃん大丈夫よね。


「ん、心配か?」


「はい、生方先輩は、そのう……」


「ははは、まあ、あのデカさだからな。私でも参ってしまうかもしれん」


 いや、笑ってる場合じゃないでしょう。

 優ちゃんは、絵梨おねえ様の弟なのよ。


 そんなことでいいの?


「心配は要らん。ユウの拗らせ具合は半端じゃないからな。昔はどんな垂らしになるか心配したもんだが、今はアレだ」


「そうですね。あの頃は三人で優ちゃんを取り合っていて、あの日も……って、すみません」


「いや、いい。辛かったのはお前たちも同じだからな。だが、私は本当にあの頃の記憶を取り戻して欲しいと思っている。優の忘れている、をな」


絵梨おねえ様……」


 そう、優ちゃんは私たち三人を覚えていない。

 部分的記憶喪失なんていうのだろうか、お医者様も理由は分からないみたいなんだけど……。


 それでも他のことは覚えているし、生活にも困らないので、そのままにされている。


 けど、生方先輩も優ちゃんの記憶を取り戻そうと、必死なのよね。

 なりふり構っていられない気持ちもわかるし、私もどうにかしたいと思うけど。


 ただ、問題は……。


「でも、いいのか。もしユウの記憶が戻ったとして、お前たちの誰が選ばれるかは分からないのだぞ」


 そう、そこなのよね。


 あの事故の後、優ちゃんから私たち三人だけの記憶が抜けていた。


 その理由を私たち三人のうち誰かに気持ちがあって、他の二人に遠慮しているんじゃないかって考えたのだけど。


 それが誰か分からないから、みんな不安なのよね。


「でも、私は昔の優ちゃんに戻って欲しいです。たとえ私を選んでくれなくても、今の優ちゃんは見ていられないから」


「そうか。生方も同じようなことを言っていたが、絶対に譲らないとも言っていたな」


「なら、私も負けません。だって、優ちゃんが大好きだから」





 はあ……、なんであんなこと言っちゃったんだろう。


 結局、一緒に帰ってくることは叶わなかったけど、たぶん何も話せなかったわよね、きっと。

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